最新HIPHOPレビュー#49 「GAGLE / I feel, I will」
HIPHOPの魅力を伝えたくて日々連載している『日刊DiGG』です。49回目となる今回は、東日本大震災の記憶をいまに伝える楽曲を紹介します。
|GAGLE / I feel, I will(Prod. Mitsu the Beats)|
2021/03/08 公開
2011年3月11日(金) 14時46分。
沈み込むプレートの変動が限界に達し、耐えきれず放たれた巨大なエネルギーは、激しい揺れとなってこの国を襲った。
岸から130キロ離れた海で起こった震源地は、その後、巨大な津波を起こし東北の海岸線の町という町を飲み込んでいった。
HIPHOPをメインで聴いているZ世代と言われる若い人は、かすかな記憶しか残っていないだろう。10年という月日は、長いようで短く、短いようで長く、記憶から忘れ去るには十分すぎる時間だ。
東日本大震災が起きた年、多くのアーティストが被災した人を想い、曲が生まれた。ある者はチャリティーという形で少しでもこの国を元気にしようとし、ある者は生々しい体験をリリックに記した。
そんなアーティストの1組が、DJ Mitsu the Beats、HUNGER、DJ Mu-Rの3人で構成された仙台を拠点に活動する GAGLE だった。1996年より活動し、今も現役で人気を博する数少ないクルーだ。
彼らのアクションは早く、4月30日には「うぶごえ」というチャリティーソングをリリースしている。仙台といえば東北大震災のまさに被災地にあたる場所。ただ、沿岸部と内陸部では、同じ仙台でも状況が違うことがつづられている。被害の程度は違えど、厳しい状況に変わりはなく、支え合うことで希望を見出そうというメッセージがめられた歌だった。
そして、10年後にリリースされた楽曲「I feel, I will」には、テレビを見ているだけでは伝わらない、現地の混乱ぶりが生々しく描かれている。
「消防 サイレン 頭上ヘリが飛ぶ
停電 知らせるニュース
モニターに駅前の街並みがブレる
帰宅できず 夜は寒く人は戸惑う」
寒冷地である仙台は、3月11日以降も寒波が襲い、冷たい雨も降っていた。余震に怯えながら避難所での生活はどれほど心細く寒かったか。
震災により、当たり前が、当たり前じゃないと分かった。
支え合うこと大切さ、生きている事のありがたみを教わった。
この時味わった経験を風化させぬよう、曲にして当時の様子を伝える。GAGLEは体験した者の使命だと言わんばかりに。
曲中では、26年前に起きた阪神・淡路大震災で苦しんだ人々、コロナ禍で制限を余儀なくされている現代人にも、挫けずに生きていこうとエールを送る。
I feel, I will
ここに込められた言葉は重い。
さらに深掘り
▼HUNGERが、震災にまつわるHIPHOPの曲を時系列で紹介する動画。HIPHOPの持つ即時性が、ドキュメンタリーのようにその時、その場で起きた状況を伝えている。特に「楽団ひとり & KICK-O-MAN / NORTH EAST COMPLEX part 3.11 *」は息づかいまで生々しい。 14分31秒〜