『週刊DiGG』#12 -最新HIPHOP 7曲レビュー紹介('20/11/4〜11/12)-
まずは嬉しい報告。『週刊DiGG』はいつも200ビューいくか、いかないかのせめぎ合いなんですけど、先週の#11がいきなり6000ビュー超えてビビりました。本当に感謝です。より多くの方に楽しんでもらえるよう頑張ります!
さて今週は、11/4〜11/12に公開されたMV 7曲を紹介します。意図してなかったのですが、Chillな曲を多くセレクトしました。秋だからですかね?
数年後には資料として使えるよう、曲にまつわるエピソードや関連リンク、そして時代の空気感を封入しています。
▶︎ カッコいい曲 + アーティストの事も知りたい
▶︎ 心に空いた穴は、音楽でしか埋めれない
という方にオススメの記事です。最新HIPHOPを一緒に味わってください。
※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse
とHIPHOP用語で表記しています。
※ アーティスト名に下線がある場合、TwitterまたはInstagramとリンクしています。
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|ANARCHY & BADSAIKUSH / ANGELA feat. 舐達麻 (prod. GREEN ASSASSIN DOLLAR)|
2020/11/07 公開
ちょっとしたボタンのかけ違いからInstagram Liveを通じて揉め事に発展したBADSAIKUSHとKENNY G。阿修羅MICがラッパーとして話をし、お互いの誤解をといて無事に和解へ。リスナーはホッと胸をなで下ろした。
そんなこともあり、雑音なしで曲が聴けるタイミングで発表されたのがこのMV。前作同様、“ANARCHY & BADSAIKUSH”名義で、4曲入りEP『GOLD DISC』がリリースされることと、3日間限定のグッツ予約もゲリラ的に告知された。
ビートメーカーGREEN ASSASSIN DOLLARによるChillに漂うトラックで、煙が揺らめき消えていく様を歌ったもの。時間と共に消えてなくなるのは音も同じで、はかない存在だからこそ、多くの言葉を紡いでいるように感じられる。
3人のMCが書いたリリックで共通しているのは、HIPHOPに命をかけているという事。G-PLANTS がギリギリの低音で歌うHOOKに哀愁が漂っていて渋い。
本気だから命賭けることも厭わず
必ず実らす 花には水を
胸を張って音に託す俺なりのヒップホップ
▼“ANARCHY & BADSAIKUSH”名義の前MV「DAYDREAM」を紹介した記事
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|9for / Al2O3 feat.BEMA(prod. oddy lozy) |
2020/11/08 公開
ー これは新しい発明 ー
第11回高校生ラップ選手権チャンプという肩書きがかすれるほど、バトルだけでなく楽曲が評価されている 9for 。
インドネシアの伝統音楽ケチャを彷彿とする短いフレーズが連呼されたトラック。それは深夜に大勢のカエルが鳴いているような不気味さがある。
ハスキーかつ、舌をかき混ぜるような早口ラップに心拍数が上がる。最初は聴き取れずに圧倒され、2度目はリリックを見ても追いつけないほどスキルと自信に満ちている。
Verse2のMC BEMAも面白い経歴の持ち主。ワタナベマホトとしてUUUMにも所属し、チャンネル登録者は270万人も超えるほど活躍していたYouTuber。(現在はマホトとして活動中)9forに負けないほどの早口で、変則的にテンポを変え、語感の硬いラップを披露。
この曲の革新性は、日本のHIPHOPを一段上に引きあげる。
レベルがバレて剥がれてくラベルに比べられるほど重なって行くバベル
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|田我流 & B.I.G.JOE / マイペース (Track by DJ SCRATCH NICE)|
2020/11/10 公開
北海道のラッパーB.I.G.JOE (45才)と山梨のラッパー田我流 (38才)が、キャンピングカーで北海道を“釣り”と“LIVE”をして回った"Freeman's World Tour 2020"。
B.I.G.JOEが、「(このアドベンチャーは、)田我流以外は考えられない」という言うほど、息の合った2人のジョイント曲は、心がホカホカと暖まる。
「常に自然のことを考えている」と話す田我流だけあって、リリックのそこかしこに出てくる自然描写。
2人が若く尖った時期を経て、歳を重ねたからこそ感じられる広い視野。自由とは何か?コンクリートの上では忘れがちな、生きることの本質とは何か?を教えてくれる。
こんな大人になりたいと憧れる人は多いはず。(私は憧れます)
若くてフレッシュなラッパーに注目が行きがちだけど、こうしてキャリアを積んだラッパーが、その年齢でしか書けない、後世に歌い継がれるであろう曲をリリースしている。
こういった良作を目の当たりにすると、文化が根づき熟成されるにはある一定の年月は必要で、日本のHIPHOPの歩みは浮き沈みあれど、間違いじゃなかった事を証明している。
一戸建てを夢見て奴隷のようになるより
俺は自由な時間を手に入れたいんだ
さらに深堀り
▼"Freeman's World Tour 2020"の様子を収めた全13編にわたるロードムービー。
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|Eco Skinny & Nazz / GYA! (prod. Hellboy) |
2020/11/08 公開
2020年だけで、なんと4枚のアルバムを発表しているEco Skinny(エコ スキニー)と、ほとんどの楽曲を手掛けるビートメーカー Hellboy 。
この2人が中国出身のラッパーNazz と手を組み、新たなフォメーションで挑む戦闘モード。
Verse1のEco Skinnyは、YouTubeのコメント欄に”もっと再生されるべき”との言葉が並ぶほど申し分ないラップスキル。小気味いいワードチョイスを優先させ、スピード感を上げていく。
Verse2のNazzは、メタルやハードコアの影響を感じさせるシャウト系ラッパー。迫力ある声を遠くまで轟かせており、 Hellboyによるノイジーかつ凶暴なベースと共に、容赦無く暴れていてカッコいい。
この曲がLIVEで流れたらモッシュが起きるのは確実なやつ。みんな飛ぶ準備できてる?
