スピッツのコナンタイアップ、「美しい鰭」が灰原哀過ぎる(エッセイ)
全人類を騒がせたタイアップ。そう、劇場版名探偵コナンの主題歌をスピッツが担当するというニュースだ。
これ本当に驚いた。だってコナン映画ですよ。しかも黒の組織が登場する注目度高い映画ですよ。正直ビーイングの誰かだと思ってたし、そう予想してる人が大半だったと思う。
で、ほとんどの人は歓迎ムードだったけれど、一部の人はやっぱり懐疑的な目線を向けていた。スピッツとコナン、合うの?という目線だ。それはそうだと思う。スピッツの大ファンである自分も、初めてこの話をネットで聞いた時は??!!?!?という感情になった。これで合ってない感じだったらスピッツ叩かれるのかな。それは嫌だな。そういう感情で予告編を見た。
スピッツの皆さん。ごめんなさい。皆さんのことを少しでも疑った僕が馬鹿でした。美しい鰭、最高です。深い海の美しさを思わせるサウンド、映画によく合ってます。これからも一生ついていきます。新しいアルバムのひみつスタジオ、もう予約したよ。
けど語りたいのは歌詞だ。この歌詞は凄い。フルで出ていないので語るのもどうかな、と思ったけれどちょっと語らせてほしい。素晴らしすぎる。コナンを理解しすぎている。
歌詞の具体的な話に入る前に今回の映画について軽く触れておく。今回の映画「名探偵コナン 黒鉄の魚影(くろがねのサブマリン)」は、灰原哀と黒の組織をテーマにした作品だ。青山先生が書いた年賀状で灰原哀が主役になる事が名言されていたし、その年賀状にジンとウォッカがいたのでこれは確定事項だ。作中最も人気のあるキャラをフューチャーしている時点で、期待は否が応でも高まる。舞台は八丈島の犯罪データセンター。タイトルでも察せられる通り、海や泳ぐという事も重要なキーワードになってくるだろう。予告でも船に乗るシーンやスキューバっぽい格好で泳ぐシーンが挿入されていた。
一応、灰原哀についても軽く説明しておく。黒の組織という殺人も厭わない謎の集団の元科学者で、コナンが小さくなった薬を作った張本人でもある。自殺を図り薬を飲んだ結果、自分も小さくなり、今はコナン達と共に黒の組織と戦っている。最初期の灰原は、どこか孤独を望んでいるような態度で、周りを避けていた。しかし、コナン達との交流によって徐々に態度に変化が現れ、今では好きなサッカー選手の動向に一喜一憂する普通の女の子になっている。この灰原の心の変化も、名探偵コナンという作品の見どころだ。
…以上、簡単に前提条件について触れた。詳しくはコミックスを読むなりなんなりしてくれ。では、歌詞を見ていく。まず、明かされている部分のみ全て文字起こしする。
強がるポーズはそういつまでも
続けられない分かっているけど
優しくなった世界をまだ描いていきたいから
流れるまんま流されてたら
抗おうか美しい鰭で
壊れる夜もあったけれど自分でいられるように
いやぁ…。灰原哀やん。これもう、灰原哀やん。凄すぎる。一言も灰原哀って言ってないのに灰原哀やん。
具体的に見ていこう。「強がるポーズはそういつまでも/続けられない分かっているけど」これもうねえ…。「強がるポーズ」これもう灰原哀なんですよ。素直になれない子でねぇ。けど、素直になれない自分に対して許容できない部分もあって。毛利蘭の事を人気者のイルカ、自分の事を海の底にいる意地悪なサメって例えるんですよ。もうこの部分だけで灰原哀というキャラクターを説明できてる。
「優しくなった世界をまだ描いていきたいから」ここでポイントなのは「なった」なんですよ。つまり、かつては世界は優しくなかったんです。お分かりですね。黒の組織にいた頃です。最愛の家族を奪われ、研究を奪われ。絶望して自殺を図った彼女にとって、世界は美しくなかった。だから、自殺によってその世界を描く事を一度辞めたんですね。けれど、彼女は運良くその先があった。そして、その先の世界は灰原哀にとって「優しくなった」訳で。見ず知らずの子を助けてくれる阿笠博士といい。爆発の危険を顧みずバスの中に来てくれるコナンといい。どんな態度を取っても友達でいてくれる少年探偵団といい。そんな世界だから、「まだ描いていきたい」と言えるようになったんですよ。これが「優しい世界」だったら灰原哀じゃなかった。けれど、「優しくなった」にした途端、灰原哀が浮かんでくる。この日本語の微妙なニュアンスを完全に使い分ける男、草野マサムネ。好きだ。結婚してくれ。
「流れるまんま流されたら/抗おうか美しい鰭で」ここも黒の組織との関係が念頭に置かれてる訳ですね。流れるまんま流されたら、つまり自分の意思を強く持たずに黒の組織に協力し続けた。しかし、今の灰原は違う。自分の意思で黒の組織に刃向かい、抗う。その姿は、大きな潮の流れに逆らってジタバタと泳ぐ魚のようなものだ。黒の組織は強大で、抗う事は死のリスクを高める事になる。しかし、それでも自分の意思を貫いて抗い、ボロボロになる鰭を草野マサムネは美しいという。美しい鰭、と聞いた時我々が想像するのは傷ひとつない博物館に飾られるような鰭かもしれない。しかし、草野マサムネからするとそれよりも抗う事で傷だらけになった鰭の方が美しい、という訳だ。「輝くほどにブサイクなモグラのままでいたいけど」と歌ったあの頃と、草野マサムネの価値観は何も変わっていない。この部分を聞いて、コナンとスピッツは合わないかもと思った自分を恥じた。灰原哀の姿は、スピッツにしか歌えない。そう思ってしまうほど元々親和性は高かったのだ。
「壊れる夜もあったけれど自分でいられるように」ここもねぇ。「自分でいられるように」だって。黒の組織は自分を持たない。メンバーはコードネームを持ち、上からの命令に従う。そんな黒の組織の頃と対比させるような「自分でいられるように」。自分が自分でいるために、抗う。そのためにボロボロになったり壊れる夜があったりする事を美しい事だと肯定する。「壊れる夜」は天国へのカウントダウンを思い出した。灰原哀が最愛の姉が残した留守番電話を夜な夜な聞くエピソード。黒の組織に見つかるリスクについて咎められると、感情を露わにする灰原哀。リスクは分かっていても、姉の声を聞かずにいられなかった。居場所を求めて彷徨う彼女に、「灰原さんの席はそこだよ!」と明るく伝える探偵団。今の灰原にとっての「自分」は、黒の組織にいた頃の姿ではない。阿笠博士と住み、小学一年生として過ごしている「自分」だ。
とりあえず公開されている部分についてはこんな感じで。まあ、これは完全に歌詞に対する妄想の解釈でしかない。けれど、草野さんもそれぞれの解釈で聞いていいと言っていたので、よければ皆さんの解釈聞かせてください。
皆さん、コナンもスピッツもよろしくお願いします。映画とニューアルバム!マジでよろしく!下にリンク貼ります!
スピッツ ニューアルバム『ひみつスタジオ』 2023年5月17日(水)発売 | SPITZ OFFICIAL WEB SITE (spitz-web.com)
劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』 (conan-movie.jp)
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