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The story of a band ~#19 Live! Live! Live!~

dredkingzswindleを拠点にライブを重ねていった。

同じ県南の年上のバンドからも、企画に誘われるようになり、活動は盛んになっていった。

相変わらず、本番前の緊張感は拭い去れなかったが、その緊張感を楽しめるようになっていたことは、一つの成長の証であった。

ある日のライブでは、楽屋で、仙台からのツアーバンドのメンバーと談笑する仁志と誠司がいた。

「さっきのリハ見てたんですけど、ミクスチャーって感じでしたよね!今度仙台でもやってくださいよ!」

「ありがたいです!是非、仙台にも行きたいなあって思ってたんですよ。それにしても、CDが物販に置いてあったんですが、CD屋でも売られているなんてすごいですね!」

バンドに関することを話すのがとても楽しい。他のバンドの苦労話は共感するところが多いので、会話も自然と盛り上がる。楽屋での過ごし方は様々だが、リハーサル後の情報のやりとりはとても為になる話が多い。

別の日のライブでは、出演前に勝手に楽屋にお客さんを呼び、ビールをあおっているバンドマンもいた。

「あり得なくね?」

基本的に、誠司も仁志も、演奏前に酒を飲む行為は嫌いである。

確かにプロミュージシャンが、自分にハッパをかけるためだったり、演出だったりと、酒を飲んでいるのを見たことはある。

しかし、まだ底辺のバンドが、同じようなことをしても、たかがしれている。それに、演奏はズタボロになる可能性は大である。

そして、お客を一番に考えていないということ。時間やお金を使って、来てくれるお客を前に、アルコールを浴びた状態でステージに立つなど、考えられなかった。

「飲みたきゃ、終わってから飲めよ。ったく。」

バンドそれぞれに考え方がある。こちらの考え方を押しつけるのは違うと思ったが、腹立たしかった。


5月のゴールデンウィーク中には、野外での企画に参加した。特設ステージがあり、地元バンドが多数集結し、広い芝桜を前に演奏をした。

dredkingzも演奏をし、その存在感を見せたが、勢いのある楽曲がほとんどの中で、バラード曲をセットリストに加えたのは、このバンドだけだった。

「なんでバラードなんかやるの!?」

と、出演関係者の一人から変なお叱りを受けたが

「勝手に言ってろ。」

と笑って一蹴した。

こうしたちょっとしたところでも、それぞれのバンドの価値観が異なる。出演者を喜ばすために、バンドはやってない。あくまで聴いてくれるお客さんのために演奏している。

現に、同じような曲調の楽曲で構成されているバンドのライブが続いて、お客さんも飽きてきている。飽きさせるような流れは、少し変化を加えて遮断しなければ、最後まで聴いてもらえないだろう。


なぜか、出演者側になると、この発想がなくなるのは不思議だ。いつもステージから見下ろすだけの発想をもつバンドとは、根本的に考え方が違う。

争うだけ時間の無駄だ。

真夏。海岸沿いにある街のロックバー『Jolly Roger』は、ジョンの行きつけの店。その店長から、今度ライブを企画するから出てみないかとのオファ-があった。

dredkingzは、そのバーでのライブも出演。狭い空間ではあったが、客との距離は抜群に近く、盛り上がりも最高だった。派手なパフォーマンスはなかなかしづらかったが、バンドのもつ熱と楽曲の良さが、客を盛り上げる結果となった。

満杯に入っている客がバンドの呼吸と一緒になるかのように、リズムに合わせてバウンスする。

身体中から汗がほとばしる。

バンドと客が一つに融合する瞬間を何度も体験する。

そんなライブは熱気に満ちたまま終了を迎えた。

出稼ぎで日本のこの地へやってきたイラン人が客席にいた。親指を力強く立て、満面の笑顔で握手を求めてきた。

音楽は国境を越える。

そう心から感じた熱い一夜になった。

控え所は、隣接する建物の二階にあった。広々としたソファーが置いてある。

野口は控え所に入ると、ソファに勢いよく倒れ込んだ。

「うわあ~、疲れた~!でも、楽しかった~!」

野口がこれほど大声で話すことは結構珍しかった。いかにその日のライブが手応えのあるものであったかを物語っていたとも言える。

「俺、このバンドのメンバーでよかった~!」

「だろ?(笑)」

誠司が笑いながら、あいづちを打つ。

この日のライブは、dredkingzにとって、忘れられないライブになった。


dredkingzが初めて県外ライブを行ったのは、2月。仙台のライブハウス『MACANA』だった。このときは、金曜日の夜に出発し、仙台駅前のビジネスホテルに前泊。土曜夜のライブだった。

