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取り戻せ、学生本来の力。就職活動で学業をアピールする新たな選択肢

履修データセンターは、就職活動の常識だった「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」に次ぐ選択肢として「大学での学び」を就活のアピールに活かせる社会を目指している会社です。

 大学での履修履歴をデータ化して企業へ提供するデータベースサービスを通じ、その社会の実現を目指しています。
 学生にとって勉強は「やらなければならない」ことであり、感じた苦労や経験は社会人の仕事にも通じる部分が多いです。「自らやりたい」ことをアピールするガクチカとは異なり、客観的かつ再現性の高いポテンシャル情報となるのではないでしょうか。

 「大学での学び」を就活に活かせるようにすることで、就活市場に、そして大学教育に変革を起こそうとする履修データセンターの辻太一朗社長に聞きました。


ーどのようなサービスを提供しているのでしょうか。

 僕たちが提供する「履修履歴データベース」とは、企業の採用活動で面接をするときに、「ガクチカ」では見えなかった長所を見えるようにするコミュニケーションツールです。

 例えば会社での会議では、参加者が共通の資料を見て「今月の業績が良くなっているが、何がいいのか説明してください」と聞いたら「今月は新規顧客の獲得に力を入れました」といったようなコミュニケーションが生まれますよね。結果に対して、至ったプロセスを聞くことで納得感が生まれるイメージです。

 面接官と学生の関係においても、そのようなコミュニケーションを生み出すためのツールが履修履歴データベースだと考えています。

ー納得感が生まれるのは分かりますが、なぜ履修履歴データベースが採用面接で有効なのでしょうか。

 近年、大学教育の現場では、講義への出席が必須になってきました。2025年に卒業予定の学生約600人に、授業への出席頻度を聞くと、9割が出席したと回答しました。講義に出ないとテストも受けられなくなっているからです。昔の感覚では講義は避けられた環境でしたが、今では避けられない環境になりました。仕事も避けられない環境が多く、通じる部分は多いのではないでしょうか。

 そうした中で、履修データが採用面接で必要な人材の「見極め」に効いてきます。
 
 今までは「学生時代に頑張ってきたことは」と聞いてきました。講義に出なくてもよかったため、学業のことを聞く必要性が乏しかったからです。仮に学業の話を聞いても、勉強好きしか出席しないため「好きだから頑張った」と回答するのではないでしょうか。これでは「好きだからサークルに入って頑張りました」とアピールするガクチカと同じです。

 しかし現代では、絶対に講義に時間を使わざるを得なくなったため、学業を聞くことで確認できる資質やポテンシャルが変わってきました。

ー資質とは。

 仕事では「したくないけど、頑張らなければならない」瞬間がありますよね。
 こうした時に、どう受け止めて行動できるかという資質を確認することが、会社に入ってからの活躍を見極める上で重要ではないでしょうか。

 例えば、「奨学金を狙うために頑張って講義を受けてみよう」だったり「将来役立つ講義に出てみよう」、「効率的に講義を受けて、できるだけ楽をしよう」といったように、与えられた環境をどう受け止めて行動に結びつけるかといった資質は会社に入ってからも通じるものがあります。

ーガクチカでも、仕事に通じる資質はアピールできるのではないでしょうか。

 確かに、「私は主体的な性格です。アルバイト頑張ってきましたから」という形でアピールはできます。しかしそれでは、具体的な過去のエピソードを面接官が聞き出さなければ判断のしようがありません。

 学生も就職活動のことはよく勉強していて、どのようなエピソードが面接官に好まれるか良く知っています。脚色もしているのが実態です。2025年卒の学生に聞くと、7〜8割が脚色をしていると回答がありました。大半が脚色しているのに、学生の資質を本当に見抜けるのでしょうか。

 そこで役立つのが履修履歴データベースです。
 あらかじめ用意した学業への向き合い方のタイプを見せて、「君は学業ではどんなタイプだった?」と聞くのです。そして「なぜそう思うのか、具体的に履修データを示しながら説明してよ」と聞けば、与えられた環境でどのように取り組むのかが分かります。

 履修履歴からは相対的なレベル感も分かります。厳しい授業で良い評価が付いていれば、それだけ結果を出す力もあると推察できるでしょう。会議と同じです。昨年との比較や他部署と比べるように、相対的な講義の難しさと結果を見ながら、達成するまでのプロセスを聞くことで資質が分かるのです。

 活用も簡単で、学生にとっては学校のホームページから履修履歴データをデータベースにコピー&ペーストするだけです。30分も要しない作業が終われば、企業から「送ってください」と言われたら送るだけで済みます。企業にとっても、全てデータ化されているので同じフォーマットで見られるメリットもあります。

ー使ってみた学生の評価は。

 約600人の学生に、19種類のタイプを見せて「あなたがどれに当てはまるか5つまで選んでください」と聞くと、平均3.8個の回答がありました。つまり、誰もがいずれかのタイプを選べるということです。もちろんレベルは人によって違いますが、学生が自己分析をしていなくても資質を示しやすい簡単なやり方です。

