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男性医師がマンモグラフィを体験して分かった、「ギリギリ限界」の痛みとは?

私は放射線科医です。マンモグラフィを用いた乳がん検診を勧める立場ですが、実際に受けたことはありませんでした。男性である自分がマンモグラフィを受ける身になるとどんな気持ちがするのか、そしてその痛みをどのように感じるのか、どうしても知りたくなったのです。女性の皆さんが経験する痛みや不安を理解し、少しでも寄り添いたいと思いました。さて、どんな体験になるでしょうか。


マンモグラフィとはどんな検査か

皆さんは、マンモグラフィという検査をご存知でしょうか。乳がんを見つける目的で行われる、レントゲン撮影の一種なのですが、乳房を平たく伸ばして撮影するために、最大120N(ニュートン)という力で圧迫します。
これは12キロのダンベルを乳房の上に乗せた感じで、かなりの重さですよね(お米の大きな紙袋が10kgですからそれ以上です)。この負荷に耐えられる女性もいる一方で、強い痛みを感じる女性や、なかには倒れてしまう女性すらいます。

マンモグラフィ検査による乳房圧迫

マンモグラフィ検査の痛みと課題

少なくとも、ある程度の我慢が必要な検査ということになります。痛いという声をよく聞くので、医師としてなんとかしたいと思っていました。痛みや不安で検査を避けてしまう方がいることを考えると、心苦しい思いです。

痛くない乳がん検診「ドゥイブス法」の開発

そこで私は、6年余り前に、世界で初めて、痛くない乳がん検診をMRIで実現しました(無痛MRI乳がん検診)。自分が開発した、無被ばくでがんを発見できる、ドゥイブス法(DWIBS法)という方法を使うのです。ちょっと変わった名前ですよね。

ネーミングの由来と反省

皆さんは全員、お父さんに「それをしなさい!」と言われたことがあるでしょう。英語では “Do it!” です。「ドゥイブス」の最初のところが同じ発音なので、世界中の人にわかりやすいからと、外国人に勧められました。
ただ、肝心の日本人には覚えにくく、ちょっとネーミングに失敗したかなと反省しています。

ドゥイブス法の名前の由来 ー  Do it!

ドゥイブス法の特徴と普及

このドゥイブス法を用いた無痛MRI乳がん検診は、造影剤なしで行うため、通常の乳房MRI検査と異なり、注射の痛みや、漏れる可能性はゼロです。ですから造影剤によるアレルギー反応の可能性もまたゼロになります。
また、乳房を挟まないので、その痛みもありません。さらに服を着たまま受けられる(見られない)ように、私が着衣撮影方法を発明しました(世界初)。つまり、裸になる必要をなくしたのです。

これらの点が女性に支持され、これまでに4万人が受けてくださいました。痛みや不安から検査を避けていた方にも受けていただけるようになったのです。精度もとても高いことがわかりました。

痛くない・見られない

いよいよマンモ体験!

しかし、「痛くない」ことが女性にとってどれほどの意味を持つのか、はっきりと理解できていない自分がいました。

実際のマンモ体験のない男性医師が、無痛MRI乳がん検診を「痛くないですよ」と勧めても、どこか説得力に欠けるのではないかと感じていたのです。

女性の皆さんが感じる痛みや不安を、医師として本当に理解するために、自分自身がマンモグラフィを体験することを決意しました。

マンモグラフィ受診の決意と準備

当社の女性技師がアルバイトをしている病院にお願いしたところ、女性の院長先生が快く受け入れてくださいました。院長先生に感謝申し上げます。
せっかくなので動画で記録を残すことにしました。まずは皆さんにご挨拶です。

マンモ体験のリアル

いよいよ撮影になると、上半身裸になります。男性なので恥ずかしさは少ないはずですが、胸を女性技師さんに掴まれて伸ばされるのは、なかなか慣れない経験で、やはり恥ずかしかったです。検査だから仕方ないと理解しつつも、緊張しました。

撮影は、まず左右の乳房別々に、上下方向の圧迫で撮影しました(合計2回)。技師さんが手際よく透明な板で挟んでくれました。最初に機械に自動である程度挟まれ、その後、120ニュートンになるまで、ダイヤルを技師さんが回して圧力を強めていきます。このときの様子を動画で示します(実際には上半身裸で撮影しましたが、皆様にご覧いただけるよう、ケープを羽織ったようにいたしました)。

「思ったよりは痛くない」と後からは思いましたが、録音を聞くとそれなりに痛がっていますね。特に120ニュートンの力になったときは、早く撮影して開放してほしいと強く感じました。時間的には5秒ほどですが、終わるとホッと息をつきました。

次に、左右斜め方向を撮影しました(合計2回)。合計で4回圧迫するわけですが、その都度、痛みの程度は違いました。挟み方や乳房の柔らかさによって感じ方が異なるのですね。これは体験しないとわからない感覚だと思いました。

撮影後、胸(皮膚)は赤くなっていました。これをみて、たしかに強い力で圧迫されているのだと目が丸くなりました。単純圧迫だけでこんなにはっきりくっきり真っ赤になるなんて。これは想像を超えていました。

体験して分かった、ギリギリ限界の痛みとは?

