『週刊DiGG』#15 -最新HIPHOP 7曲レビュー紹介('20/11/27〜12/4)-
今週の『週刊DiGG』は、11/27〜12/4に公開されたHIPHOPのMV 7曲をレビューをつけて紹介します。今回は振り幅がスゴいです。中には”これはHIPHOPじゃない”と思う曲があるかもしれません。でも、変化を繰り返して巨大化しているHIPHOPですから、将来はエポックメイクな作品として語り継がれてる なんて可能性もあります。皆さんはどう感じるでしょうか?
数年後には資料として使えるよう、曲にまつわるエピソードや関連リンク、そして時代の空気感を封入しました。奥深く味わいたい方は、“▽さらに深掘り”も併せてご覧ください。
▶︎ HIPHOPをどこから聴いたらいいか分からない
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なんて方にオススメの記事です。最新HIPHOPを一緒に味わいましょう。
※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse
とHIPHOP用語で表記しています。
※ アーティスト名に下線がある場合、TwitterまたはInstagramとリンクしています。
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|ONENESS x Phaze1992 / DOWNTOWN BOYS|
2020/11/27 公開
松原みきが1979年11月にリリースした「真夜中のドア/stay with me」が、Spotifyで1年間で460万回再生され、世界47ヵ国でTOP10入りするなど、海外を中心に人気を集める日本の’70年〜’80年代のシティポップ。
そしてHIPHOPでも、和物シティポップネタが来た!
東京・大田区平和島を拠点とする2MC(MVTEN、stz)、 1DJ(S2)、FriendsからなるクルーONENESSのMVは、スロー再生させた松任谷由美の歌から始まる。曲名が気になったので、歌詞を拾って検索したら「DOWNTOWN BOYS」そのまんまだった(笑)
原曲は1984年発表の作品だけあって、「ダン!」とハジける太い電子ドラムに、キラキラしたシンセ音が時代を映している。
原曲のキラメキはそのまま活かしつつ、BPMを落とすことでグルーヴィに仕上げたのは、2020年にONENESSに加入したビートメーカーPhaze1992。
1984年ー2020年の隙間をぐぐり抜けるように、過去から未来を前向きにとえたラップが心地いい。
「一途な奴が塗り潰す 古ぼけた地図
自信が変わりだした確信
ワクワクを掘り当てる達人
並走見たことない世界
”あっそ”じゃ変わるはずのない未来」
▽さらに深堀り
アメリカ人が、なぜ日本のシティーポップにノスタルジーと新鮮さを感じるのかが書かれた記事。
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|Daichi Yamamoto / Paradise Feat. mabanua|
2020/11/30 公開
京都生まれ。日本人の父とジャマイカ人の母を持ち、黒人特有の低音ボイスが魅力的なDaichi Yamamoto。曲のグルーヴを第一にとらえ、優しく、そして流れるように歌っている。
プロデューサーは、インストゥルメンタル・ロック/ソウルバンドOvallのドラマーとしても活動するmabanua(マバヌア)。粘り気のあるFUNKYなベース、熱りすぎないよう抑えを効かせたホーンアレンジ。スネアの鳴りまで計算されたトラックには色気があり、Daichi Yamamotoに華をそえる。
上質なオシャレさにうっとりするが、HOOKの「上げろ Base Line 踊っていたい今年くらいは」のワンフレーズで意味合いが大きく変わってくる。
例年なら、クリスマスシーズンに街をキラびやかにするBGMととらえるかもしれないが、今年は世界中がウィルスの影響でダメージを受け、辛い思いをした年。
そんな年だったからそこ「今年ぐらいは」が特別な意味を帯びてくる。「滑らす足 Like 畳の上」というリリックが「ダンスフロアーの上」でないのも意味深い。
ループではなく生で奏でられたJAZZYなピアノは後半に向かってボルテージを上げていく。最後の「ラララ」のハミングで今年の大変だった事を思い出したら、踊りながら泣けてきた。
誰も変わらない夜を 過ごしてみたい
So 上げろ Base Line 踊っていたい
今年くらいは
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|MC TYSON / I'm"T" (prod. by Thieves Production)|
2020/11/30 公開
11月29日、プロボクシング元統一世界ヘビー級王者マイク・タイソンが54才ながら身体を作り上げ、復帰戦を行った。
そんな動きとリンクしてか、日本のMC TYSONが、試合の翌日に超ヘビー級の曲をドロップした。
大きな身体から発せられる声は、圧倒的な歌唱力があり、オートチューンを駆使したスムースな歌には色気がある。そして彼のもう一つの武器は、声を濁らせた迫力のあるラップだ。
原点回帰をテーマに制作された3rd アルバム「THE MESSAGE Ⅲ」からのリード曲は、ハードコアなHIPHOPに振り切っている。
「俺ら大阪生まれ 住之江育ち
悪そうな金持ち だいたい友達」
と日本一有名なZEEBRAのパンチラインをユーモアを交えて引用。
ドレスコードを黒で統一した仲間を従え、自分がNo.1であると強さを誇示。高級車とセクシーな女性を登場させているのもHIPHOPの王道をいく。強引でも「BOOM!BOOM!」と首を振らされる力技が痛快すぎる。
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|BCC№ / Chase ”Album ver.”(prod. Hylen) |
