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『THE BEAUTIFUL ONES プリンス回顧録』刊行の目的とは—編者ダン・パイペンブリング氏執筆のINTRODUCTIONより一部をご紹介。

プリンス回顧録(シール付き)

PRINCE HAD WANTED A STORY

 プリンスは、「スーパーボウルまで」の物語を求めていた。しかし、彼を失った今、彼の設定したコースから逸れることなく、そこまでの本を作ることは不可能だ。推測と省略ばかりが増えてしまう。回顧録の原稿では幼年期と思春期が語られ、デビューに至るまでの様子が描かれている。彼の記録はそこから、『Purple Rain』の頂点へと向かって、スターへの道を驀進していく。この道こそが、回顧録の核となる、と私たちは考えた。オリジン・ストーリーと呼べるだろう。「プリンスは、いかにしてプリンスとなったか」を語るストーリーだ。
 私たちは、4つのパートで回顧録を構成し、プリンスの創作過程が分かる手書きの歌詞で各パートを繋げることにした。最初のパートはこのイントロダクションだ。回顧録がどのように誕生したか、その経緯を記している。ふたつめのパートは、プリンスが回顧録用に書き下ろした原稿だ。両親へのラヴレターともいえるこのパートには、メルボルンで原稿を読みながら、プリンスが私に語った余談や挿話も加えられている。
 3つめのパートは、アーカイヴの中でも特に心を打つアイテムを掲載した。1977年12月にプリンスが始めたフォト・アルバムだ。19歳の彼はサンフランシスコに滞在し、デビュー・アルバム『For You』をレコーディングしていた。フォト・アルバムには、ワーナー・ブラザーズと結んだ最初のレコード契約から、カリフォルニアへの旅、彼が関わっていたミネアポリスのコミュニティ(彼の音楽活動を応援してくれた思いやりのある人々)のことが記録されている。数十年を経ても、そのうちの数人はプリンスの心の中に残っており、原稿の中で語られている。手書きのキャプションがついたフォト・アルバムは、プリンスの若々しい自信とユーモアに満ちている。また、心の赴くままに芸術を作る自由を持ったアーティストの、尽きることなき可能性が表現されている。アーティストは常に変容を続け、絶えず未来の自分を描き続けるものだ。プリンスが『The Beautiful Ones』に課した目標のひとつが、それを明示することであるならば、このフォト・アルバムは、デビュー当初に彼が描いた未来の自己像をはっきりと示している。フォト・アルバムは、ちょうど1978年4月に終わっている——これは、プリンスのファースト・アルバムがリリースされた頃でもある。
 最後の第4部では、後に『パープル・レイン』となる映画のあらすじをまとめた手書き原稿を掲載した。この原稿が執筆されたのは、1982年春から1983年初頭の間で、当時は映画の監督も脚本家も、タイトルも決まっていなかった。テーマ・ソングの「Purple Rain」が書かれる前の話だ。しかし彼は、映画の主題や登場人物について構想を練っており、この原稿は彼の創造的エネルギーを証明している。この頃のプリンスは、「Little Red Corvette」で初めてトップテン・ヒットを出したばかりだったが、スリルと興奮に満ちた物語に、音楽とコメディを加えた大作映画を作ろうと決意していた。話の筋は、私たちが語りあった彼の両親についての議論の延長線上にある。この原稿の中で、両親はこれまでになく彼の思考の中心に存在している。『パープル・レイン』は、プリンスを真に表現していた。彼のDNAの中にあり、彼のそのものでもあったのだ。映画にまつわる当初の構想を読めば、母と父の軋轢から、プリンスの類まれな才能が生まれたことが分かるだろう——「僕の人生におけるジレンマのひとつ」と両親の軋轢について私に語ったプリンスだが、それが創造の源となり、彼は人生を通じてその源を再訪し続けた。
 プリンスを知る人は誰でも、彼の考えを推測するのは賢明ではないと知っている。しかし彼は、本書を共同プロジェクトとして考えていた。その限りにおいて、この回顧録は、2016年の慌ただしい3カ月で私たちが始めたプロジェクトを最も忠実かつ誠実に完遂したものだ、と私は信じている。本書は、行間を読むよう読者に求めている。書かれていない言葉へと通ずる道を想像させようとしているのだ。この回顧録が、疑問に答えるのと同じくらい多くの疑問を引き起こすならば、それは素晴らしいことだ——彼は神秘のヴェールに穴を開けるつもりなど、全くなかったのだから。プリンスが生きていたら、一緒にどんな本を作っていただろうか。私はこの先ずっと、思いを巡らせ続けるだろう。本書は、回顧録の可能性をごくわずかに実現しているに過ぎない——そして、この本の存在自体が、人生を賛美している同時に、深い悲しみを表明している。本書がプリンスが掲げた使命を果たしていることを願っている。彼は、「自伝、評伝という形を取った、素晴らしいコミュニティづくりの手引書」を作ろうとしていた。私たち2人の声を融合し、目的を持って彼のストーリーを語る本だ。
 本書の目的が何であるか、もうあなたもお分かりだろう。あなたも、その目的に没頭する準備ができていますように。「創造する努力をしてみるんだ」とプリンスはある日、メルボルンで私に言った。「僕はみんなに、創造しろと言いたい。まずは自分の1日を創造してみればいい。それから、自分の人生を創造するんだ」

(書籍『THE BEAUTIFUL ONES プリンス回顧録』P54-55より)

『THE BEAUTI FUL ONES プリンス回顧録』
[著] プリンス
[編] ダン・パイペンブリング
[訳] 押野素子
【限定3,000部】
★一部ネット書店にて在庫切れの状況が続いており、ご不便をおかけしております。版元在庫はまだ僅かながらございます。下記、ネット書店、または最寄りの書店様にてご注文いただければ入手できますので、是非ご確認くださいませ。
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