頑張るよりも、ありのままで〜佐野夢果さんインタビュー
組織を1つの大きな「船」と見立て、「社会の垣根を取り払う」というビジョンに向かって、航海を続けている「D-SHiPS32」。
パラ大学祭やパラスポーツ大会、障害のある子どもと親を対象にしたキャンプなど、様々な活動を行ってきました。
私たちの活動に参加してくれた障害のある子どもたちは、どんなことを感じ、どんな未来を切り開いてきたのか。そこで、静岡県掛川市に住む車いすユーザーの高校2年生、佐野夢果さんにお話を聞きました。
学校の外にいるときのほうが、障害を意識させられた
夢果さんの障害について教えてください。
ーー生まれつきの脊髄性筋萎縮症(SMA)で、筋力の低下などが起こる指定難病です。歩けないので車いすを使っていますね。手に関しては、重いものは持てないけれど、日常動作は問題ありません。
小中高と、普通学校で生活してきたのですか?
ーー介助士さんのサポートを受けながら、普通学級で過ごしてきました。宿題を忘れて怒られて・・・みたいな(笑)。
障害があることで、普段の生活で感じていたことはありますか?
ーー学校外よりも、学校内の方がフラットな空気でしたね。小学生くらいだと先入観がなかっただろうし、「車いすのゆめちゃんが困っている」ではなくて、「ゆめちゃんが困っているから」助けてくれていた感じです。
学校の外になると、関わりがないゆえの弊害みたいなものをひしひしと感じてはいました。「障害があってかわいそう」とか、「障害があるのに頑張っていてすごいね」とか。私自身、1日中障害のことを考えているわけではないのに、意識させられてしまうのはツラかったこともありました。
キャンプが取っ払った、自分の中の「車いす」の壁
D-SHiPS32との出会いを教えてください。
ーー小学校に上がる前から大ちゃん(D-SHiPS32 上原代表)のことは知っていたのですが、小学生になって実際にお会いするようになりました。メンバーとしては古株です(笑)。そこでD-SHiPS32のキャンプ事業にも参加するようになって。お泊まりをしたり、畑に行ったりということがすごく楽しかったです。
車いすで畑に行くというのが、想像つかなかったです!
ーー何かシートを敷いて車いすでも通れるようにしたのか、どうだったのか・・・細かいことを覚えていないんです(笑)。でも逆に言うと、それくらい何も考えずに楽しめたというのがすごく大きな経験になりました。今までは「障害があるのに無理しなくていい」「障害があるのに危ないよ」という言葉や空気感をなんとなく子どもながらに感じ取っていたんです。
でも、大ちゃんに「車いすであること以上に、ゆめちゃんにしかできないことがあるはずだよ」といわれて、「私も大ちゃんみたいにパワフルで周りを巻き込んでいく存在になりたい」って思えるようになったんですよね。
考え方を変えた大きな出会いなんですね!
ーー自分自身でも無意識に障害を理由にして、出来ないと思っていたことってあると思うんです。でも、自分から外に出て行くようになったし、いろいろなことに挑戦するようになりました。医療シンポジウムでの講演もそうですし、私のことをForbes JAPANが取材してくれたり、イベントを開催してテレビに取り上げてもらったり、作文が内閣総理大臣賞に選ばれたり・・・
すごいですね!!
ーー私の中にあった壁を取っ払ってくれたのが、大ちゃんや船長(坂田)なんです。
得ようとする気づきより、何気ない気づきを大切に
イベントと言えば、去年の夏に「車いすスポGOMI」を掛川で開催しましたね。
ーー車いすスポGOMIは、街をきれいにしながら、車いすならではの視点や不自由さを体験し、バリアフリーへの理解を深めることができるスポーツです。D-SHiPS32でも開催していますけど、自分の街でもやってみたいと思った。だから自ら企画したんです。
素晴らしい企画力。やってみてどうでしたか。
ーー参加者やマスコミ、ボランティア含めて、おそらく100人を超える人が集まってくれました。車いすに乗ってみて気づくことって、道路の段差だけじゃないんですよね。コンビニの棚の上に手が届きにくいとか、エレベーターのボタンの位置がどうかとか。日常の中で車いすユーザーが感じていることを体感していただけたので、普段の生活で気にしてもらえるんじゃないかな。
また、中で印象に残ったのが、「車いすって大変そうって思ってたけど、結構楽しいね」っていう言葉だったんです。これ、すごく大事なことだと思うんです。お勉強のように何かを得ようとして得た気づきではなく、何気ない時間の中でのふとした気づきって、その人の明日からの生活に根付いていくと思うんですよね。
頑張る、ではなくありのままで。楽しみながら気づきを生み出せる空間を
いろいろなことに挑戦している夢果さんですが、次はどんなことに挑戦するんですか。
ーーまずは高校生なので、勉強を頑張って第一志望の大学に受かること。その後は・・・NPOや会社などのを自分で立ち上げてみたいですね。大ちゃんが私の可能性を広げてくれたように、自分もいろいろなバックグラウンドを持った人たちが同じ空間を共有できる場を創れるような人間になりたい。
障害だけじゃなくて、性別や国籍などをひっくるめてみんなで楽しめたら最高ですよね。楽しみながら気づきを生み出せる空間を、いっぱい作りたいなと思っています。
楽しい、は本当に生きる原動力になりそうです。
ーー語弊を恐れずに言うと、私は別に「頑張りたい」とは思っていないのです。障害があるとどうしても1人で乗り越えたり頑張らきゃいけないような空気を感じてしまうんですけど・・・頑張らないことが決して悪とは限らないじゃないですか。
障害のあるなしにかかわらず、ありのままの自分で人生を楽しめるように、人の輪を広げていきたいと考えてます。そのために頑張りたい。それが今の私のビジョンです。