セミナーレポート 自治体DXセミナー ~誰でもできるデータ活用・はじまりは人流から~
6月15日、「自治体DXセミナー ~誰でもできるデータ活用・はじまりは人流から~」を、オンライン形式で開催しました。講師は、山口県庁より出向中の永岡が務め、参加された多くの皆様と同じ自治体目線で、DS.INSIGHTの特徴や活用方法について紹介しました。今回の記事では、セミナーの一部を、考察を交えながらご紹介します。
(文:ヤフー株式会社 永岡慎也 山口県庁より出向中)
まず初めに、自己紹介をさせていただきます。2021年4月より、山口県庁からヤフーへ出向で参りました、永岡と申します。これまで5年間山口県庁に勤めており、用地課と防災危機管理課に所属しました。用地課では、県が道路を新たに作ったり、今ある道路の幅を拡げたりするための、工事事業が担当でした。続いて、防災危機管理課では、災害が発生した際の各自治体被害情報の収集や消防庁への報告といった災害対応業務、ならびに消防防災ヘリコプターの運営業務を行っておりました。
そして今年度から、デジタル政策課付けでヤフーに出向となりました。
セミナーのテーマについて
行政のDX化に向け、データ活用を検討されている自治体の方へ、ヤフーが保有するビッグデータを可視化した分析ツール、DS.INSIGHTについて、ご紹介しました。
DS.INSIGHTとは、ヤフーの検索、位置情報ビッグデータを誰でもかんたんに可視化できる分析ツールです。今回の記事では、ツールの機能の一部で、位置情報をもとに人流を分析できるDS.INSIGHT「Place」についてご紹介します。
DS.INSIGHT「Place」の特徴
DS.INSIGHT「Place」は、ヤフーの位置情報データをもとに、特定エリアにおける人々の実態や動きをまとめて、人流を可視化するサービスです。
このサービスには、3つの大きな特徴があります。
①過去1年半から前日までの1時間単位の人流を、翌日には見られること
②来訪者の性別や年代等の属性を見られること
③見たいエリアをカスタムに特定でき、さらに、そのエリアの集計結果をURLで関係者に共有できること
セミナーでは、実際にDS.INSIGHTを操作し、デモンストレーションを行いながら、観光と防災の二つのテーマでご紹介しました。
今回のレポートでは、観光について取り上げ、「コロナ禍における観光客の推移について」というテーマでご紹介します。観光地は、私の出向元である、山口県長門市にあります湯本温泉を事例としました。
コロナ禍における観光客の推移について
長門市は、山口県の北部に位置しており、人口が約3万人の自治体です。
湯本温泉は、山口県の中で最も古い歴史を持ち、川沿いに宿泊施設や足湯に加え、カフェやレストランが立ち並ぶ、魅力的な温泉街です。また、昨年には、全国に展開する星野リゾートがオープンし、更なる注目を集めています。私も、実際に足を運んでおり、またぜひ行きたいと思えた場所でもあります。それでは、コロナ禍における長門市湯本温泉の観光客の推移について見ていきましょう。
人口ヒートマップについて
人口ヒートマップという下の図に、湯本温泉が示されています。
人口ヒートマップとは、縦横がそれぞれ125mのメッシュ単位で構成されており、そのメッシュごとに、人口の多さを色別で示したマップです。
また、人口ヒートマップで表示する期間は、絞り込みをして見ることができます。具体的には、指定した一カ月の平均、平日休日別の平均や、1日単位に加え、1時間単位でも見ることができます。過去については、前日から1年半前まで遡ることができます。
カスタムエリアの登録
ここで、長門市湯本温泉の観光地自体に、どのくらい観光客の来訪があったかを把握するためには、独自にカスタムエリアを登録する必要があります。カスタムエリアを登録することで、独自に指定した範囲における、来訪者数等を確認できます。
※カスタムエリアを登録しない場合は、市区町村単位の来訪が確認可能です
カスタムエリアの登録方法は非常に簡単です。まず、範囲の指定方法ですが、人口ヒートマップ上から、メッシュ、または円で指定します。
メッシュの場合は、地図上で表示されたメッシュを選択して、範囲を指定します。メッシュの大きさは、縦横それぞれ125mから1,000mまで変更できます。指定する範囲が広い場合は、1,000m等の大きい単位であれば、スムーズに指定ができるので効率的です。また、指定したくない範囲は、その部分を除外して選択することも可能です。
