ある小説家の秘書日記(6)
某月某日
某文芸誌から依頼がきたのだが、先生から「断ろうと思う」と言われてびっくりする。
この文芸誌とはすでに20年近いお付き合い。
「こんなにもお世話になってる方の依頼を断ったらダメよ、お受けしなさい」と言う私に、先生は「去年はここでたくさん書いた。今年はこのシリーズはもう書きたくない。休みたい」と駄々をこねる。
「書きなさい!」「休む!」と二人で言い争う。
中学生のとき、コバルト文庫で大好きなシリーズの新刊がなかなか出ないのに、その作者の新シリーズが始まったりして「なんで未完なのに新シリーズ始めるのよ。終わらせてから次を書いてよ」とモヤモヤしていたけれど、こういう事情があったんだろうか。
某月某日
先生、某文学賞の選考委員の一人に任命される。
選考委員には他にどんな作家さんがいらっしゃるのかしら?と確認したら、私がデビュー作から追いかけている大好きな女性作家さんがいらっしゃった。
狂喜乱舞する秘書。「先生、サインもらってきて~」とお願いする。
「いいよ」と言ってくれる先生は、もしかしてすごくいい人なのかもしれない。
某月某日
先生、小説家の方々のある集まり(飲み会)に参加。
主催者の方に「秘書さんもご一緒に」と誘われるものの、現在、娘が受験真っ只中。母が飲んだくれるわけにも(お酒、飲まないけど)いかないので秘書は欠席。
でも、行きたかったな。
某月某日
娘の受験もあり、先生のサポートを怠っていたせいか先生の原稿を書きあげるスピードが激減してる。
その中でも、最後まで書き終わってはいるのだが矛盾があったり書き足りないところがあったりで、何度も〆切を延ばしてもらってるのがA社の原稿。
「書いても書いても終わらん!」と先生が言ってるのをきいたので確認したら、当初の予定より原稿枚数は倍に膨れていた。何故、そうなる!?
先生にきいてみる。
「作品の具体的なアドバイスをしてほしい?それとも今は手放しで『あなたは天才よ!』って根拠のない自信を与えてほしい?」
「後者をお願いします」
う~ん、先生、かなり参ってますね。
久々に、二人で映画でも観て美味しいもの食べに行く?