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「御用改メ」第二話

〇1.環境管理課(夕)

机の上を整理する石井。その傍らに宮下が直立不動、土方は自席に掛けてくつろいでいる。

【石井】
「ふ~ん。(書類をまとめ上げ)ひと通りレクチャーは済んだってわけだ。―で、あんたは納得できたの?」

【宮下】
「ずっと自分で否定し続けてたんです……」

〇2.(回想)宮下の実家にある自室(夜)

大汗をかき、うなされながらベッドで寝ている宮下少年。不意に目を覚ます。

【宮下(M)】
「僕には見えるのに、みんなには見えないものの存在を」

血まみれの老婆が布団の上から覆い被さり宮下少年を見つめている。

【宮下少年】
「……⁈」

〇3.(回想続き)宮下の親戚宅(昼)

宮下少年が玄関先で両親と共に葬儀に参列している。

僧侶による読経が行われている奥の部屋では、棺を前に家族が悲しみに暮れている。

健康そうな男の遺影。笑顔。

遺影を見つめる宮下少年。ふと肩に誰かの手が置かれて振り向く。

【宮下(M)】
「夢なんだ。幻覚なんだって」

宮下少年の脇に立つ、痩せこけた遺影の男。口から泡を吹いて垂れ流しながら宮下少年の肩を掴んで顔を覗き込む。

【宮下少年】
「(半泣きで男を睨み返し)……」

(回想終わり)

〇4.環境管理課(夕)

 石井と土方が、宮下の告白に聞き入っている。

【宮下】
「我慢したけど、小さな頃はやっぱり怖くて突然大声出したりしちゃって…… それで学校でいじめにも遭ったし、親に病院へ連れてかれたりもしたんです」

【土方】
「ここじゃ、お前のその力が必要だ」

【石井】
「そういうこと」

【宮下】
「(吹っ切れたように)……捜査の現状を教えて下さい」

【石井】
「現場付近の谷地頭って地名でわかると思うけど、昔、あの一帯は湿地だった。ついこの間、残ってた唯一の沼が埋め立てられてね。新しい商業施設を建てるとかで」

【宮下】
「知ってます。住んでるの割と近所なんで」

【石井】
「犠牲者は三人とも、そこの建設作業員。だから表向きは作業中の事故ってことにしてる」

【宮下】
「どうやって?」

【石井】
「うちらの事情を知ってる検視官もいる」

【土方】
「張り込んでしっぽを掴んだのが昨日だ。人を襲ったのは、腹が減ってたっていうより棲家を追い出された怨みじゃねぇのか?」

【宮下】
「次にどうするかですね。今は相手も警戒してるでしょうし」

【土方】
「おびき出しゃいい」

【石井】
「羅城門の鬼は七日後に腕を取り返しにくるけど、実際はもっと必死なんじゃない?(不敵な笑みを浮かべる)」

【宮下】
「はい?」

〇5.ファーストフード店内(夜)

宮下と石井が従業員の待つカウンターを前にして立っている。

【宮下】
「(喰い入るようにメニューを見ながら)どれも美味しそうですね」

【石井】
「まさか、ここ初めて⁈」

【宮下】
「初めてです。一人で外食するの、あんまり好きじゃなくて」

【石井】
「―って言うか、地元でしょ?! マジ信じらんない」

【宮下】
「そうですか?」

【石井】
「―わかった。奢ってあげる」

【宮下】
「いいですよ。そんな……」

【石井】
「今日だけだし。うまいんだから。ここのジンギスカンバーガー。(従業員に)ねぇ?」

【従業員】
「(にこやかに)ありがとうございます」

【宮下】
「じゃ、お言葉に甘えて……」

【石井】
「セット二つね。テイクアウトで」

【従業員】
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

従業員はキッチンの奥へ入っていく。

【宮下】
「石井さんは、いつ環境管理課に配属されたんですか?」

【石井】
「4、5年前かな」

【宮下】
「希望したんですか?」

【石井】
「山野内さんに引っ張られた。祖父がアイヌエカシでね。あたしは、そのシャーマンの血を引いてるから。そういった意味じゃ、実家が神社で神主の資格持ってるあんたと似たようなもん」

【宮下】
「そうなんですか。―立花さんは……」

【石井】
「(話をさえぎり)あんた、銃は?」

石井が何気なく上着のポケットに手を突っ込む。

【宮下】
「あんまり……得意じゃないです」

【石井】
「9㎜でしょ? 明日、銀のやつ渡すから全部交換しといて」

【宮下】
「銀のやつ?」

【石井】
「あいつら、鉛じゃこたえなくてね。知り合いの牧師に特注して作らせてんの。銀の弾」

【宮下】
「は、はぁ……」

【石井】
「そうだ! あんた、お神酒作れる? 他にも使える装備品が欲しくて」

【宮下】
「使える装備品?」

【石井】
「銀の弾に聖水と粗塩」

【宮下】
「祈祷ならできますけど……」

【石井】
「じゃ、明日持ってくる。お酒」

紙袋を二つ持った従業員がキッチンの奥から出てくる。

【従業員】
「お待たせいたしました。こちらが北海道ジンギスカンバーガーのセット2点になります。どうぞ~」

【石井】
「どうも。(二つの紙袋を受け取り)あんた、あれも頼めばよかったんじゃない? チャイニーズチキン(壁にあるメニューを顎で指し示す)」

釣られた宮下が思わずメニューのほうを見る。

石井はこっそりとポケットからニタッウナルペの手首を取り出すと、素早く紙袋の一つへ入れる。

【宮下】
「(振り返り)いいです。美味しそうだけど。そんなに食べられませんよ」

【石井】
「そ? じゃ、お勘定」

〇6.ファーストフード店の玄関(夜)

宮下と石井が店内から出てくる。

【石井】
「はい、これ(紙袋の一つを差し出す)」

【宮下】
「(紙袋を受け取り)ごちそうさまです」

【石井】
「じゃあね。お疲れ」

【宮下】
「お疲れ様です」

宮下と石井が解散し、二手に分かれて去っていく。

物陰に潜むニタッウナルペ。二人の様子をじっと窺っている。

【ニタッウナルペ】
「……」

<続く>

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