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人間の直感の不確かさなどについて
こんにちは、つくばに住む研究者です。
今回はデータ分析から離れ、人間の直感の不確かさについて触れてみたいとおもいます。
ここで”直感”とは、論理的な推論や詳細な分析を行わずに、瞬時に物事を理解したり判断したりする能力とします。
我々は運転や家事など、日常生活で直面する様々な問題の多くを直感を用いて対処します。なぜなら、我々の直感はたいていの場合で正確であることを経験的に知っているからです。この直感の正確さについては、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン博士も「 Thinking, Fast and Slow」の中で(熟練者の)「直感は信頼できる場面が多い」と述べています。
ところが、これらの直感が誤った結論を導く場合もあります。
誕生日のパラドックス
唐突ですが「誕生日のパラドックス」という問題をご存知でしょうか。これは人間の直感的な予測が、実際の数値計算の結果と反する例として界隈で有名な問題です。
小学校に23人からなるクラスがあるとき、「同じ誕生日」の児童が2人以上いる確率はどの程度になるか予想してみてください。
この問題に初めて挑む方が直感で答える場合、多くの方は10%以下を想像するのではないでしょうか。ところが実際に計算すると、23人のクラスではこの確率は約51%となり、半分よりも多い確率で「クラスには同じ誕生日の児童が2人以上いる」という結果になります。もしも40人のクラスならこの確率は90%近くになります。(なぜそうなるのか、細かい計算についてはWikipediaに譲ります。)
人が直感を用いて問題に答えを出そうとするとき、多くの場合で過去の経験に基づく認知バイアス(先入観)が発生します。
「誕生日のパラドックス」の問題を数学に馴染みのない人間が考える場合、多くは自分の小学校での経験や、知り合いの誕生日などを想像しながら、誕生日のパターン数の365日に対して23人という数字が小さいことから、問題の答えを過小に評価しやすい傾向にあります。この問題について事前の知識なく正解に近い答えを出せる方は、数学的な直感に自信を持って良いかもしれません。
直感が生み出す認知バイアスには様々なものがあります。ここで筆者が学生時代に学び、感心したものを2つ紹介します。誕生日のパラドックス同様に、どの問題も直感では誤りを生みやすいものです。ここでは2例だけの紹介にとどめますが、興味のある方には先述のカーネマン氏の著書「ファスト&スロー」などをお勧めします。
確証バイアス
1つ目は確証バイアスと呼ばれるものです。下に示す4枚のカードを見てください。4枚のカードは全て、
「片面には白地に数字が書かれており、もう片面は何色かで塗られている」という特徴があります。これにたいして、
「片面に偶数が書かれた全てのカードは、もう片面が赤色である」
という仮説を確かめるためには、どのカードを裏返して確認すれば良いでしょうか?
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問題をじっくり考えればわかるのですが、正解は「8の書かれたカード」と「青色のカード」になります。この問題では、「8の書かれたカードの裏側が赤であり、青色のカードの裏側が奇数」となっていれば上記の仮説が事実であることが確かめられます。検証すべき仮説に「赤色」という文字が含まれているために赤色のカードを選びやすいのですが、赤色のカードを裏返す必要はありません。仮説を支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向のことを確証バイアスと呼びます。
生存バイアス
もう1つの例として、生存バイアスを紹介します。
第二次世界大戦中、敵の射撃による飛行機の損失を抑えるために、アメリカ海軍内で会議が開かれました。任務から戻った全ての飛行機の損傷のデータを分析したところ、被弾箇所は下図のようであることがわかりました。飛行機を墜落から防ぐためには、どの部位を補強するべきでしょうか?
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直感的には「最も損傷が多い部分を補強すべき」のようにも思えます。しかし、実際に補強すべき箇所は「ほとんど損傷を受けていない部位」であるとアメリカの統計学者エイブラハム・ウォールドはいいました。なぜなら帰還した飛行機に見られる損傷は、帰還に際して影響のない部位であるからです。帰還した飛行機が損傷を受けていない部位は、損傷することで帰還することが出来ない致命的な部位であることを示します。
人間の直感は日常生活の場面では大いに役立つものですが、ときには間違いをもたらします。特に社会への影響の大きな政治的判断においては、その指標が本当に仮説の検証に役立つものであるかを含め、科学的根拠に基づくものでなければならないと思うところです。
それでは。