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『虹を渡って』

やっぱり雨になってしまった。遠足の日も運動会の時も1日中ではないけれど、私が楽しみにしているイベントの時には必ず雨が降るのだ。

「はぁ…」

カーテンを握りしめてため息をつく私の頭をクシャクシャとするのは、同棲中の彼氏だ。今日は私の誕生日。そして入籍記念日になる予定。結婚式とかはまだどうするか考えていないけれど。

「大丈夫だよ、午後には雨がやんで綺麗な虹が見えるよ、きっと。そしたら出かけよう」

「うん……」

私より年下なのに、彼は私よりずっと大人に思える。3つくらいの差なんてささいなもので、同級生と変わらない感覚のバイト仲間だった。出逢った時、私は大学2年生で、彼は高校2年生。付き合うきっかけになったのも雨の日だった。

学年が違うけれど彼とは同い年の、さだまさしが大好きな弟だったら「それは私がまだ神様を信じなかった頃〜」とギターを抱えて歌うに違いない。そんな「雨宿り」な展開ではなかった。それ以上にロマンチックだったと思いたいのが乙女心。

3月から4月、本格的な春に向かう時期に降る雨を「催花雨」という。花が咲くのを促す雨だ。「菜種梅雨」も同じような意味らしい。国文科にいてもそんな言葉には無縁で暮らしていた私。急な雨に降られた時に雨宿りした駄菓子屋の店先にいた彼が、この言葉を教えてくれた。

「卒業式でスゴい悲しくてたくさん泣いちゃったんだよね。中学の時もだけど」

感受性が強いんだね、ってからかわれているとしか思えない慰めを言わないところも好きだなぁ……彼の好きなところを一つ一つ考えていたら、気持ちが明るくなってきた。なんて単純なのかしら!

「ほら、ここ読んでみたら?」

彼が雑誌のコラムを指差した。そこには『雨の日の結婚式は幸せをもたらす』というタイトルで、6月の花嫁をより幸せな気持ちにさせてくれる話が書いてあった。

『……神さまがいる場所と私たちがいる場所を結ぶ唯一のもの、それが雨です。雨そのものが神さまからの祝福。天から降り注ぐ雨粒は神さまが遣わした天使なのです。新郎新婦が流す一生分の涙を神さまが流してくれるというという言い伝えもあるんですよ。……』

「一生分の涙ってどれくらいなのかしら?」

「気になったのはそこなの?」

「だって……嬉し涙だったら神さまにはあげたくないもん!」

本当は嬉し涙だけじゃなくて、悲しい涙も辛い涙もあげたくない。どんな涙も乾くまであなたと一緒にいたい。そして睫毛にかかる虹をいとおしく見つめたい。

果たして彼の言う通り、午後には雨が上がった。この部屋に戻ってくる時には、ちょっと違う自分になっているのかも。

「誕生日おめでとう」

あらためて彼に言われて抱きしめられてキスをして……目をあけたら綺麗な虹が見えた。


Happy End 
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読んでいただきありがとうございますm(_ _)m
「いい夫婦の日」なので、時期ハズレではあるけれど、6月の花嫁・入籍記念日の話を。
言い伝えはいろんなところで読んだり聞いたりしたものです。
タイトルは懐かしい天地真理ちゃんの歌から\⁠(⁠๑⁠╹⁠◡⁠╹⁠๑⁠)⁠ノ⁠♬