手術室に心理的安全性がないと、どうなるか?
突然ですが、皆さんは「心理的安全性」をご存じですか?
心理的安全性とは、組織の中で、誰もが自由に自分の考えや意見を発言できる状態のことをいいます。
組織行動学を研究するエドモンドソンが1999年に提唱した心理学用語で、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。メンバー同士の関係性で「このチーム内では、メンバーの発言や指摘によって人間関係の悪化を招くことがないという安心感が共有されている」ところが重要です。
Googleが「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」との研究結果を発表したことから注目されるようになりました。
安全に手術するためには、この心理的安全性がとっても大事だと私は考えています。
ここで、ひとつ私のエピソードをお話しします。
研修医の時、私は手術の助手に入っていました。執刀しているのは指導医の先生です。そのとき、指導医の先生が手術の工程をひとつ飛ばしてしまったことに気がつきました。
私は手術経験のない研修医だったので、指導医が工程を飛ばしたのには理由があるのかな?と考えました。聞いてみようと思ったけれど、迷いました。なぜなら、ちょっと怖い先生だったのです。短い時間の間に「こんなこと、聞いて怒られたらどうしよう。でも、もしミスだったら患者さんが困るから聞いておいた方が良いよね?」とぐるぐるすごく悩んだことを覚えています。
結局、勇気を出して指導医に確認したところ、ミスだったことがかわり、飛ばされた工程は行われれ、無事に手術も終わりました。指導医には、ミスに気がついたことを感謝してもらえました。勇気をだして聞いてみて良かったです。
私はこの一件から、手術室でミスを防ぐには、もっと誰もが自分の立場に関係なく確認ができる雰囲気が必須だと、考えるようになりました。
その当時はまだ、心理的安全性をいう言葉はありませんでしたが、私の目指している手術室はまさに心理的安全性のある手術室のことでした。心理的安全性のある医療組織は、きっとミスを防ぐことができるし、研修者の成長も早くなるし、結果として患者さんに質の良い医療を提供できる。そして生産性も高くなるだろう、と私は考え、そのためにはどうするかを試行錯誤することになりました。