小説推敲補助ソフト「Novel Supporter」で芥川龍之介6作品を比較しました
小説推敲補助ソフト「Novel Supporter」を使って、芥川龍之介の6作品を比較しました。
「Novel Supporter」(c) 2017 Masakazu Yanai
https://crocro.com/pc/soft/novel_supporter/
比較したのは「羅生門」「鼻」「芋粥」「地獄変」「杜子春」「トロッコ」です。特徴や共通点、相違点を調べてみました。
(本文は青空文庫より)
①文の長さ 「地獄変」は長い一文が多い。
「時系列分析」では、漢字含有率や文章の長さ、台詞比率などの推移がグラフ化されます。
その中で一文の長さを見てみると以下のようになりました。
比べると「地獄変」に80字以上の長い文が多いことが気になったので、なぜ長いのかを考えました。
◆作品が長いから、一文も長いのか
地獄変は6作品の中では一番長く、約26339字です。作品の長さが一文の長さにつながるのかと考えましたが、そういうわけではなさそうです。
こちらは夏目漱石『行人』のグラフです。『行人』は22万5千字ほどの作品ですが、全体的に水色で0~40字の短文が多めです。
作品の長さは文の長さに関係なさそうでした。
◆一文が長いのは「地獄変」の特徴か
「地獄変」は、大殿様に仕えてきた人物の一人称の語りで物語が進みます。
他5作品は、三人称です。一人称の語りのために文が長いのかを考えてみました。
本文を一文引用します。
仮説1)読点で文章がつながって長くなっている
作品全体の「。」の数に比べて「、」が多いほど文が長いのではと思い「、」「。」の数を調べてみました。
地獄変
「、」1289
「。」470
断然「、」が多くなっています。ですが芋粥も見てみると
芋粥
「、」1148
「。」401
比率は同じくらいでした。
芋粥は長い一文が多くないので、地獄変にはまた違う理由がありそうです。
ちなみに吾輩の一人称で語られる夏目漱石『吾輩は猫である』は
「、」6773
「。」7486
こちらは「。」の方が多かったです。
(補足:『こころ』「、」3643「。」4654
『行人』「、」4818「。」6146)
結論:読んだ印象では「、」で文章が長く続いていそうですが、「、」「。」の数では調べられませんでした。
仮説2)丁寧語が多い
例に挙げた引用文でも、「ございます」等丁寧な言葉が多い印象でした。丁寧な言葉がくっつくと文章も長くなるのではと考え、「ございます」「御」に絞って使われる数を調べてみました。
「ござい」で本文検索をすると、301件ありました。
接頭語「御」は179使われていました。
芋粥(14590文字)だと「ござる」等が27で、「御」は6でした。
総文字数の違い(地獄変は26339字)により芋粥の数を倍にしても地獄変の数には及ばず、地獄変の「御」「ございます」の数は多いことが分かりました。
仮説3)語り手の推察・感想が入る
同じ文例)「大方足でも挫いたのでございませう、」
一人称のこういった推察や感想がくっつくとさらに長くなりそうです。
まとめ
地獄変の一文が長いのは、一人称の語りの物語で「ござる」「御」等丁寧な言葉の多用、語り手の推察が入るためと私は考えました。
②台詞比率 「鼻」で台詞がー(ダッシュ)で書かれている。
グラフで、ピンクのところが地の文、黄緑のところが会話文です。
「鼻」の会話文が少ないのが気になりました。
本文を見てみると、会話がカッコではなくダッシュで書かれていました。
カッコに入った台詞もありますが誰かとの会話ではなく、言った内容が文章の中に埋め込まれる形でした。
その分ダッシュの数も多く、作品全体の文字数が同じくらいの羅生門と比べて4倍使われていました。
「鼻」34
「羅生門」8
ダッシュで会話が書かれていたのは、6作品では「鼻」だけでしたが
他に調べた芥川龍之介62作品中「手巾」「煙草と悪魔」の二つもダッシュで書かれていました。
三作品はどれも1916年の作品のようです。そのころの作品は、ダッシュも使ったのでしょうか。同じころの「芋粥」(1916年)は「」書きなので、わかりませんでした。
③単語集計 副詞「勿論」が使われている作品が多い。
「使用単語集計」では多く使われている単語を調べられます。
「副詞」をみると「勿論」がどの作品にもありそうだったので、調べてみました。
「勿論」の数
羅生門 6
鼻 6
芋粥 6
地獄変 2
杜子春 3
トロッコ 2
芥川龍之介以外の作家も「勿論」をよく使うのか、気になったので調べました。
◆夏目漱石
夏目漱石で調べた8作品では「もちろん」より「無論」がよく使われていました。「もちろん」が使われている例は、会話での台詞が多かった印象です。
他の方も見ていきます。
今回見たのは上の表に載せた作品だけで少ないですが、上から発表年順に並べています。
島崎藤村の「破戒」では「無論」が多くなっていますが、「夜明け前」では勿論の方が多くなっています。作品によって使い分けられているのか、時代が古いほど「無論」が多いのか、もっとたくさんいろんな方の作品を調べるとわかりそうな気がしました。
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