耳鳴にまつわる最近のトピックス 「音響療法でことが済むと思ったあなた、それ大間違いかもしれませんよ。」#016


前回、大塚さんから「実際のところ、耳鳴り治療って、どうなっているんですか?」という質問を受けて、ちょうど僕がいつも職場の新米STさんに話している内容が回答になると思ったのでここでその会話内容を公開しますね。

1.はじめに

おそらくみなさん(認定技能者さん、言語聴覚士さん)は、
「耳鳴り」と聞くと音響療法というワードがすぐにアタマに浮かんでくると思います。

新米STさん(以下👶🏻)
『音響療法???なんっすかそれ。(ぜんぜん浮かんでこないよ〜(-_-;)』

耳鳴にはちょっとうるさい耳ドクター(以下👨🏻‍⚕️)
「ああ、音で耳鳴りを治すという治療のことだよ。でも単純に音だけで治すわけじゃないんだ。耳鼻科の先生、言語聴覚士、認定技能者、そして時には臨床心理士さんなんかも巻き込んで、まさにいろんなスタッフがそれぞれに大事な役割を果たすことで『耳鳴りを”治す”』んだ。「音響療法+心理療法+薬物療法」の組み合わせ、最近ではそこに「神経変調療法」とか「神経ブロック治療」なんかも組み合わさってきていて、実に、複雑。音響療法は耳鳴治療のある一部分でしかないのに、どうもこの音響療法ってことばだけが一人歩きしてるんだよね。」

(👶🏻)『言語聴覚士や認定技能者が大事な役割!?ぼくらにどんな役割があるんですか?』

(👨🏻‍⚕️)「そもそも今行われている音響療法というのは、1980年代にPawel J Jastreboff(ジャストロボフ) 博士 1), 2) という耳鼻科の先生が発明したノイズジェネレーター(サウンドジェネレーター)をつかって『音で耳鳴りを消す。』みたいな治療のことなんだ。それまでは「マスカー療法」って言って “音(ノイズ)で音(耳鳴り)を完全に隠し(覆っ)てしまう” ってやりかただったんだけど、”完全に隠すことのできていなかった患者さんのほうが耳鳴りが改善してる”ってことに気がついて、マスカーじゃなくてパーシャルマスキングだよって方向転換したら治療成績もうんと改善したんだ。耳鳴の音量が大きすぎて当時の機械では完全に隠してしまうだけの音量を確保できなかったとか当時はアナログ機械だったので電池が減るにつれて音量もかぼそくなっていくとかそんなことが理由で充分にマスキングできなかったそんな「けがの功名」みたいなことからパーシャルマスキングな音響療法というのが生まれたんだ。でもその少しだけ聞こえてしまう(ほんのわずかに残ってしまっている)耳鳴りを『まだ治っていません😭』としつこく相談に来る人もいるわけで、Jastreboff先生は「そこはムンテラで何とかしましょう。」とひとつの治療体系を作り上げたんです。
 パーシャルマスキングな音響療法とカウンセリング(ムンテラ、指示的教育的カウンセリングとか言われるトップダウンに説得していくやり方)を1980年代にTinnitus Retraining Therapyって名付けて世界に発表したわけです(当時は、正直、あまり注目もされていませんでしたけどね)。日本では、松田先生がその治療法を1990年代後半に日本に紹介、頭文字をとってTRTだからTRT療法とやっちゃったわけです。TRTの最後のTはTherapyのTだから、TR療法療法みたいなへんてこな言い回しになっているだけど、「TR療法よりもTRT療法の方が韻がいいね。」ということで日本での正式な名称もいまではしっかりTRT療法ってことになっているんだ。」

(👶🏻)『トップダウン? 指示的カウンセリング!(-_-;) なんか前時代的ですね。』

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