脳的な科学
From:Dr.kappa
月曜日、午後11時12分
日本、本州
と、変なタイトルから始めてみました。
脳科学ではなく、科学が脳のようだという話です。
前回のメールで、相手に大きな影響を与え得る形式についてお話ししました。
(4つの理由から)物語が強力なのでした。
また、前回のメールの最後にコメントしたように、重要なのは巷で過信されているreason whyではなく、コヒーレンスだと主張しました。
今回のメールでは、このコヒーレンスについて少しだけ補足します。
いきなりですが、質問から始めさせてください。
「科学」と聞いてどのような印象を抱きますか?
私は理論物理学者という「中の人間」なので「公平」な立場ではありませんが、巷の言葉を見ていると
「絶対的に正しいもの」
というような印象が強いと感じています。
ですが、中の人間の1人として言わせてもらうなら、これは誤りです。
私の本業である物理学だけでなく、生物学や医学、化学など、ほとんどの科学の「証明」は証明ではありません。
(ここで「ほとんど」と少し濁したのは、数学だけは正しいからです。
ただし、それも前提となる定義を採用した場合の話なので、その前提を外してしまえば数学も「無力」です。
不完全性定理についても以前簡単にコメントしましたね。)
科学が絶対ではない例を見てみましょう。
20世紀まで大成功を収めていたニュートン力学。
身近なリンゴの落下だけでなく、遠く離れた月の運動まで正確に記述でき、万能だと考えられていました。
(私も高校ではそのような文脈で教わりました。)
ニュートン力学が予想することは「証明」だと。
ただ、ニュートン力学は20世紀に入って「挫折」を経験します。
原子サイズの物理に適用しようとしたところ、「矛盾」が見つかったからです。
そこで、この「矛盾」を解決する理論として提唱されたのが他でもなく量子力学です。
そして現代では、ニュートン力学はあくまで我々の日常生活くらいの、(原子サイズと比較して)大きなスケールの物理を記述する理論だと考えられています。
この例を一歩引いて見てみましょう。
20世紀以前に物理学者たちがニュートン力学を「信じ」ていたのは、この理論を使って辻褄が合っていたからです。
言い換えると、観測できていた範囲の物理現象は全てニュートン力学とコヒーレントだったから。
ところが、20世紀になり、原子スケールの現象が観測できるようになると、人間がそれまでに持っていた「物語」で辻褄が合わないことが見つかったのです。
(例えるなら、シロクマは白いと思っていたが、緑色のシロクマが見つかったという感じでしょうか。)
そこで、原子スケールの物理も矛盾無く説明できるように物語を修正しました。
つまり、科学もコヒーレンスを求めて常に変化しているということです。
これは私たち人間の認識と全く同じだと私は感じています。
以上の考察から学べるのは、
・コヒーレンスに対する人間の「執着心」の強さと、
・(ほとんどの)科学はあくまで現時点で観測できている現象を矛盾無く説明できる仮説に過ぎない
ということ。
このメルマガの(1つの)テーマである影響力を持つ言葉を紡ぐには、コヒーレンスを意識していきましょう。
P.S. コヒーレンスを「理解」と呼ぶという私の主張は、現代思想の言語ゲームという考えからも説明できると考えています。
最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。
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