ジョンは夜行性なのか、妙にハイテンションで、同乗していた仁志は、雪深い峠道を猛スピードで走る車に酔いそうになったほど。

ツアーのような楽しさがあったことは確かだ。とにかく、たくさんのいろんな経験を一緒に味わい、時間を共有している実感が、バンドにとって何よりも幸せなことだと気付かされる。

さて、仙台のライブハウスは、アーケード街内にあり、人通りが多い。事前に調べたが、駐車場探しが大変だった。

「うわー、駐車場あるけど、さすがに高えわ。。」

誠司は不慣れな大通りをゆっくりと走らせながら、パーキングを探す。

遠方から自費でやってくるバンドにとって、資金は切実な問題だ。ライブハウスのチケットノルマ代、交通費、宿泊費、飲食代、駐車場代など、ライブ出演のためにかかる費用は大きい。

しかも、知り合いは誰もいないし、このバンドのことを知っている人もいないから、集客もできない。

だから、出費は当然増える。

しかし、県外ライブで得られるバンドの成長に対する投資だと考えれば、安い方かもしれない。


「俺、ちょっと声出ししてくるよ。ライブまで時間あるし。」

リハーサルを終え、仁志が今日の声に納得していなかったらしく、ライブまで一人カラオケに行ってチェックした。

ボーカルはその日までの喉の調子を万全に保つことが大切になるが、過剰に意識しすぎるとかえって不安になり、その不安が声の響きを弱めてしまうこともある。そのため、メンタル維持も重要である。

さすがに、県外ライブは、いつも以上に緊張感が増す。

リラックスするには、「今日はきっと大丈夫だ!いける!」という自信を自分で作ることが必要だと仁志は考えていた。

ライブは、18時半ごろスタートした。dredkingzは2番目。ホールは縦長で、ステージ前にはテーブルや椅子が置かれていた。

スタンディングが当たり前だと思っていたが、このライブに出演するお客の数はスタンディングにするほどでもないという店側の考えかもしれない。お客は確かに、出演バンド数からすると20名前後なので、少ない。

ライブは、いつものように、ラウドな一曲から始まった。しかし、いつもよりは、フロントメンバーの動きが固い。アクションも今ひとつな感じだった。緊張していたせいもあるが、お客にとって、そんな言い訳は通用しない。

「俺たちは、今日初めてここでライブします。あたたかく見守って下さい。」

なんて、客に媚びるようなことは死んでもしない。初心者だろうが、経験者だろうが、ステージに上がれば一緒だ。

ライブは、終了したが、イマイチ納得がいかない。誠司も仁志もオーディエンスを盛り上げられなかった悔しさが、ずっと残っていた。

他のバンド演奏を眺めているうちに、その悔しさは増してくる。

まだまだだな。それが分かっただけでも、良い機会だったと捉えるしかない。ライブは生もの。もう終わったことを悔やんでもしょうがないから、次までレベルアップしないとな。

事実、ライブノルマチケット代をスタッフ室に支払いに行った時、ブッキングマネージャーに指摘された。

「今日は、遠いところからありがとうね。気になったんだけど、やってる曲がヘヴィなんだら、動き方も大事になってくるよ。そこら辺、もう少し意識して練習してみるといいかもね。

指摘は正しかった。初めて会うバンドに対して、ズバッとアドバイスしてくれたのは、これが初めてだった。

こういう存在を煙たがる人もいるが、自己満足に陥りがちなところから救ってくれるのは、厳しいことを言ってくれる人である。

最近では、ライブ共演者同士で褒め合うコメントがSNSで見かけられるが、そうしたことよりも、課題を提示してくれる存在がいることの方が、バンドにとって重要である。

アドバイスを聞き、仙台に来てよかったと皆思った。

悔しさは、次の成功へのバネになる。いや、バネにするのだ。


ライブ経験を通し、いろいろな感情を味わえる。バンドの醍醐味を味わっている。

一ミリでも前へ。もはや、次のライバルは、過去の自分たちである。













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