2020/12/01 公開
ダンスチームとして結成され、2017年よりラッパーとしての活動を始めたBCC№(バッカーノ)。3人→2人のユニット(LIL'B、0g)となり、新体制で制作された2ndアルバムからの1曲。
くだらない現状を追い抜こうとする気持ちがリリックに反映されていて、彼らを追い抜くようにクラップ音がボルテージを上げていく。Verse1とVerse2の間をDubstep調のシンセ音に躍動させるのは、ダンサーである2人ならではの構成。Liveではダンスの見せ場となり、会場を沸かせるのだろう。
1曲の中で、感情曲線が描かれていてドラマチックな展開。突如訪れる静寂さが心に残る。
泥まみれて行こうじゃん
まだ負けた訳じゃないから
▽さらに深堀り
TikTokでは、Live共演者の曲に合わせてキレキレのダンスを披露している。
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|4s4ki / 超怒猫仔 feat. Mega Shinnosuke, なかむらみなみ|
2020/12/02 公開
どうカテゴライズしたらいいか判断に迷う。この不確かさが社会との交わりにくさや生きづらさを象徴するも、表現者としての武器になっているアーティスト4s4ki(アサキ)。
ゲームボーイの音源を取り入れたGigandectによるトラックは、チップチューンと呼ばれ、懐かしさを感じるがそれだけじゃない。8bit仕様ゆえの解像度の低さは、ギザギザで荒い攻撃性を生み、ノイジーさが4s4kiを画面の向こう側へとかすみをかける。それが、浮世離れした彼女の魅力を引き出している。
4s4kiの歌は、英語っぽく聴こえたり、インドの伝統音楽の旋律らしくもあり、「我輩猫である」「こんにちは」など日本らしいフレーズもあって国籍不明。
ラッパー、シンガーという肩書きだけでなく、電波系アイドル、EDM系など多方面から支持を集めそう。それが証拠に、YouTubeのコメント欄には様々な言語が書き込まれている。
客演のMega Shinnosuke、なかむらみなみもカテゴライズが無意味なアーティスト。世界が求める日本らしいサウンドは、こんな曲かもしれない。
▽さらに深堀り
チップチューンについて解説した記事。ゲーム音楽をいち早く取り入れたのは、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)だったというから驚きだ。
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|漢 a.k.a. GAMI / Do it till I die |
2020/12/04 公開
歌舞伎町での路上サイファーから始まるオープニング。
漢 a.k.a. GAMIは路上のサイファーから始まった。MC漢がここでフリースタイルを始めなかったら、昨今のMCバトルの盛り上がり、ひいてはHIPHOPの盛り上がりはなかったでだろう。そんな立役者である彼が逮捕をきっかけにプロデューサー / 社長の立場から、プレイヤーとして帰ってきた。
「新たな生活に慣れてきた頃に 一月余りでまた逆もどり」
大麻取締法違反で逮捕され保釈中だった漢 a.k.a GAMIの再逮捕された(不起訴になっている)エピソードがリリックに盛り込まれている。違って見えたいつもの情景は、彼に新しい視点を与え、21日間拘留された時にたまりにたまったエネルギーが、ラップとなって吐き出される。
ただでは起きないどころか、ラップがキレを取り戻し、ギラついた目が野性味を増している。身に起きた出来事が歌詞になるから、ラッパーはいつもリアルで、タフで、そしてしぶとい事を曲が証明している。塀の中から獄中記を発信するラッパーD.Oとの友情も熱い。
今に見てろよ 全てひっくり返すリアルな音楽 それがヒップホップ!
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|maco marets / Torches (for NEUT BOWL 2020)|
2020/12/04 公開
HIPHOPとは少し違う肌触りで、独自のオリジナリティーを追求するmaco marets 。ラッパーでありながら言葉を音に溶け込ませ、曲全体で描く風景は、空気の透明度や、湿度、匂いと言った本来、音から伝わらないものまで感じられる。
'20年8月30日にリリースされた4thアルバム『Waterslide III』では、黒さがなくフォーク〜New Waveなアプローチだった。
この新曲では、4thアルバムにも参加していたPistachio StudioのビートメーカーTiMT(ティムト)がプロデュース。「自分寄りの世界にmaco maretsを引き込んでみた」と言うだけあって、ふくよかに丸みを帯びたサウンドはスペーシーで未来っぽい。声を潜ませた歌声は、心の奥底から熱を起こし、ダンサブルに身体をゆらす。
燃えている音を聞いたんだ
それは 消えない 消えない
消えない 火のしらせ
ひらかれたメッセージ
よろこびのほうへ
この曲がワクワク感するのは、新しい扉が開かれる予感がするからだろう。LGBTが叫ばれ、性別にとらわれない、その人らしい生き方を追求するオンライン・メディア「NEUT Magazine」の2周年を記念して書き下ろされたと言うのも頷ける。
▽さらに深堀り
著者による2ndアルバム『KINŌ』の魅力を語った記事
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さらにHIPHOPを知りたい人へ
『週刊DiGG』では、これからもHIPHOPの魅力を紹介していきます。よかったら、高評価とフォローをお願いします。では来週もお会いしましょう。またね🤚
▼著者が毎月2回作成しているプレイリスト。'20/11/15〜11/30までに公開されたMVの中から厳選した30曲をセレクトしました。今回紹介しきれなかった曲がたくさんあるので聴いてみて下さい。