電動キックボードの話
2023年(令和5年)7月1日に施行を予定している改正道路交通法によって、保安基準に適合している電動キックボードが免許不要&ヘルメット着用努力義務となります。
電動キックボードは、新しい移動手段として注目される一方で、死亡事故があったことが話題となりました。
そこで、改めて改正道路交通法の内容を整理するとともに、利用者が注意すべきポイントなどを自動車ライター/インストラクター(教習指導員:普通自動車第一種・普通自動二輪・応急救護など保有の筆者)が考察します。
警察庁が令和5年2月3日に公開した資料によると・・・
警察庁が令和5年2月3日に公開した「改正道路交通法の概要(特定小型原動機付自転車(電動キックボード等)の交通方法等について)」によると、運転できる者や通行場所などは次のようになっています。
出典元:警察庁公式サイトのPDF資料
運転できる者
・運転免許は要しない(免許不要)。ただし、16歳未満の運転は禁止。
・特定小型原動機付自転車(電動キックボード)の販売やシェアリング事業を行う者に対して、特定小型原動機付自転車の利用者への交通安全教育を行う努力義務を課す。
通行場所
・原則:車道、普通自転車専用通行帯、自転車道を通行。
・例外:歩行者の通行を妨げるおそれのない速度に最高速度(6km/h)を制御し、速度に連動する表示をした場合には、例外的に一部の歩道または路側帯の通行が可能。
乗車用ヘルメット
特定小型原動機付自転車の運転者に乗車用ヘルメット着用の努力義務を課す。
違反者に対する措置
・交通反則通告制度および放置違反金制度の対象とする
・ 悪質かつ危険な違反行為を繰り返す者には講習の受講を命令(命令違反には罰則)
道路交通法施行令の一部改正(概要)
特定小型原動機付自転車運転者講習の受講命令の対象となる行為は次のとおりです。
信号無視
通行禁止違反
歩行者用道路徐行違反
通行区分違反
歩道徐行等義務違反
路側帯進行方法違反
遮断踏切立入り
優先道路通行車妨害等
交差点優先車妨害
環状交差点通行車妨害等
指定場所一時不停止等
整備不良車両の運転
酒気帯び運転等
共同危険行為等
安全運転義務違反
携帯電話使用等
妨害運転
道路交通法施行規則の一部改正(概要)
特定小型原動機付自転車(電動キックボード)の大きさおよび構造の基準は次のとおりです。
車体の大きさ/構造
長さ:190cm以下
幅:60cm以下
原動機:定格出力が0.6kW以下の電動機
最高速度:20km/hを超える速度を出すことができないこと
など
※歩道通行に関する基準
・最高速度表示灯の表示
・最高速度:6km/h
・側車を付していないこと
・制動装置(ブレーキ)が走行中に容易に操作できる位置にあること
・歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと
道路標識、区画線及び道路標示に関する命令の一部を改正する命令案
原則、自転車マークに特定小型原動機付自転車を含める。
歩道通行に関する自転車マークには、特例特定小型原動機付自転車のみ含める
本標識に附置されている補助標識は、原則として普通自転車(補助標識:軽車両/自転車)の交通規制の対象に特定小型原動機付自転車(電動キックボード)も含める。
区別する必要がある場合に限り、「特定原付」と示すこととする。
※特定小型原動機付自転車および特例特定小型原動機付自転車の略称は、「特定原付」「特例特定原付」と定める。
道路交通法の一部を改正する法律案に対する附帯決議の概要
令和4年4月15日に、上記のような決まりができているものの、メディアでは「免許不要」や「ヘルメットの着用は努力義務」という部分がピックアップされています。
条文の太字部分に注目すると、ヘルメットの着用義務化や免許制の導入も含めて、今後必要な措置を講じていくと明記されています。
そのため、死亡事故をはじめとした重大事故や交通違反が増えた場合、電動キックボードを乗るときに免許が必要となったり、ヘルメットの着用が義務になったりする可能性が十分に考えられます。
では、これまでに電動キックボードに関する事故や違反はどのくらいあったのでしょうか。
電動キックボードに関連する交通違反や事故の発生状況
令和3年9月〜令和4年12月までの検挙件数は合計1,843件ありました。内訳は次のとおりとなっています。
・通行区分:1,032件(56%)
・信号無視:384件(21%)
・一時不停止:137件(7%)
・整備不良:34件(2%)
・その他:256件(14%)
※「その他」のうち、酒気帯び運転が41件
電動キックボードに関連する交通事故件数・死傷者数
【令和2年】
事故件数:4件
死亡者:0人
負傷者数:5人
【令和3年】
事故件数:29件
死亡者:0人
負傷者数:30人
【令和4年】
事故件数:41件
死亡者:1人
負傷者数:41人
【令和2年〜令和4年の事故における相手当事者】
・四輪:31件(42%)
・単独事故:18件(24%)
・自転車:14件(19%)
・歩行者:8件(11%)
・二輪:3件(4%)
事故発生件数を見てみると、年々事故件数が増えていることがわかります。また、相手当事者では、四輪車との事故が圧倒的に多く、次いで単独事故、二輪車と続きます。
事故件数統計からわかる3つのこと
・電動キックボードの認知が広がるとともに事故件数が増えた
・交通ルールを正しく把握または理解して運転していない可能性が高い
・運転操作および車両そのものの扱いに慣れていない
このようなことが容易に考えられる状態で、免許不要&ヘルメット着用努力義務という条件で電動キックボードが乗れるようになると、さらに交通事故が増加し、交通トラブルも増えるでしょう。
もし、交通事故が増加し、負傷者数や死亡者数が増えれば、ヘルメットの着用義務や免許制度の導入がされる可能性が十分にあり得ます。ヘルメットの義務化や免許制度が導入されてしまったら、電動キックボードが手軽な移動手段として利用できなくなるでしょう。
手軽な移動手段として電動キックボードを利用するときは、ルールを守るだけでなく、違反・事故の際の責任の重さを理解しておくことが必要です。