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遊戯王CSのジャッジについて

1 始めに

 初めましての方は初めまして,大阪を中心に関西圏でCSを開催している禿鷹(@hagetaka_ygo)といいます。
 今回は、CS運営において,最も難しいジャッジ対応について説明します。 「ジャッジとは何か」ということから「ジャッジが何を考えてその判断をするのか」ということまでできる限り説明をしますので,ジャッジについて理解してもらえればと思います。
 細かい点については,個人差・地域差があるとは思いますが,基本的な考え方は共通していますので,どこのCSでもそのまま使える考え方になっています。
 また,CS運営の総論を前回の記事(https://note.com/duelistlawyer/n/nb83b270a7e60)で説明していますので,CSを開催したいと考えている人は,そちらも合わせてご覧ください。


2 ジャッジの役割

 まず,ジャッジの役割は,簡単にいうとスポーツの審判と同じ役割になります。
 Wikipediaでは,「審判員とは、スポーツの試合をルール(競技規則)に則って厳密かつ円滑に進行・成立させる役割を担い、判定を下す人物を指す。」と説明がされています。
 このように,ジャッジの役割は,遊戯王のルールに従って,試合を円滑に進行・成立させ,起こった出来事に対して判定を下すことになります。
 これらの要素を分割すると,遊戯王のCSにおいてジャッジの役割とは
 ①ルールに従う
 ②試合を円滑に進行・成立させる
 ③起こった出来事に対して判定を下す
 という3つの要素に分割されます。

(1)ルールに従う
 当然のことですが,遊戯王の大会である以上,遊戯王のルールに従う必要があります。また,大会ごとに異なるルールが設けられていますのでそのルールに従う必要があります。
 審判が個人的なルールを持ち出したりすることはしてはいけません。
  
(2)試合を円滑に進行・成立させる
 試合を円滑に進行・成立させるというのは,例えば,プレイヤーが処理に困っている際に判断を行い,試合を進めることを助けるという場面を想像してもらえればわかりやすいと思います。
 よくある例でいえば,特定のカードをデッキから手札に加える効果を持つカードを発動したにもかかわらずデッキにそのカードがないという場面です。この場合,ジャッジはデッキを確認しそのカードを発動・処理できないことを確認し,発動前の状態に戻すということを行います。
 もし,ジャッジが何もしなければ,処理ができないため,その試合はそこで完全に止まってしまいます。そのように,試合が円滑に進行するようにジャッジがプレイヤーを手助けする必要があります。

(3)起こった出来事に対して判定を下す
 最後に,起こった出来事に対して判定を下すということも必要になります。
 これは,ルール違反に対して罰則を与えたり,処理間違いが発生した場合にどのような対応をするのかといった判断をすることになります。
 皆さんの思い描くジャッジ対応というのは主にこの役割になります。
 今回は主にこの③判定を下すについての考え方を中心に説明していきます。

3 ジャッジの責任

 ジャッジは上記のように,「判定を下す」という役割を負っています。判定によっては,試合の結果や大会の結果が変わることもあり得てしまいます。このように,ジャッジの責任は非常に重大です。そのため,ジャッジが対応を誤ったり,誤審をしたりした場合には,参加者から不満の声が出てしまいます。
ジャッジは自らの判定によって,大会参加者の運命が変わってしまうことを意識し,無責任な対応を取らないように心がけなければなりません。
 特に,大会参加者は,お金を払ってCSに参加しています。そのお金からジャッジの人件費やCS運営費が出ていることを考慮すれば,適当な対応は間違ってもできません。

4 ジャッジをする上で考えるべきこと

 ジャッジについてひと通り説明したところで,禿鷹CSでジャッジをするにあたって心がけていることを4つに分けて説明します。説明の便宜上,4つに分けて説明していますが,4つの要素はそれぞれ関係しているので,全く別の話ではありません。
 以下で説明するのは,主に罰則を与える場面を想定して説明していますが,罰則を与える場面に限らずどの場面でも応用できるものになっています。