続いて、円の場合、人口ヒートマップ上から直接大きさを指定、または半径の長さを指定して大きさを変えることができます。円の大きさを指定すると、円の中に含まれたメッシュが自動で選択され、そのメッシュの範囲が指定したエリアとして登録されます。
細かい範囲や、横長に範囲を指定したい場合は、円よりもメッシュの方が指定しやすいです。一方で、駅を中心として、半径1km辺りの人流を確認する場合は、円が適しています。
今回はメッシュで湯本温泉の対象範囲を指定します。(先程の赤色で着色した部分が指定した範囲です。)最後に名前を入力してカスタムエリアの登録が完了です。
コロナ前とコロナ禍の観光客の推移
今回は、「コロナ禍における観光客の推移について」というテーマのため、コロナ前の2019年12月と、コロナ禍の2020年12月で観光客の推移を比較してみます。観光客の推移について比較するため、カスタム登録したエリア内に、どのくらい長門市以外から来訪があったかを見てみましょう。
DS.INSIGHTでは、来訪者とは別に、エリア内にいる居住者も確認できますが、今回は来訪者に限定します。
まずは、来訪者の人口推移をグラフで比較してみましょう。
緑色がコロナ前、青色がコロナ禍のものになります。1カ月を通して見ると、コロナ前の2019年の方が、来訪者数が多いと分かります。しかしながら、二つの線が交わり、またはコロナ禍の2020年方が上回っている日もあります。
コロナ禍で観光客は大きく減少したに違いない、と思われたかもしれませんが、このグラフを見ると、想定より大きく減少していないことが分かるのではないでしょうか。
ここで、先程のグラフの、12月28日以降の人口推移をご覧ください。
12月28日以降は、観光客数の差が急激に拡大していることが分かります。コロナ禍の2020年12月で大きく減少した要因としては、コロナ禍の年末年始は旅行を控えた方が多かったとのではないかと想定されます。また、12月28日から、Go to トラベルの利用が停止され、その影響を受けたこともあり、観光客が大きく減少したのではないかと推定されます。
併せて、各1カ月先の、2020年1月と2021年1月を見てみます。
先程と同様に、緑色がコロナ前の2020年1月、青色がコロナ禍の2021年1月です。
年末年始で急増したコロナ前の観光客ですが、5日辺りを過ぎると、通常時に戻っています。
ここで注目してたい点は、1月中旬以降は、二つの線が交わることなく、コロナ禍の方が恒常的に低いことです。先程、各1カ月前の12月を比較した場合は、線が交わり、時にはコロナ禍が上回っている時期もありました。しかし、1月中旬以降は、交わる様子がありません。
この要因としては、1月8日に、1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)に緊急事態宣言が発表され、当該地域からの来訪が減少したのではないかと想定されます。併せて、1月15日には、山口県が独自に配布していた「山口県プレミアム宿泊券(山口県内の宿泊施設で利用可能な補助券)」の利用期間が終了しています。この2点に観光客を大きく減少させた効果があったのかもしれません。
1時間単位の人流について
ここで、もう少し深く観光客の人流を見るため、1日単位だけでなく、1時間単位の人流も見てみましょう。
こちらが来訪者に限定した人口マトリックスです。先程と同様に、指定したエリア内の居住者は除いてます。
人口マトリックスとは、いつ、どの時間で人々が多く来訪したのか、色の濃淡で見られるグラフです。
先程確認した人口推移のグラフと同様に、1月15日以降は、色が薄くなっており、来訪者が大きく減少していることが分かります。
さらに、1月15日の1時間ごとの人流を見てみると、10~11時以降で大きく減少しています。少し細かい話にはなりますが、これは先程申し上げた山口県プレミアム宿泊券が、15日までにチェックアウトすれば利用可能であったため、観光客は15日の10~11時にチェックアウトし、そのまま湯本温泉を後にしたと推定されます。
このように、緊急事態宣言の発表や、Go to トラベルの利用停止等、ある事象が人口推移に影響を与え、どのような効果を生み出したか、クイックに見ることができます。
今回のような要因の場合、観光客を減少させる効果があることは、明白であるかもしれません。しかし、思い込みや偏見で判断するのではなく、客観的なデータを元に判断・確認することが、重要だと感じます。
