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うつくしい日用品

とても個人的な意見なのですが、革靴を買ったらたくさん履いて欲しいなといつも思っています。お話をする機会のあった方には、そう話してきました。

「もったいないからとしまい込んでいたら、底がボロボロしてきた/剥がれてきた」「カビていた」「日焼けした」などなど気がつかない間に進んでしまうトラブルの予防も理由の一つです。

何よりも、履き込んだ姿の方がうつくしいと思っているからです。

例えば、使い込んだまな板のような。履き込んだデニムのような。
持ち主の使い方が見えてくるのもまた粋なところで、同じにならないんですよね。同じ靴を買って、ローテーションして履いても同じ姿にはならないんですよ。革ってそもそも生き物だし。

履き込んだシワ、メンテナンスによって馴染んでいったクリームが生むツヤ。修理やメンテナンスは必要ですが、履けば履くほど育っていくのが堪らないなとずっと思っています。

ブーツだったら、シューツリーなんて入れないで爪先を反り上がらせたり、徐々に色褪せていくのも格好いいし、端正な靴なら補色をしながら深みのある色にしていくのもよい。ある程度の「こうするといい」はあっても「唯一の正解」もありません。つきつめてしまえば好みの一言に尽きます。

たくさん履かれてメンテナンスされている靴を「愛されてる」と言ってしまうのですが、愛されている靴はうつくしい。
履いている人の佇まいに寄り添って馴染んでいる姿が愛おしい。

キズができてしまっていようと、それは変わらないなとつくづく感じます。
そもそも靴は足を守るものなんだから、ある程度キズがつくのはしょうがない。勲章くらいに思っています。

もちろん、冠婚葬祭で履くような靴や、ドレスに合わせるような時はマナーやTPOを重んじることも大切です。

かくいう私も、初めて革靴を買ったばかりの時は、ちょっとしたことも怖くて天気予報も細かくチェックしたり、恐る恐る歩いてみたり、相当に気を使っていたと思います。
そのくせ、地元に帰ったタイミングでゲリラ豪雨に遭ってビショビショ。
靴の甲に水溜りができたのは忘れられません。
渋を塗ってあった革なのに、雨で相当流れました。ヒョウ柄みたいになってしまって落ち込んでいたところを「でも、その雰囲気面白いよね。履いていったらどうなっちゃうんだろうね」といい意味で面白がってもらって開き直れたのも今となってはいい思い出。

多少のトラブルであればメンテナンスでなんとかなることも多く、小傷くらいなら履いていくうちにさほど気にならなくもなります。(気になる気持ちもわかります、が)装飾品でも、贅沢品でもなく、日用品として足元で活躍させてください、とはお伝えしたい。

年月を経たうつくしさを、その1足に与えるのは履くことです。

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菊地夏美
いただいたサポートで、タンナーさんのお話を伺いに行ったり企画をしたりします!