 資料を基に考えることで、学生にとっても考えやすく、そして面接官にとっても客観的で相対的に資質に気づけるのが特徴です。

 履修履歴データを活用していない会社について学生に聞くと「大学での学びの場面が広がっていて、聞いてくれないのは機会損失だ」といった声もありました。

 企業では昔ながらの面接を続けていますが、大学は変わっているのです。企業も変わるべきではないでしょうか。

ー履修履歴データが活用される社会では、学生は本分である勉強に力を入れるようになるのでしょうか。

 今、日本の学生は世界で一番勉強していないです。どこに問題があるかと言うと、企業の採用で学業に着目しなかったからだと考えます。いい会社に就職したいと思っている学生にとっては、いい大学に入ったら終わりで、あとはガクチカを作る方が戦略的に正しいことは当たり前ではないでしょうか。こうした状況下で「学生が勉強しろ」「大学が悪い」と言っても無理があります。

 日本の学生が勉強するためには、企業が学業の行動に着目することが必要です。企業が学業に着目すれば、学生が本分である学業にも力を入れ、大学の先生も学業に力を入れるといった良い循環も生まれます。

 僕たちは履修履歴データベースを使って、なんとか良い循環を生み出そうとしています。

ー足元では約600社が履修履歴データベースを活用しています。浸透の状況をどうみますか。

 採用活動している会社は全て活用するべきです。少なくとも学業のことを聞くべきです。
 学生にとってMUST(やらなければならない)の学業で、何を考え、どう行動したのかを確認し、それ以外のガクチカではどんな意図で何をしたのかを両面から確認するべきです。

 昔はガクチカだけで良かったです。学生時代の時間は自由で、何に時間を使ったのかを聞けばよかったからです。しかし今は時間が自由ではありません。MUSTでは何をしたのか、WILL(やりたいこと)では何をしたのか、片方だけではなく、両方が必要です。
 これを確認するときに一番簡単なことは履修履歴データベースを活用することです。

ー新卒採用ではミスマッチも問題です。働くにあたって必要な資質と、ガクチカによるアピールでは齟齬が生まれることも否定できません。履修履歴データベースであれば、こうした課題は解消されるのでしょうか。

 新入社員というのは、自分のなりたい職種や行きたい部門に行けることはなかなかありません。「そんな部署興味ないですよ、この分野興味ないですよ」と思っても、勉強としてやるべき時はあるはずです。昔は怒られながらも我慢できたかもしれませんが、今は怒ることもできません。

 指導が難しい世界になった今、「やらなければならない」に対して本人がどう受け止めるのか、どう行動するかが非常に重要になってきています。MUSTの環境をどうポジティブに受け止めるかは、企業にとって絶対に知るべき領域です。

ー学業をアピールする就活文化を普及させるには、何を変えていくべきでしょうか。

 企業の採用担当者が、今の大学の変化を知ることです。「真面目だから授業に出ているんでしょう」「最近の学生は真面目だな」という固定概念を変えることが必要です。

 採用担当ほど、マーケティングの能力が低い部門はないと考えています。
 採用担当にとっての顧客である学生が今、どんな社会環境に置かれているのか興味を持っていないからです。興味を持っていれば、今はどんな講義に出る必要があるのかを知り、どのような面接に変えなくてはいけないかを考えます。
 マーケティングや営業部門では普通に考えていることを、採用部門は多くの人々が考えていないのが実情です。

ー話としては理解できますが、いざ活用するとなったらハードルが高いということはないのでしょうか。

 多くの企業に訪問し話してみると、いずれの企業でも「確かにその通りだ」と納得度が高いです。ただ、履修履歴データベースを使った面接手法が課題でした。今までは、履修履歴データをみて面接官が質問を考える仕組みでした。そのため「納得はするが、我が社の面接官では難しいだろうな」と消極的に考える企業もいました。

 それを2023年10月から変えました。学生にタイプを選んでもらい、その根拠を話してもらう仕組みです。面接官にとってもやりやすく、学生にとっても簡単です。

 タイプも企業が求めている資質を推察しやすい種類を用意しています。例えば目標達成力やバイタリティ、計画力、目標志向、好奇心、効率性、地道な努力や協調性、傾聴力。企業で必要な資質を学業での活動から見極められるようにしています。

ー今後、履修履歴データベースをどれぐらい普及させていきますか。

 僕の中では、あと3〜4年で3000社が使うと確信しています。新卒就活に取り組んでいる会社数が2〜3万社で、その1割が履修履歴データベースを活用している状態にしたいです。
 そうしたら、その数年後には1万社ぐらいに拡大しているでしょう。

 一方で溜まったデータは1社で独占することはしません。公共財として、社会に活用してもらえるように提供していきます。わざわざ似たような競合サービスを作るより、僕たちのデータを使って新たなサービスを作ってもらいたいです。

 僕たちの会社の理念は「学ぶことでキャリアを広げられる社会を作る」ことです。今までの日本は経験でキャリアを作ってきました。ですが、僕たちは学びでキャリアを広げられる社会を作りたいです。そのためには、みんなが学業に関係するデータを使えることが重要なので、データをオープンに解放します。


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