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『週刊DiGG』#16 -最新HIPHOP 7曲レビュー紹介('20/12/5〜12/11)-

『週刊DiGG』編集長のドラム師匠です。毎週100曲以上アップされるHIPHOPのMVの中から、12/5〜12/11に公開された7曲を厳選し、レビューをつけて紹介します。

数年後には資料として使えるよう、曲にまつわるエピソードや関連リンク、この瞬間の空気感を封入しました。奥深く味わいたい方は、【▼さらに深掘り】もあせてご覧ください。


▶︎ HIPHOPの最前線はどんな感じ?
▶︎ 手っ取り早くイケてる曲を教えて


なんて方にオススメの記事です。一緒に音の旅に出かけましょう。


※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse
とHIPHOP用語で表記しています。
※ アーティスト名に下線がある場合、TwitterまたはInstagramとリンクしています。

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|PVCMVN / RUNAWAY feat.ANDY(prod. RamboBeats) |

2020/12/05 公開

ラッパーでありつつ、“なつぱくchannel”では、カップル動画をアップするYouTuberでもある PVCMVN (パックマン)。

客演のシンガー ANDY とは、清涼感あるサマーチューン「sunlight feat. ANDY」を59万回再生させたヒットさせた相性のいいコンビ。

 ANDYの透明度の高い声で優しく歌われる「毎日Friday  毎日Friday」は、桃源郷にいるかような夢心地にさせてくれる。

PVCMVNの低めの声との対比も心地よく、YouTubeで彼女に向けた優しい表の顔とは少し違い、陰の部分、弱い部分も見せながらもポジティブに締めている。

ギターのワンループで聴かせる音色のシンプルさが、2人の歌声を引き立てる。Yo-Sea3houseなど澄んだ歌声のメロウHIPHOP / R&Bが好きな人にオススメ。


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|BAD HOP / Suicide Remix feat. Tiji Jojo, Hideyoshi & Jin Dogg|

2020/12/06 公開

2020年8月7日に発売された BAD HOP の3rdアルバム『BAD HOP WORLD』。無観客で配信されたリリースLiveでは、YZERRが「オンラインライブの正解出す」と言ったことが話題となった。(というか、やる事全てが話題になる…)

アルバムの中でも1番内向的で繊細な作品がこの「Suicide」。Tiji Jojoが「曲を作っていたとき、時事的に自殺の問題が起きていた頃で」と語るように、自殺の悲しいニュースがいくつもあった今年。

Tiji Jojoの伸びやかなフローが皮肉にも、抗えずに死へと滑り落ちていく様を連想させる。誰か手を差し伸べて欲しいと警鐘をならしつつ、自分も死ぬほどの思いで活動しているとベクトルは違えど、同じ目線の高さで語っている。

「死にたくなるほど命を 燃やしている今日
 呑み込む酒と 取り巻いている恐怖 くくる腹を」

原曲では、Verse2は T-Pablow だったが、このRemixではVerse2を Hideyoshi が、Verse3をJin Dogg という意外すぎる2人が担っている。(どういう経緯でキャスティングされたか、知ってる人教えて!)

Hideyoshiは、死んでしまった友達に弔いとして自分は頑張って生きていると伝え、Jin Doggは悲しみをかすれた声のまま記録しており、余計に切なさが増す。

3人ともフロー巧者で、どこを切り取ってもHOOKに聴こえるほど叙情的な仕上がりとなっている。


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|C4 / My Dirty (prod. B.b)|

2020/12/07 公開

函館を拠点に活動する2MCクルーC4。肌を刺すほどの冷たい北風が吹く函館だからそこ、ほとばしる情熱が熱いBoomBap。

弱さ、醜さ、汚さを全てさらけ出すVerse1の J.E.R.O 、ステージで傷ついても何度も何度も立ち上がるVerse2の DMNLL 。

麦は成長の途中で、茎を太く丈夫にするため「麦踏み」を行うが、彼らにも踏まれて強くなる生命力を感じる。

彼らがどんな花を咲かせ、実をつけるのか楽しみである。やってやろうという面構えにも注目して欲しい。

「開けるぜこのWAY 他から見たら汚ねえ
 でも貫けばサクセス 結果良ければOK」

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|CHOP AROUND / How many mistake|

2020/12/08 公開

くぐもったDUB〜ポストロックなトラックは、仮面を被ったビートメーカーOmSv(0ミリシーベルト)によるもの。ゆっくりゆっくりと渦巻く奥行きのある音像は、バッドドリームへと誘う。

情報が少なく謎めいたクルー CHOP AROUND(3MC、1DJ)。

Verse1の Cancer は「纏えば錦」「108の煩悩」など古来から受け継がれた日本語特有の響きを大切にし、Verse2の BOHEMIA は夢と現実の間を、静かなトーンでありながら、なだらかな起伏をつけてラップする。

