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歌えないオッサンのバラッド-序章-あとがき

あんたはなにかの作品を作りきった感覚ってやつについて味わい直すことなんてあるかい?

「歌えないオッサンのバラッド」は学生だったとき以降だからだいたい四半世紀ぶりのまとまった小説になったんだよな。

その間にいろんな出来事があったし、それに伴う経験や意見が作り上げられてきたってのはあると思う。

いまでも小説に限らずに「やべぇ。気を抜くと普段使わないような漢字交じりの表現になっちまっている」なんてこともある。

例えば、さっき書いた「経験や意見が作り上げられてきた」なんてのは、気を抜くと「経験や意見が醸成されて来た」なんて書きたくなっちまう。

確かに外部刺激を受けて自分自身の感覚や意見が育っていったって意味をふくめると、醸成のほうがより多くの情報を持っているんだけれども、そもそも会話の中で「醸成」なんて言葉をチョイスするやつってレアだと思うんだよな。

だから「作り上げられてきた」という込めたい意思を一部切り捨ててでも読みやすさを取る方が、結果として伝わりやすいんじゃないか。
そんなふうに思いながら書いていたんだよね。

今回は、歌えないオッサンのバラッド-序章-という作品を振り返ってみる回だ。

ちっと俺の反省会に付き合ってくれよな。

主人公「田中」は主人公であり得たか

「あらすじ」の記事を読んでくれたヒトならわかると思うけれど、田中は物語の結果を左右する様な能力を発揮することにしていた。
なんつーの?強制的にリサやトール、タイゾーの心をつなげてしまうという荒療治。

でも、実際に書いてみると、そんな能力は作品の邪魔になりこそすれ、物語の伝えたいことってのをぼやかしてしまうと感じたんだよね。

あんたが、最初から読んでくれたのなら、感じてくれているかも知れないけれど、田中ってさ、基本は自分が抱えている案件について、なんかしらの不満みたいなものを慢性的に感じ続けているやつだと表現したつもりなのね。

ただ、リサが現れてから、そんな自分の悩み事とか不安とかへの意識に行ってしまって、眼の前にいる困っているヒトのことを考えるのに、自分の考える力を全部使おうとしてしまう。

そんな「お人好し」的な立ち位置で田中を描いているうちに、もしかしたら田中ってのは俺を含む「歌えないオッサンのバラッド」を読んでくれているあんたの代弁者にならんとならん、って思い始めたんだよね。

そのためには下手に特殊能力を持たせても、それはそういう能力を持った特別なやつがいたから出来たのであって俺たちとは関係ないって表現になってしまう。

だから田中を「普通」のやつにしたんだよね。

たぶん、その方がまとまってたと思うだろ?
思ってくれるといいなぁ。
思ってくれないと困るぞ。
#作り手エゴの三段活用

トムとの色分け

まあ、何にしろ「特殊能力」を奪うことで、また別の問題が出てくる。

トムとの棲み分けだ。

タカはポジティブオーラでその場の重苦しい雰囲気が作り出す不安を「課題」に変える意味をもたせる事が出来る。
ただ、それを論理的な思考展開じゃなく、感覚でやっているタイプだ。
いわゆるコミュニケーションお化けってやつだな。

イメージ的には田中やトムと比べると10歳くらい若いイメージで書いていたんだけれども、完全に三人は対等な立場でものを言い合っていた。

その意味で田中とトムはタカに一目を置いているって感じだな。

対して、田中もトムも言葉で相手のことを考えるタイプだ。
その意味ではキャラが被っているんだよな。

そこで俺が考えたのが言葉に乗せるモノの違いが個性の違いになりえるんじゃないかってことだった。

トムは状況の整理をするために必要な情報を引き出す役割、田中はタカとトムの意見に共感できたらその共感をそのまま言葉にすることで、トールたちに揺さぶりをかける。

結果としてトール、タイゾー、リサは肚を割って話す流れに巻き込まれていく。

トムが扉の在り処を探し、タカが扉が空いたときの覚悟をその場に雰囲気として持たせ、そして、田中がその扉を「開けさせる」って構造なわけだよな。

ママと言う個性

もう少し困ったのがママと言う存在だった。
結局は「序章」では彼女のイメージを掴みきった感じが出来なかったってのは反省点かも知れない。

ただ、声のイメージだけは出来てるんだよなぁ。

倍賞千恵子さん。
もしあんたが、キャラクターに声を当てるとしたら、どんな声をイメージするんだろうな。

よかったら、そんなことも聞かせてくれよな。

さて、あんたはどうだった?

この「歌えないオッサンのバラッド」を楽しんでくれたかい?



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