「身のほどを知れ」第七話
○1.駅前
通勤ラッシュで人の行き交いが多い。
制服姿の沙織と夏海の二人が仲良く連れ添ってやってくる。
【夏海】
「あんた、ケガ治んの早くない?」
【沙織】
「だって大した傷じゃなかったもん」
【夏海】
「あれが⁈ あんた、おかしいって!」
【沙織】
「(笑顔で)いいじゃん、別に! もう治ったんだから」
沙織と夏海は、自動改札を通って駅の中へ入っていく。
○2.駅の構内
楽しそうにおしゃべりする沙織と夏海が、ホームへ向かうエスカレーターへと向かう。
挙動不審な背広姿の会社員。二人の後を付かず離れず歩いている。
○3.駅のエスカレーター
夏海、沙織、会社員の順で上の階へ向かっている。
夏海が何遍も沙織を振り返っては話をし、それを沙織は嬉しそうに聞いている。
【会社員】
「(緊張し)……」
沙織たちの様子を窺う会社員。スマホを隠し持っている。
【沙織】
「(けらけら笑いながら)それ、ヤバくない?」
【夏海】
「でしょ~。だからさ……」
会社員が、こっそりとスマホを沙織のスカート下へかざす。
【夏海】
「でね、そん時に……」
【会社員】
「(興奮し)……」
刹那、やにわに屈み込む沙織。会社員と顔を突き合わせる。
【沙織/紅葉鬼人】
「お前には人としての誇りはないのか?」
【会社員】
「(ぎょっとして)⁈」
【夏海】
「(身を乗り出し)おい、てめぇ‼ 何してんだよ!」
夏海を軽く制止する沙織。瞬時にスマホを持つ会社員の手首を掴むと、捻りながら立ち上がる。
【会社員】
「いたたたたっ‼」
駅の中層階に着く夏海と沙織。会社員を連行する。
【会社員】
「放せ! 放せよ‼」
会社員が殴り掛かろうとするが、沙織は掴んでいた手首を更に捻って脱臼させる。
【会社員】
「あぎゃっ‼」
会社員がスマホを足元へ落とすと、夏海は間髪入れずに踏み潰す。
○4.駅の中層階
辰巳と沙織が会社員を隅へ追い込んで詰め寄る。
ひっきりなしに通り過ぎていく人々はチラ見こそすれ、素知らぬふり。
【夏海】
「キショいんだよ、てめぇ‼ 変態エロオヤジ!」
【会社員】
「う、う、うるせぇ‼」
会社員は夏海に鞄を振り上げる。
沙織がノーモーションでフリッカージャブを会社員の顎へ軽く打ち込む。
脳震盪を起こす会社員。その場にへなへなと崩れ落ちる。
【沙織/紅葉鬼人】
「世も末だな」
【夏海】
「⁈(沙織の顔を覗き込む)」
【沙織】
「何?」
【夏海】
「何、今の⁈」
【沙織】
「別に。ヤマンバパンチ」
【夏海】
「……あんた、マジでヤバくない? どうかしちゃってるって」
【沙織】
「ヤバいの定義によるかな」
SE)構内放送『間もなく電車がまいります。危険ですから、黄色い線の内側までお下がり下さい』
【沙織】
「あ、電車来たよ。早く行こ」
沙織が、ホームへ向かう階段を駆け上っていく。
【夏海】
「あ、こら!」
夏海は慌てて沙織の後を追う。
○5.駅の踊り場
隅の壁にもたれ掛かって気絶している会社員。側には鞄と潰れたスマホがあり、道行く人々の好奇の目に晒されている。
【久米仙人】(声)
「好色を恥じることはない。お前の気持ちはよく分かる」
【会社員】
「(気絶したまま)……」
【久米仙人】(声)
「どうだ? わしと組まぬか?」
【会社員】
「う……」
【久米仙人】(声)
「そうだ。それでいい」
薄っすらと目を開ける会社員。既に久米仙人(年齢不明)と一心同体になっている。
【会社員/久米仙人】
「……リベンジだ」
<終わり>
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