2人とも、生活や思考のすべてがリリックを書くことに集約されており、ラッパーとして生きていてることが伝わる。

「くぐる羅生門 善悪混ざり混沌
 瞬間の連続 文字を綴る今日も
 how many mistake」


▼さらに深堀り

この曲を手がけ、『週刊DiGG』#8でも紹介した「8cloudbroz / inner Babylon」をプロデュースしたビートメーカー 0mSv (ゼロミリシーベルト)のビートLive。雑味が多くて混沌としたままの音は(褒めてます!)、何が起こるか予測不能で胸高まります。怪しげなお姉さんが誘ってきそう。「そこの兄さん、ちょいと覗いてみて」

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|PEAVIS / Carrying You feat. YonYon|

2020/12/09 公開

1991年、福岡生まれのラッパーPEAVIS2015年にクルーYelladigosを結成。3枚のソロEPを経て、2019年11月にポジティブに満ちた1stアルバム『Peace in Vase』を発表する。

約1年ぶりの新曲では、ソウル生まれ、東京育ちで日本と韓国を橋渡しし、DJ / シンガー・ソングライターなどマルチな才能を発揮する YonYon を客演に迎えている。

1stアルバムに収録された「Beautiful Life」以来の共作となる2人の相性のよさは、YonYonが福岡に拠点を移したことからも分かるだろう。

トロピカルなアフロビートが彩るラブソング。ライブでみんなが歌えるようデザインされたシンプルな言葉選び。HOOKでリズムが盛り上がると同時に、鼓動の高鳴りが伝わってくる。

「君が笑えればそれでいい」

人への愛を伝えるのに、多くの言葉はいらないのかも…
そんなことを思わせてくれる。



▼さらに深堀り

「愛」をテーマにYonYonが3冊の本を選んだインタビュー。PEAVISとの出会いのエピソードや、精神の深い部分で繋がっていることが分かる。

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|NTsKi / Father (prod. stei) |

2020/12/11 公開

ー アットウテキ存在感 ー

こんなアーティストを待っていた!

エンタメ業界では、今やアジアから世界をリードする韓国出身のアーティストか?と思うほど、抜きん出た世界観を持つ京都出身の NTsKi (エヌ・ティー・エス・ケー・アイ)。

シンガーやトラックメイカーとしての顔を持ちマルチな才能を発揮。田我流のアルバム『Ride On Time』にも参加し、「Anywhere」という曲ではアンニュイで気だるい歌声を披露している。

今作は、steiによるUKドリルなビートに、琴のアジアらしい旋律が不穏に響く曲。「I'm a bitch.」と不敵な笑顔を浮かべるNTsKiは、怖いほどの圧倒的な存在感。マリリンマンソンに通じるカリスマ性がある。言葉の乗せ方を三連符に切り替えたり、呼吸を荒げるなど表現の幅はまだまだありそう。

全編英語でラップしており、日本では異端でも、世界に照準を合わしていることが伺える。



▼さらに深堀り

CD?7inchレコード?かと思いきや、実は陶器のお皿。裏面に印字されたQRコードよりコンテンツにアクセスすることでNTsKiがセレクトしたプレイリストが楽しめる作品。CDプレイヤーの存在が薄れている今、新しい音楽のあり方を提示している。

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|DUSTY HUSKY × JAMBO LACQUER / ザ・シーズン (prod by OGRE WAVE) |

2020/12/11 公開

神奈川藤沢を拠点に活動し、DINARY DELTA FORCEのメンバーであるDUSTY HUSKY(ダスティ ハスキー)が、“同世代のヒーローであり、日本国産のベストMCの1人”と称えるWARAJIの中心人物 Jambo Lacquer とコラボした作品。

2106年「MIZUWARI」、2019年「ロール・プレイン」など数々の名曲を生み出してきた2人が新たに生み出すクラッシック。

「雨期あけのバンコクは今日もアチい」とリリックにあるように、DUSTY HUSKYは現在バンコクで暮らしている。そこでは暑期、雨期、乾期はあれど、年中暑い街だから、余計に「桜舞い散る」「紅葉」「水しぶき」などの四季を感じるのだろう。

Jambo Lacquerは、気がつけば変わる季節の節目を繊細にとらえ、遠く離れた人に向けた思いを音にたくす。

ビートメーカーOGRE WAVEによる木琴とお琴を組み合わせた音色が、日本的な奥ゆかしさとみずみずしさを感じさせる。

雪がとける頃  まわる一周  雨が降り続く
いつの間に  セミが鳴き止めば 月が高く登る


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さらにHIPHOPを知りたい人へ

『週刊DiGG』では、これからもHIPHOPの魅力を紹介していきます。良かったら高評価とフォローをお願いします。では来週もお会いしましょう!またね🤚


▼著者が毎月2回作成しているプレイリスト。'20/12/1〜12/15までに公開されたMVの中から至極の30曲をセレクトしました。あなたの聴き逃した曲があると思うのでぜひクリックしてみて下さい。



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ドラム師匠@ヒップホップライター
HIPHOPを広めたい一心で執筆しています。とは言え、たまにこれを続ける意味があるのかと虚無感に襲われます。 このまま頑張れ!と思われた方、コーヒー1杯おごる感じでサポートお願いします。自信をつけさせて下さい。