人を生命の網に結ぶ〜3.11からコロナ禍10年に寄せて
本日、新著『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』が光文社新書より発売になりました。
思えば、3.11の原発事故から10年。
その時お世話になった編集者・草薙さん、出版プロデューサー・久本さん。
そのチームで、今回、10年の節目に、そうした事故、そしてコロナ禍の今、天災でもあり、人災でもある、そうした大きな課題が世界全体に突きつけられている中、人はその環境の中でどう生きるのか。
どう未来を創っていくのか。
その提言となるような1冊になったと、改めて感慨深く感じています。
光文社新書のnoteでは、はじめにと目次を全文公開して下さっています。
詳しくはこちら。
人類だけ健康に幸せになんてなれない
人類だけでは、健康にも幸せにもなれない。
冒頭に、これまでのヘルスケアの一切を否定しました。
私は、母親がずっと薬害の後遺症に苦しんで来た病人の家族ですし、「健康になりたい!」と切に願う多くの患者さん達、一人ひとりと接してきた最も生活者の立場に近い臨床医です。
もちろん、そうした一人ひとりの切なる願いや努力を否定するわけではありません。
生命の網という超生命体
でも、人は、常に環境との相互依存関係にあり、ネットワークの一部です。
目を開くと究極に分断された複雑多様な世界が拡がりますが、目に見えないけれども、確かに存在する繋がりからは、完全に分離することはできません。
自然界においては、多様な動植物が生命の網(WEB OF LIFE)を織りなしています。
食べることによって、他者の死をもって、自らの生を養う、その連続的な生と死の動的循環が、つまり、生態系であり、一つの超生命体とも言える巨大なネットワークを形成しています。
本来、人も、この生命の網の一部であるはずなのですが、そのことを忘れて、分断と細分化を極めた結果、人と自然を切り分け、人に最適化した環境に作り変えることで、システムの秩序を乱し、そのホメオスターシスの乱れによって起こる様々な環境問題によって、自らも被害者となっています。
分断意識は自律神経を通じて病気の原因に
自分と他者を切り分けることで、人は、潜在的に「自分以外は全て危険だ」という意識を生み出します。
それは、人と人との関係におけるストレスになるだけではありません。
本来、人を助け共生しているはずの環境の多様な微生物を、たった1種類の病原性のウイルスの存在によって「微生物は危険だ!」「家を消毒しなきゃ!」と認定し始めると、安全なはずの家庭のソファに座っていてさえ、「不潔!危険!」というアラートが鳴ります。
そのアラートは、人の自律神経を介して、身体を危機モードという特殊な状態に切り替え、内臓機能の抑制や免疫の過剰反応、ストレスホルモンの増加、筋肉の過緊張などを引き起こし、結果として、様々な心身の不調や病気を引き起こすことになります。
(新しい自律神経の理論・ポリヴェーガル理論については日本の第一人者である津田真人先生にもご協力頂き、3章に詳しく説明しています)
生命の網の一部であることをすっかり忘れたことにより、外的な環境を壊すだけでなく自分の内的な環境をも壊していると言えます。
人と地球の病気の原因は人類
結論として、人と地球の病気の根源は、人類の意識です。
人類の分断的な意識が、今、目の前に拡がる様々な問題を創り出していると言えます。
多様な生命が重なり合い、響き合う世界、そして、裏にある確かな繋がりを、誰もが認識できるようになり、内側と外側の問題の共通の根源を見出し、自らの問題として主体的に解決していくこと。
一人の力は弱いと思うかもしれませんが、網のようにネットワーク化した世界では、一人の動きが全体にも影響を与えます。
部分・要素だけでなく、全体をもみるメタ的視点は、一貫して本書を貫いていますが、本書に登場する人たちや方法は、いずれもそうした視点を持っているという共通性があります。
その連携によって、新しい社会を築いていく。
現状の惨事を創ったのもの人類ですが、このギリギリの極限状態において、未来を好転させることができるのもまた人類しかいません。
「土」の改良は日々の営みから
壮大過ぎる!一体何をすれば良いのだ!?
と思われるかもしれませんが、本書では具体的に今日からできることを実践的にもお伝えしています。
本書のメインテーマは、「土」です。今の時代は地質学的に人の活動が地球の地質に隕石の衝突並みのインパクトのあるダメージを与えた時代として「人新世・アントロポセン」と呼ばれています。
特に、増えすぎた人口を養うための近代的な農業や畜産によるダメージが甚大です。そのように生産された食品は、食が本来もつ多様な有機化合物や土壌微生物の多様性を失い、さらに、加工のプロセスによって、食の全体性が持つ働きを失い、人の腸の土をも破壊しています。
土には、生態系において極めて重要な働きをし、文字通り土台を支える多様な微生物がせっせと働いています。環境の表土も人の腸の土も、微生物活動が最も密で活発なエリアです。
アメリカの環境文化学者ウェルデン・ベリーの言葉に「食べることは農業的行為である」という名言があります。
土を回復するために、そして、人を生命の網へと再接続するために、日々、何を選び、何を食べるか。
土への洞察を踏まえて、日常の食べるという営み、生き方を見直していきたいのです。
おわりにを読んでください
前著から随分飛躍したもんだなぁ・・・と思われるかも知れませんが、前著の「おわりに」を読んでいただくと、同じことが書いてあります。
根底にある想いは、ずっと同じです。
おわりには、大抵、著者の心の内の吐露であり、本音が書いてあります。
今回も、ぜひ、「おわりに」を読んで下さい。
今回、原稿が13万字を超えているため、途中、飽きたり、積読になりそうになったら、すかさず、短い「おわりに」に飛んで頂きたいのです。
「おわりに」からはじまる、新しい世界の扉をぜひ、オープンして頂ければ幸いです。
『腸と森の「土」を育てるーー微生物が健康にする人と環境』(光文社新書)