yosukekosakaの事件簿ー最終章ー
ついに迎えた最終章。
最後の最後まで戦い抜いた。
最後のタイトルは「グランドフィナーレ」にでもしたかったが、そうはならかった。
設けられた期日
長期戦を視野に入れていたが、相手の対応も相手の対応だし、痺れを切らしてこう告げた。
「給与の支払いについて6月中に何らかの返答をください。払えるのであれば明確な期日を、払えないのであればいつ頃までに払えるのかを回答ください。」
猶予は1週間。「6/10以降順次支払う」とのことであったので、6月中には支払ってもらえるのだと思っていたが、もはや期待はしていなかった。
相手がどう来るのか。回答なしであれば問答無用で出るところに出るつもりだ。
約束の期日を迎えた。この1週間何をしていたのだろうか。
そう思っていた矢先、1日遅れで相手側から連絡が入った。
「8月を目安に払います。」
繰り広げられる舌戦
ここに来て8月とは。しかも、未だ正確な期日など来やしない。
あれだけ言ったのに、こいつは日本語が分からないのだろうか。
いや、分かってはいるが答えられないのだろう。
「7月中に支払うことはできないのですか?8月になる明確な根拠を教えてください。会社としての責務を果たせていないし、法律にも関わる重要な問題であるはずです。とにかく明確な説明をお願いいたします。」
給与未払いは労働基準法第24条に違反する。ただ、後に知ったが、業務委託の場合、必ずしもそれが適用される訳ではないそうだ。
でも問題はそこではない。「毎月お支払いをします」と言っておきながら、どうして6月に支払われるべきものが8月になるというのだ。
あまり期待はしなかったが、とにかく説明がほしかった。
「優先順位があるためです。継続して書いていただけると判断したライター様を優先的に対応しております。」
開いた口が塞がらない。給与の支払いに優先順位などあってはならない。
それから「それにこちらが法人になってからは執筆してもらえてないので、これは個人間の話。契約書も締結していないので、支払日に関して法律は関係しません。」とも続けてきた。
確かに労働基準法は適用されないかもしれないが、完全な逆ギレである。
これでは、契約書を結ばない限り支払期日は延々と先延ばしにしても構わないと言っているようなものだ。
しかも、契約書はこちらから催促して初めて動き出したというのに。
出るとこ出たらぁ
期待はしていなかったものの、あまりにも酷すぎる対応をされ、怒りは頂点に達した。
ここからはさらにヒートアップする。
「全くお話になりません。口約束でも契約は成り立つのをご存知ありませんか?それにそれは、『契約書を結ばなければ給与の支払いはしなくていい』と言っているようなものです。業務委託に法人化もへったくれもありません。個人間でも業務委託は業務委託です。」
「支払う意思は十分にあります。おおよそ8月目安だとお伝えしたはずです。」
「明確な期日もないのに支払う意思はあると聞いて誰が納得しますか?それに、6月に支払われるべきものが8月になるということは、最初から毎月支払っていただけるという意思がなかったのではと考えますが。専門家への相談を進めさせていただきます。」
「こちらは支払うだけなので、納得されなかったらお好きに専門家とやら人に相談してください。毎月の支払いの確約とはどういう意味ですか?もう契約は終えているのですよ。」
「当初の予定では毎月支払われるはずでしたが、最初からそれが破綻してしまっている、という意味です。」
「毎月払ってますよ。たまたまこちらの都合で5月分と6月分が遅れただけなので。」
納得など、どだいできる話ではない。払う払うと言っておきながら、ここまで引っ張られてきたというのに。
それに毎月払っているというのも、おそらく嘘だ。他にも払われていないライターさんを知っている。
「たまたま遅れた」だなんてよく言えたものだ。
ここで言う専門家とは弁護士のこと。すでに相談は始めていたが名前を出せば少しは怯むだろう。そう思った私がバカだった。
強がるなら今のうち。こっちはこっちで、何が起きてもいいように準備を進めるだけだ。
ついに乗り込む
先日のこと。私用で関西方面へと行く機会があった。
関西といえば、奴のオフィスがある。しかも、ここからそう遠くはない。
時間にも余裕があったので、意を決して登記登録先の住所へ行ってみることにした。
直前まで極道物のマンガを読んでいたこともあり、「ヤサは抑えた」「カチコミじゃい」などと息巻いていた。
でも、行って何をしよう。本人を捕まえたところでどうなる訳でもないし。
ともかく、ここまで来たからにはまずは現場へ向かおう。
googleマップを片手に、周辺まで足を進めた。
閑静な住宅街、といったところか。スマホ片手にキョロキョロしている姿は、もはや不審者だ。
ただ、周辺についたものの、一向にそれらしき建物は見つからない。
まさかと思い、法務局に連絡をしてみた。
「登記登録する際の住所ってきちんと実在することを確かめてから登録するんですよね?」
「いえ、申請者が提出した資料をそのまま受理するだけで、実在するかどうかまでは確認しません。」
やられた。どうやら住民票も一緒に提出するようなのでそんな滅多な真似はできないはずだが、それでも該当する住所にはそれがない。
いてもたってもいられず、弁護士さんへと電話をかけた。こんな状況だが、何かできることはないかと尋ねた。
とりあえず本当にその住所で合っているかを確認することを勧められた。交番も考えたが、近隣住民の方がいろいろと事情を知っているかもと思い、近くの理容室へと入った。
住所を改めて確認してもらったが、
「そもそもそんな住所ないのでは。あるとすればあそこだよ。」
指さされた先には、今まさに屋根を取り壊している古びた家しかなかった。
聞くとそこは空き家で、少なくともここ2~3年は人の出入りがなかったという。
法に頼ろうとしたが
ここまで来て、重要な情報を1つ失った。
すがるような気持ちで弁護士に電話をかけたが、動いてもらうとなると最低でも10万円の費用がかかるという。
貰うべき給与の額から考えれば確実に赤字になる。
弁護士さんもそこは想像できていたようで、こちらの心中を察してか温かい言葉をかけてくれた。
でも、ただでは終わらない。
せめてもの反撃として
「今たまたま近くを通ったのですが、直接お話をすることはできませんか?」
と奴に連絡した。そんなことできないのは分かっていたので、この時点ですでに帰路へとついていた。
しばらくして
「もう契約も解除になっているのに、今さら何を話すのですか?」
ときた。
住所がデタラメであることを伝えると、デタラメな住所では登記登録できないと返してきたが、もうそんなことはどうだっていい。
何もかも終わったのだ。
「もうお金はいらないので。」
吐き捨てるように告げると、こう返してきた。
「本当にお金いらないんですか?」
ラッキー、だとでも思ったのだろうか。そこは「いえ、書いていただいた分は払いますので」の間違いではないだろうか。
とんだクズに出会ってしまったものだ。
最後に
近隣住民ならびに弁護士さんにはご協力いただいたことを感謝します。
住所が実在しないことが分かった時点で、どこかほっとした気持ちにもなった。
まるで他人事のように「怖いでしょ?」などと言ったりしていた。
どこか楽しんでいるようでもあった。全てが終わった安堵感からだからだろうか。強がりだったのだろうか。
いや、きっとこうしてこの記事をにやにやしながら書けることが分かったからに他ならない。