ありがと神様最高なstory
上がって落ちてまた上がる成り上がり
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▼シャウト系のラッパーのルーツはどこかと調べたら、メタルやポストハードコアだ分かり納得。「トラップメタル」について詳細に書かれた記事。
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|JJJ / STRAND feat. KEIJU (prod. KM)|
2020/11/11 公開
ソロの楽曲としては、10ヶ月ぶりのシングルをリリースし、11月12日に約3年ぶりのワンマンライブを行うなど活動モードに入ったJJJ 。現在3rdアルバムを制作中という。
言葉に間を作ることで生まれる独特なグルーヴ。“立ち往生”という意味が込められたこの曲は、まだ見ぬ誰かに語りかける。雷雲で足踏みする姿は、ウィルスの影響で活動ができなった自分自身のことだろう。葛藤がリリックとなり、雷と共に昇華される描写が素晴らしい。
HOOKを歌うのはKANDYTOWNのKEIJU 。以前のインタビューで、「“残す”って意識をどれだけ強く持ってるかで、今に対する考えも違う気がするから」と語っていた。
JJJの「まだ見ぬお前に 何を残そうか」とのリリックとも共通する認識で、作品作りにじっくりと時間をかける点でも一致している。
大人の表情を見せる厚みのあるエレクトリックピアノと相まって、気品の高さと、重厚感ある仕上がりになっている。
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▼KEIJU 2019年8月のインタビュー。これを読むと、KEIJUの歌はなぜ口ずさみたくなり、心に残るのかが分かる。
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|WAWA / From Space(prod. DJ KAJI)|
2020/11/12 公開
13ELL率いる京都のクルーD.C.Aに所属するWAWA 。この曲が収録されたEP『ETERNAL ONE』のジャケットを見れば分かる通り、2019年12月に第一子が生まれたことが作品に大きな影響を与えている。
宇宙からのプレゼント 手のひらの上の生命
両手の中に収まる小さい生命に奇跡を感じ、宇宙を感じ、また宇宙から地球を眺め、自分たちの姿を眺めたのであろう。
DNAが受け継く壮大な命のリレー、女性のお腹に宿る宇宙、澄んだ目の地球、繰り返される日々の営み。生きていることを実感するからこそ、繰り返される「信じたい」という言葉が大きな意味をもつ。
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▼THA BLUE HERB 2005年のクラシック作品。この曲も子供が母体から離れた瞬間から意識を宇宙に飛ばしていく名曲。
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|スペクタクル / Wednesday (prod. sen beats )|
2020/11/04 公開
生まれも年齢も不揃いな大阪のHIPHOP集団“十三不塔(SEE SAN PU TOU)”より、メロディアスなフローを得意とし、教育者の顔も持つ男 スペクタクル。
前MV「teacher's flow」では、下町の人懐こさと、負けん気の強い声でラップをしていた。だが今作では、sen beatsによる優しい日差しと透明感あるシンセ音に誘われるように、澄んだ声で歌われている。
負けることで感じれるようになる優しい眼差し。一週間の折り返し地点で、聴く人の手をたずさえ、ポジティブな方へと導いてくれるかのよう。バンド:キセルにも通じるポストフォークな音処理とメロディはどこか懐かしく、生活感のあるリリックなのに夢見心地にさせてくれる。
終わらない仕事疲労が溜まる日毎
寝言言いながら思考を紐解く
音の中で行き来する過去と未来
心の扉開く魔法みたい
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今週のHIPHOPニュース
Creepy Nutsが11月11、12日に単独武道館公演を行い、ツイッターのトレンド入りしていました。「情熱大陸」で密着取材を受けてて、本人たちが1番驚いてる姿が初々しくて面白かったです。
個人的には、R指定さんは梅田サイファーでももっと活動して欲しいですが、MCバトルで名をあげ、お茶の間にまでラップを広めてくれるのは嬉しい限りです。
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さらにHIPHOPを知りたい人へ
『週刊DiGG』では、これからも毎週HIPHOPを紹介していきます。まとめて読みたい、という人のために『月刊DiGG』も始めました。月1回 約30曲分をまとめてチェックできるので、お好みでどうぞ。では来週もお会いしましょう。またね!
▼筆者によるYouTube動画
▼毎月2回作成しているプレイリスト。'20/11/1〜11/30までに公開されたMVの中から厳選した30曲をセレクトしました。今回紹介しきれなかった曲がたくさんあるので聴いてみて。