団地テーゼ/神聖かまってちゃん 音楽レビュー(エッセイ)
結構レビューが難しいですねこれは…。
いや、いいか悪いかで言えばめちゃくちゃいいです。音的に弱いとかそういうのではない。
ただ、これもうほぼベストアルバムなんですよね。有料会員がのみが聞けるデモを含めると、新曲は墓だけ!まあ、夜のブランコも今作の為に書き下ろされた曲だけど。なので大ファンの自分にとっては、「デモより良くなったか?」という争点でしか聞けないという…。
後もう一点。リリースから5年空いた事によって曲が溜まり、ギチギチに詰め込んだ結果統一感がまあない。これは「バラエティ感を見せる」という良さとも繋がってるんだけど…。前作の児童カルテは曲の繋がりが完璧で、一つの作品として圧倒的だった。そういうアルバムではないですね。
じゃあ今作の良さは何か。一言で言えば「初期衝動感」でしょうね。やりたい事をこれでもかと詰め込んだ上で、持ち味のダークさを決して失ってない。僕の戦争のヒットの後、そのままタイアップ路線に行く事も出来たと思うが、それを捨ててこの路線を走ってる訳で。やれる事、思いつく事を全て詰め込んだ、だいぶ後先考えてないアルバムだと思いますね。
そういう意味ではビートルズのホワイトアルバムに近いアルバムですね。あれも考えうるアイデアを散々詰め込んで出来た怪作。
それとコンセプト。このぐちゃぐちゃなアルバムに「団地テーゼ」というタイトルをつけた事が素晴らしい。全ての曲をひとつの団地に入れる、という残酷さ。苦しみも悲しみも狂気も団地の中。でもひとつひとつの曲は間違いなく個性を放っていて、どこも画一的じゃない。画一的なものに対するアンチテーゼと読み取るべきか。それとも、団地の中から産まれる音楽を無視する世間へのアンチテーゼと読み取るべきか。とにかく、このタイトルとジャケットで一気にアルバムの輪郭が浮かび上がってくる。の子さん、最近アルバムタイトルつけるの上手くない?児童カルテといい、幼さを入院させてといい。
後はデモと比べて良くなった曲が多い、という事。明確に良くなったのはプシ子と1999年の夏。前者はもっと気持ち悪くなったし、後者はバンドらしい快活なサウンドが夏らしい。特に後者はわざと荒いアレンジにする事で、小さくまとまってない感じを与えている。魔女狩りも迫力増してる。そういう意味ではこのアルバム作った意味は間違いなくある。
そう、このアルバムで神聖かまってちゃんはかなり理想的な成熟を見せている。変に大人しくなる訳でも、あの頃に永遠に置いていかれてる訳でもない。サウンド面では成長しながら、初期衝動をその胸に残している。神聖かまってちゃんがこんなにきっちり成長するなんて、誰が予想しました?
だから変な話、次のアルバムが楽しみですね。曲のストックもそんなに無い中で、何を見せてくるか。新メンバーのユウノスケもより馴染んで、より素晴らしいスタジオワークを見せてくれると思う。成熟の先の円熟を、その凶暴な初期衝動を保ったまま叩きつけられるか。このバンドならやれると思います。
色々と言いましたが、バンドとしての成長を感じさせる名盤ですね。ぜひ!ぜひ!聞いてみてください!
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