(1)ルール違反と与えられる罰則の釣り合い

 まず,そもそも,なぜ罰則を設け判定を下す必要があるのでしょうか?
 これについては,様々な考え方があるとは思いますが,大きく分けると下に書く2つの意味に分かれると思います。
  ①ルール違反に対する罰
  ②ルール違反に対する抑止力

 ここで説明するのは,主に①に対する考え方になります。②については,文字通りです。参加者に「罰則があるからルール違反をしないようにしよう」と思わせる程度の話ですので,そこまで重要ではありません。

  
 さて,ルール違反に対する罰と書くと,ルール違反を行ったプレイヤーに対して無制限に罰則を与えてもいいでしょうか?
 もちろん,答えはNOです。
 例えば,「自分のデッキを誤ってひっくり返してしまった」プレイヤーに「失格処分」を与えてもいいでしょうか?
 おそらく,今読んでいる全ての方がそれは罰則が重すぎると思っていると思います。そして,その判断は正しいと思います。
 次に,「リミットレギュレーションを意図的に守っていないデッキで参加した」プレイヤーに対して「注意」のみを与えてそのまま大会を進行するというのも許されるでしょうか?
 これに対しては,罰則が軽すぎると思われると思います。
 これらのように,ルール違反に対しての罰則は,その罰則に見合ったものでないといけません。ルール違反に対しての罰則は,重すぎても軽すぎてもいけません。
 上記の例では,「自分のデッキを誤ってひっくり返した」プレイヤーには「注意」または「警告」を与え,「リミットレギュレーションを意図的に守っていないデッキで参加した」プレイヤーには「失格処分」が妥当だと思います。
 このように,ルール違反に対する罰則は,プレイヤーが行ったルール違反の重さに応じた種類の罰則を与えるということ位なります。

 よくこの点に対しては「うちの地域ではこうだから」といった話が出ますが,本当にそのルール違反に見合った罰則でしょうか?
 もし,前例があるからといっただけでジャッジ対応をしているのであれば,ジャッジ対応として十分ではありません。
 なぜならば,参加者には与えられた判定に対して質問をする権利がありま,ジャッジにはなぜその対応になったのか説明する義務があるからです。
 単に「前例がそうだから」という回答では,ジャッジの説明義務を満たしていません。
 少なくとも,「○○という違反については○○だから,○○という罰則になります」という説明が必要になります。


 例えば,サーチ対象不在にもかかわらず,サーチカードを発動した例では,「この場合,相手がサーチを止める妨害を使う可能性があったため,今回は警告とします。」といった説明をジャッジは必ずしなければなりません。逆にその説明ができないのであれば,そのジャッジの判定は間違っています。
 「前例では〇〇だから」という説明は,前例の当時は正しい判断かもしれませんが,それが現在の時点でも妥当するのかということを吟味してからでないと意味のある説明にはなっていないことをジャッジ側は理解する必要があります。

 これが,ルール違反と与えられる罰則の釣り合いということです。
 この点がジャッジの判定において,最も重要な点と位置付けられるので,ジャッジ対応について悩まれている方はこの点を考えてみてください。ルール違反の程度に見合った罰則を与える意識で判定をしていけば,他の要素はある程度クリアできます,
 逆にいえば,この点についてクリアすれば,参加者から何を言われても気にする必要はありません。

(2)平等性

 次に,罰則等のジャッジの判定は平等でないといけません。
 同じ状況で判定を求められた場合,ある参加者と他の参加者とで判定が違うということは許されません。
 これを徹底できないと,そのジャッジは人によって対応を変更していることになり,ルールに従うというジャッジの役割を全うできていないことになります。