他の観光地との比較
これまで、湯本温泉における過去との比較をしてきましたが、最後に、他の観光地と比較して、どのような特徴があるか見てみましょう。
もう一つの観光地として、同じく山口県にある山口市“湯田”温泉を事例とします。
※“湯本”温泉と一文字違いです・・・山口県ばかりで申し訳ございません…
山口市湯田温泉は、湯本温泉と比較して、温泉やお店の数、交通量も多い観光地です。また、近くには大学もあるため、若い世代が通う居酒屋も多くあります。
それぞれ、2021年12月の人口推移を比較してみますが、これまでと同様、居住者は除いて、来訪者に限定してます。
緑色が長門市本温泉で、青色が山口湯田温泉ですが、山口湯田温泉の方が、来訪者数が多いことが分かります。
ここで、来訪者の数だけではなく、来訪者の性別や年代に、どんな特徴があるかを見てみます。
まず性別を見てみましょう。緑色のグラフのとおり、長門湯本温泉は男女約50%ずつですが、青色の山口湯田温泉は、男性が61%と、女性に比べ男性の来訪者割合が多いことが分かります。
続いて年代別では、緑色の長門湯本温泉は60代、70代以上の来訪者割合が合計45%を占めていますが、湯田温泉では28%とそこまで高齢者に偏っている様子はなく、むしろ10代以下、20代の来訪者割合が合計28%と、湯本温泉に比べて若年層が顕著に多いと分かります。
このように、同じ温泉街という観光地でも、来訪者の数だけでなく、来訪者の性別や年代といった属性の違いを把握し、共通点や違いを、比較することができます。
皆様の地域の観光地でも、どんな人から人気があるのか、ご存知でしょうか。何となく〇〇のはず、という予想もできますが、DS.INSIGHTを活用してビッグデータから見てみると、確証できるだけではなく、新しい気付きも得られるはずです。
このように、指定した観光地の来訪者の特徴を把握することで、今後プロモーションを強化すべきターゲット層を検討することができますし、併せてこれまで各自治体でプロモーションを強化してきたターゲット層が、過去と比較して増えているかといった検証をすることも可能です。
振り返り・まとめ
これまで、DS.INSIGHTを活用しながら、山口県内の観光地を事例にあげて、観光客の人流について紹介してきました。ここで、今回活用したDS.INSIGHTの機能を以下のようにまとめます。
・特定した施設における過去1年半から前日の1時間単位の人流が見られる
・緊急事態宣言等、身の回りで起きた事象が、人口推移に影響を与えたか見られる
・来訪者数や性別や年代等を、過去だけでなく、他の施設とも比較できる
今回ご紹介したテーマは一部ですが、その他にも、コロナ対策における人流の把握や、シティセールス等、様々な行政の業務に活かせると、自治体職員として感じています。
セミナーの動画については、ヤフー・行政デジタルコミュニティというグループで配信いたします。今回の記事でご紹介できなかった、DS.INSIGHTの概要説明や、防災をテーマにしたデモンストレーションを行っていますので、ぜひグループに登録いただき、動画でご覧ください。
特に、防災テーマについては、自己紹介でもお話ししたとおり、私が出向元の山口県庁で防災危機管理課に勤めていたからこそ、DS.INSIGHTの防災面での活用機会や便利さを感じたという面があります。これからの出水時期に向けて、ぜひ活用してもらいたいと思っています。
ご自身の自治体の警戒区域等に、普段どういう性年代属性の方がいらっしゃるのかを確認し、住民はどのタイミングで避難し、その時どういうワードを検索していたのか、何を知りたかったのかを把握することで、地域防災に役立ていただけると思います。
今回のセミナーでは、人流データを可視化する「Place」機能についてご紹介いたしましたが、次回は検索情報をもとに人々の潜在意識を分析する「People」機能についてご紹介いたします。
引き続き、私が講師を勤めさせていただきますので、少しでも興味のある方は、ぜひご参加ください!よろしくお願いいたします。
皆様、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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※本記事の内容は公開日時点の情報です。
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