俺たちの本棚

エリア88

子供たちに戦争という状態に目をむかせたくなったら。

この漫画は個人の感情をフィルターに戦争という状態を非常によく表していると思われる。

中東の王国アスラン。
砂漠に覆われたその名を持つ国がこの物語の舞台だ。
その舞台で行われている血みどろの内戦。その外人部隊に所属する主人公。

来る日も来る日もカレンダーをバツ印で埋め、ただひたすらに任期の3年間が終了する日を夢見続ける。

作者によれば、この物語はベトナム戦争まっただ中で流れてくるCMを源泉にしているそうだ。
そのCMの中で登場するのは異国に派兵されたアメリカ軍兵士。
その兵士は戦場の中、ラジオから流れてくるアメリカ国家を耳にして涙する。
このCMを聞いた作者は「日本人兵士が異国の地で「さくらさくら」を聞いたらどうなるだろうか?」と思ったそうだ。
この物語は、そんな望郷の物語でもある。

この物語は主人公の望郷の念の物語でありながら、同時に「生きること」の麻薬のような魅力についても描いている。

主人公は物語の中でこんなことを言っている。

「初めて撃墜したときは、頭の中が空白になってなにも考えられなくて…しばらくすると自分のやってることが恐ろしくなって…それを過ぎるとたまらなく面白くなる

望郷の念に駆られ、カレンダーにバツ印を付け続け、そして、最後には相手を殺して生き残る快感に支配されていく。

この姿は、ベトナム戦争から帰還した兵士たちが抱えるPTSDを彷彿とさせさえする。

単純に戦争の悲惨さを描き出すのではなく、そこに生じるさまざまなドラマはそのどれをとっても、いまだ色あせることのない名作である。

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