(3)一貫性

 ジャッジの判定は大会内で一貫していないといけません。
 予選1回戦と決勝戦で判断が変わるといったことは,CSのルールに定まっていない限りしてはいけません。
 一貫性のないジャッジ対応は,場面によって場当たり的な対応をしている判断され,参加者からの信頼を失います。

 ちなみに,参加者側からの不満として,「前の大会と今回で対応が違う」ということがありますが,これについては一貫性には反しません。
 なぜなら,大会を経るごとに主催者の考え方も変わり,ブラッシュアップされていきます。また,環境によっても考え方は変わりえますし,その考え方の変遷は合理的です。その結果,主催者がこっちのルールの対応がいいと判断した結果,大会ごとに対応が変わるということは至極当たり前のことです。

(4)公平性

 ジャッジの対応は,ルールに則り公平に行われたものでなければなりません。すなわち,ジャッジの対応は全てルールに従う必要があります。
 多くのCSでは,特段,ジャッジの対応についてのルールを明確にしていないことが多いですが,その場合は遊戯王公式が出している罰則規定等に従うことになります。
 「うちのCSでは~」という言葉を使う人もいますが,罰則については重要な点ですし,可能な限り事前の説明が必要になります。
 禿鷹CSでも,基本は遊戯王公式の規定を参考にしており,規定とは違う対応を行う点はイザジン等で可能な限り公開するようにしています。

5 実際に起こった判断が難しい場面

 実際にあったジャッジの対応を例としていくつかあげておきます。
 これは実際に対応した結果とそこに至る思考過程を書いているだけなので正解ではありませんし,個人的にはよくなかったというところもあります。
 ジャッジをする人は,上で説明した4つの要素を考えながら自分ならどう判断するのか考えてみてください。

(1)無限泡影の縦列問題

 ジャッジ対応として,カードをどこで発動したのかというのは,かなり面倒な部類に入ります。
 「無限泡影」というカードが登場して以来,「相手がこちらの発動した無限泡影と同じ列で〇〇を発動したのに,場所が違うと言い張ってきます」という内容でジャッジ対応を迫られることがあります。
 個人戦の決勝戦ならいざ知らず,予選で人が多いときに一人一人張り付いて見てられないので,ジャッジからすれば「どこでカード発動したかなんて知らねーよ」と言いたくなります。
 これが実際に起きた場面では,「無限泡影」を発動したプレイヤーとチームメイトは同じ列だから無効と言い,相手プレイヤーは違う列だから効果が通ると主張していました。
 もちろん,どこで発動したかなんて私からはわかりませんし,どっちかが噓をついているとも判断できません。
 そのため,この場面では,「カードは違う列で発動したものとして扱うが,その発動したプレイヤーに警告を与える」または「カードは同じ列で発動したものとして扱うが,無限泡影を発動したプレイヤーに警告を与える」という対応を取ることにしました。
 片方の言い分を信じることができない状況ですので,一方の言い分を全て聞き入れてしまうと公平性に欠けます。そのため,言い分が通っているプレイヤーに警告を与えるという形で公平性を担保し,カードの発動に伴う確認を怠ったという理由で警告を与えることにしました。
 ジャッジ対応の結果で勝敗が変わりうるので難しい対応でした。

(2)処理間違い①

 次の例は強制効果と非公開情報に関わる事例です。
 プレイヤーSが「ライトロード・ドミニオン キュリオス」の①の効果を発動した後,②の強制効果の発動を忘れ次の処理に移りました。その後,違うモンスターの効果発動に,相手プレイヤーが「無限泡影」を発動するという形で非公開情報が公開されてしまいました。その後も処理が進んだタイミングでプレイヤーSが「ライトロード・ドミニオン キュリオス」の強制効果を使っていないことに気づき,どうすればいいのかジャッジに対応を聞いてきました。

