[プロット][小説][バラッド]-序章-あらすじ②
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前回までのあらすじはこれね。
リサの歪み
ママが注文を受けてカウンターの向こうで何かのカクテルを作り始める。
しばらくすると、ジントニックが運ばれてくる。
最近の若いやつはジントニックあたりがお好みなのかとどこかずれたことを考えている田中。
もう、じぶんのグラスも半分くらいになっていたので、ママに追加でバーボンを今度はロックで頼んだ。
若い女性が一口飲んだのを見計らって、トムさんが最初と同じ柔らかな声で問いかける。
「で、何から逃げたいんだい?」と。
その言葉を皮切りに若い女性がポツリポツリと話始める。
いわく、彼女が勤めている会社はいわゆるベンチャーで成り上がった会社らしい。
その会社が大きくなり始めた頃に彼女は入社し、目の前に広がっている熱気に満ちた職場に圧倒されていたのを思い出していた。
最初の数年は覚えることばかり。
先輩たちも誉めてくれたり叱り飛ばしてくれたり、笑ってくれたりしていた。
そんななか、新たなプロジェクトに彼女のトレーナーだった4歳年上の男性がプロジェクトの発足にあたりどういう人事構成で取り組むべきかについてオフィスのはじっこの小さな会議室、通称「お仕置き部屋」でプロジェクトリーダと話しているのを彼女は聞いてしまった。
「………小泉くんは向こうでの作業を中心にさせてもらった方が良いんじゃないかと考えます」
先輩の声がそういっていた。
彼女、小泉リサはその言葉を聞いた瞬間に頭が真っ白になってしまった。
「自分はここでは必要とされていない」
あんなに一緒に泣いて笑って怒って徹夜してやってきたのに。
私は必要とされていない。
たしかに入社からこっち、自分は教わってばかりだ。
誰かの役に立った記憶がない。
「そう思ったら、みんなで頑張っていたこと。そして、みんなで笑いあっていた頃と皆さんの笑顔が重なって見えちゃって」
リサはそういう。
じっとリサを見つめるトム。
「しゃあねぇか。田中さんよ。いつものあれ、やって見てくれよ」
「うええ?また辛いやつじゃん、きっと」
「まあ、しゃあねえか。このまま泣かれてても困るしな」
トムがその女性、リサに向かって話始める。
「いいかいリサさん……で良いんだよな?
あんたの話は、ちっとばかし歪みみたいなものがあるように思えるんだよ。
根拠?ああ、そんなもんはないよ。ただの勘さ」
勘だと言われてリサは少し驚く。
自分自身、自分の感情になにかの歪みがあるように感じられたからだ。
そこでタカが会話に割り込んでくる。
「どうだい?リサさん、ちっとその歪みの理由ってやつを暴いてみないかい?」
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