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いちごの唄

 札幌学生対校演劇祭、今年も公演終了しました。27歳、社会人、学校はすでに卒業しているし、もうしっかりと大人になっている私ですが、かれこれ2016年ごろからずっと学生演劇祭の運営に携わらせてもらっています。
 コロナ禍をはさんだこともあり、近年の出場団体は減少傾向にあるとはいえ、平均年齢20歳の若者たちないし学生たちに求められているうちは、どうにかして継続されてほしいですね。大人になってから同年代と再会したとき、酒を飲みながらする思い出話は、若かった時分の話がほんとうに多いので。

 Bブロックに関してあえて特筆すると、同じブロックの北星学園大学演劇サークルの上演中止(詳細は対校祭公式HP)を受け、公演当日の朝に上演順が変わると発表があったにもかかわらず、まったく動じない強度を物語の展開や演技の随所に感じた。どういった理由であれ、演劇祭の上演順が変わるということは、作品の見え方が変わる可能性が良くも悪くも発生するということだ。そんな事態が直前に起こったにもかかわらず、しっかりと魅せてくれた。それでも、やむを得ない事情だとしても、公演本番日に参加団体が欠けてしまったのはやはり悲しかった。勝手に悲しい気持ちになってごめんと言いたくなるほどに。

 そして、かなり久しぶり(何年ぶり?)に、公演本番日に合間をぬって全作品を観劇できたので、僭越ながら感想をしたためます。

A1 北海演研「スクリュードライバーズ・ゴースト」

象徴的なシーン

・全体的にもったいない。「平成の初め、90年代あたりの設定の物語と仮定したら、むしろ過激な路線の笑いはまだギリギリ世間に受け入れられていそうな気がするけど、実際どうなんだろう?」とか、そういった矛盾や疑問が脳裏をよぎった。あくまでも個人的な肌感覚では、コンプライアンスが注視されるようになったのは、せいぜい直近5~10年以内。
・引きで舞台を見たときに、細々とした部分の整頓されていなさに視線がゆく。まるで嫁いびりを一番の特技とする姑のような、嫌な目ざとさをこさえてしまった自分に辟易とする。
・オチが弱い、よくわからなかったと私は思わなかった。が、そういった感想が多く見受けられたらしいと聞いてなぜなのかを考えた。例えば、照明の工夫がもう少しあれば伝わりやすかったのかもしれない。浮遊霊の九十九と岬が再会するあの瞬間、SS(ステージサイド)を使って照らしたら、わかりやすく綺麗なオチっぽくはなったのかも、なんてことを素人目線では思いついた。

追記:脚本が公開されたようだから改めて読んだけど、やっぱりオチ弱くないと思う。ただ、わかりにくいと受け取られやすそうな幕引きではある。


A2 空魚「喫茶店DE強盗」

いきいきしている

・楽しかった~!たくさん笑わせてもらった。フライヤーにも記載がある通り、札幌学生対校演劇祭は、コンペ(受賞して推薦されると年度末に全国大会へいける)とフェス(学生が中心の団体が短編演劇を持ち寄って交流ができる)の両面をもつ、ある意味さじ加減が難しい演劇祭だけど、きっと彼らにとってはこんなことどうでもいいんだろうなあ、と思わせてくれる唯一の団体だった。真面目な人たちが、限られた時間の中で純朴につくりあげた演劇。
・「こういう作品と出会いたいから、学生演劇祭を観に行く」といった大人がもっと増えたらいいのにと思う。


A3 23Hz「アンビバレンス」

特に美しいワンシーン

・17歳のころに観たら、泣きながら劇場を後にしていたに違いない(実年齢27歳なので、流石に泣きませんでした)。
・性同一性障害、性別適合手術、性別違和、性別不合、etc… 現代社会におけるジェンダーに紐づく問題は、我々の想像力を短時間で大量に消耗させてしまうほどに山積みだ。そのため、おそらく昨今の創作界隈では、最もホットとされている題材の作品だった。
・この作品を書くことも、稽古することも、上演することも、物凄くこわいだろうな、と思っちゃう。初日明けるまで気が気じゃなかったのでは。
・舞台写真を見れば一目瞭然だけど、照明や装置をはじめとする画が美しい。


B2 我等、敵モドキ「惜しまれ応援」

かっこいい

・ひとことで言い表すと、総合力が高い。
・完成度の高い短編。とある高校の応援団で、引退を目前に控えた同期3人が揃いも揃って「この際だから、とにかく惜しまれながら引退したい」と攻防を繰り広げる約45分間。過酷な合宿を突破して団員になり、団長の座を手に入れるために厳しい稽古を耐え抜いたにも関わらず、3人とも団長にはなれなかった。しかも、団長になった同期が選ばれた理由は、あまりにも納得ができないものだった。そこから月日は流れ、引退目前で発覚した団長のスキャンダルが、更に3人の脳内をかき乱す。この概要を自分の頭で整理して書き出しただけでも、ちょっと楽しい。
・ちなみに、この前述の団長は不在のまま話が進むのだが、それはとても効果的に作用していた。そもそも、そういう狙いがあってこの脚本を書き上げたのだろうな~なんてことは、ある程度観劇慣れしていれば、脚本を書いたことがない人間でも容易にあたりがつく気はしますがね。
・それにしても、舞台転換 兼 休憩の時間まで面白かったなあ。ここまで見させてもらってもいいんですか…?ってなる。サービス精神が旺盛。あと、大音量でダミ声の告白シーンは爆笑した。


B3 劇団しろちゃん「わかんない。けど、」

バランスの良さが最強

・登場人物4人とも、どこか決定的に欠落している。全員何かがおかしい。気を抜いて、一瞬でも共感してしまったら、とてつもない敗北感を抱くに違いない、そう感じる話だった。
・なぜそう感じたのか、何を隠そう自分自身も学生時代に、当たらず雖も遠からず、近い種類の匂いがする脚本を書いたことがあったからだ(こちらの学生時代の話に関しては、全てにおいて準備不足が否めない結果に終わったので、料金を払ってまで観る価値は、私はなかったと今でも思う)。
・こういう、半径100m以内で観測できてしまう、なんとなくずっと不愉快な人間模様の話はどんよりする。どれだけ言葉を尽くしても選んでもディスコミュニケーション、絶望した。

(作品ごとの感想おわり)


 いかに妥協しないか、あるいは妥協を認めないことで生じてしまう、心のざらつきに向き合う覚悟を感じられるか。より多くの人々の心を打つ芸術とは何ぞや。残酷だけれど、見出されていく才能の数には限りがある。他の追随を許さぬ没頭には、何ひとつかなわない。

 まあ別に、そこまで肩肘張ってアートしなくてもいいと私は思っているので、しっかり休息をとって英気を養ってほしい。


※タイトルは銀杏BOYZからお借りしました。


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