 ドロー等の処理が行われていないため,巻き戻し自体は可能な状況でしたので,ジャッジによっては,プレイヤーSに警告を与えて巻き戻すという対応も考えられるところです。
 しかし,問題は,相手の非公開情報であった「無限泡影」が公開されてしまっているという点です。
 これによって,仮に巻き戻しをしたとしても,プレイヤーSは,その後「無限泡影」のことを念頭にプレイができてしまい,ルール違反をしたにもかかわらず,有利にゲームを進めることができることになってしまいます。
 そのため,「無限泡影」の打ち方次第で勝敗が変わりうる場合には,このルール違反によって勝敗が変わってしまうことになります。
 それらを考慮した結果,この場面では,「勝敗結果が変わりうるルール違反をしたため,プレイヤーSにその試合のシングルロスを与える」ということにしました。
 もちろん,相手のプレイヤーがジャッジにシングルロスを出させるために,指摘しなかったという可能性も捨てきれませんが,自身が使っているカードの処理を忘れて進めている以上,その使用者の違反を重く見るべきである事案だと思います。

 なお,禿鷹CSでは,片方のプレイヤーのルール違反によって,もう片方のプレイヤーの非公開情報が公開されてしまった場合には,ルール違反をしたプレイヤーにその試合のシングルロスを科すことにしています。

(3)処理間違い②

 続いても,プレイヤーSが「深海のディーヴァ」を特殊召喚した際,召喚時にしか発動できない①の効果を発動してしまい,その後,処理がかなり進んでから,相手プレイヤーが「深海のディーヴァ」は特殊召喚には対応していないと指摘し,どうすればいいのかジャッジに対応を聞いてきました。

 この場面,相手プレイヤーは,「無限泡影」等の非公開情報が公開されているわけではなく,魔法か罠が一枚セットされていた状況で,ドロー等も挟まっていないため,巻き戻しは可能な状況でした。
 (2)の事例と違い,巻き戻しが可能であり,相手プレイヤーが何らのアドバンテージを失っているわけでもないことに鑑み,「プレイヤーSが正しく巻き戻しができるのであれば,プレイヤーSに警告を与えてゲームをその時点から続行する」という対応にしました。
 相手プレイヤーからは「1枚セットしているからそれについての情報アドバンテージを相手が得ている(からシングルロスだろ)」という反論がありましたが,そのセットカードが使えたのか使えなかったのかが客観的に不明な以上,プレイヤーSがアドバンテージを得ているとは言えず,相手プレイヤーの反論には合理性がないと判断し,これを排斥し上記の対応をしました。
 個人的には,後になってから「深海のディーヴァ」の効果について指摘をするというのもおかしな話ですし,このような対応で良いかと思います。

6 最後に

 以上が,私がCSでジャッジ対応をする際に考えていることになります。
 これ以外にも考える点はあると思いますし,上記のジャッジ対応が満点というわけではありません。
 ただ,自身のジャッジ対応について,その理由が説明でき,理由が正当なものであれば,ジャッジ対応としては合格点だと思います。
 私が個人的に気づいたら加筆修正していきますが,ひとまず,この辺りを押さえていれば,ジャッジ対応として不満の出ないCS運営ができると思います。
 今回は具体的な例をあまり書いていませんが,今後,要望があれば,具体的な対応事例をまとめた記事も作成しようと思いますので,気になる方はご意見をください。
 「これはどうしたらいいか」、「これも書いてほしい」など質問や意見等ある方は、禿鷹(@hagetaka_toyger)でお気軽にどうぞ、返答後こちらの記事にも随時追記していきます。

 不満の出ないジャッジ対応というのは非常に難しいですが,考え方を理解できれば必ず改善されていきます。
 ジャッジ対応について不安がある人に参考になれば嬉しいです。

 参考になったと思ったらお小遣いをもらえるとめーちゃくちゃ嬉しいです。
 今回の有料部分は,関西のCS・杯に対する個人的な評価になります。炎上する可能性がある内容なので,少し値段を上げていますが,興味のある人はどうぞ。

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