私自身は、「声が出るぐらい痛かった」レベル

撮影後の私個人の感想としては、今までの経験ではなかった痛み、また「声が出るぐらい痛かった」レベル、ということになると思います。正直、また行くのは気が進まないなとは思うでしょう。でも必要だと言われたら受けるかなと思います。これは(年齢的に脂肪が柔らかくなっているであろう)私の場合であり、痛みの感じ方は人それぞれだと実感しました。

激痛の人がいることも分かってほしい

一方で、女性の中には、生理との関係などで、日頃から胸に痛みを感じている方も多くいます。特に、乳腺症のような病気があって、もともと痛い方には、この検査は到底耐えらるものではないでしょう。「すべての人に同一の痛みだと仮定してマンモ検診を勧めることに、もともと無理がある」と強く感じました。

つまり2つのグループがある

つまり、「痛みはそれほどでもない」と思う方々と、激痛で耐えられない方、の2つのグループが存在する、という理解をすると良いように思いました。私の経験した痛みの強さは、その両者をともに想像できるようなものだったと思います。

【受診理由のリアル】
痛みを感じる人が多いことは、2024年10月に受診した1500名あまりの方のうち、受診理由に「マンモの痛みが辛いから」と書かれた方が24%(約1/4)もいたという事実でも裏付けられます。「母に勧められた」「TVを見た」のように、なにを書いても良い欄に、あえてこの書き込みがあったことを考えると、理由としてかなり大きい部分を占めることが伺えます。
このうち、過去のマンモ検査時に「失神した・血圧が下がった・貧血になった・検査後に数日痛みが残った」など、重篤な症状の経験を訴えた方は5名(0.3%)でした。
なお、生まれて初めての乳がん検診として無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)を選ばれた人は全体の約1/3です。乳がん検診の痛みを知らない世代が1万人以上生まれたという計算になります。

2024年10月に無痛MRI乳がん検診を受診した方の受診理由

同じ重さでも、胸が小さいと圧力は大きい

ニュートン(N)という単位を調べてみると、ほぼ「重さ」の概念です。乳房の上に12kgのおもりを乗せることは誰でも同じですが、小さな胸の場合、同じ重さでも、面積が小さいぶん、圧力は強くなります。ここは担当技師が調整してくれるはずですが、技師の技量や配慮、また「ニュートンという単位」をどの程度理解しているかによって、受診者が受ける圧力は大きく変わると思います。

医師としての成長と今後の展望

今回の体験で、女性の皆さんが感じている痛みや不安を少しでも理解できた気がします。患者さんの思いや痛みを理解することは、医師としてとても大切なことです。
先程述べた、痛いかどうか(自分の体験として)知らないのに「痛くないですよ」と述べてきた自分の中のもやもやが晴れた感じがします。これからは、自分の体験をもとに、受診された方の気持ちにより一層、寄り添えると思いました。

無痛MRI乳がん検診が世の中に登場したことで、マンモグラフィの痛みで受けられなかった方肌をあらわにすることに抵抗がある方にも、受けてもらえるようになりました。術後の方(乳がん術後、豊胸術後)の方も受けられます。被曝がゼロなので、若い方でも受けられます(とくにお母さんが乳がんの方)。

費用が2万円と高額になってしまうのが課題ですが、自治体からの補助もすでに4箇所で実現しています。この場合、支払金額が安くなります。

- 4つめの自治体(秋田県仙北市)の事例 -
原資となる予算は、ガバメントクラウドファンディングによる寄付で集められました。

マンモグラフィは現在無料で受けられる制度があります。これは先人の努力によるもので、実にありがたいことですね。最初はすべて有料だったのです。

無痛MRI乳がん検診も、より多くの方に受けていただければ、いつか、より大きな声が形成され、将来的に皆さんに費用負担なしで受けていただける方向に近づきます。その未来を作るためにも、受診者の皆さんの協力も得ながら、努力を続けていきたいと思います。

痛みや不安を抱える女性の皆さんに、少しでも安心して検診を受けていただけるよう、これからも真摯に取り組んでいこうと思います。男性の皆さんも、大切なパートナーや家族の健康のために、ぜひ関心を持っていただければ幸いです。


マンモを体験した医師:高原太郎プロフィール


Memo

CC:上下方向の撮影のことです。医学的には「頭尾方向撮影(とうびほうこうさつえい)」(Cranio-Caudal)と言います。
MLO: 左右斜め方向の撮影のことです。医学的には「内側斜位撮影(ないそくしゃいさつえい)」(Medio-Lateral-Oblique)と言います。
病変の立体把握のためには、直行する2方向(つまり、上下方向撮影と、完全な左右方向)で撮るのが自然ですが、実際には傾けます。大胸筋が斜めに走行しているので、このようにすると撮影する乳房が掴みやすいからです。このMLOを用いることにより、死角が最も少なくなる効果があります。
マンモグラフィは、乳房を引っ張りだせない部分が死角になります(この部分は映らないので、がんを見逃すことがある)。これについては、機会のあるときに皆さんにまたお知らせします。