The story of a band ~#17 FIRST LIVE~
バンド人生の長さが、紙の上に横線で引かれていたのなら、間違いなく、このライブは、書かれた横線の始まりの一点である。しかも、紙に落とされたインクのシミのように、目立つほどの大きな点である。
その点から、バンドの運命が左右されると言っても過言ではない。
いいかげんな気持ちでステージには上がれない。
ただ楽しむだけなら、こんなに緊張などしない。
自己満足のためなら、この日まで、こんなに情熱を燃やして生きてはいない。
ライブは、生ものだ。一瞬一瞬の音が勝負である。一度表現した音は、もう二度と戻すことはできない。
自分達に対するプレッシャーをあえてかけ、5人は、今出演中のバンドの最後の楽曲の音を、狭い通路でスタンバイしながら聴いていた。
誠司は、指をストレッチし、ギターフレーズを再度確認するかのように弾く。
今河はじっと目を閉じている。毎回のライブ直前は、どんなに経験を重ねても、緊張するものだと今河は改めて思った。
野口は、大きく深呼吸をし、肩にかけたベースのネックを再度持ち直す。その手は、少し汗ばんでいた。
ジョンは、外人としてこのステージに上がるのは初めてである。緊張はもちろんあるが、どこか少し余裕を感じる。しかし、汗ばんできたのか、キャップをかぶり直した。
仁志は、発声練習もかねて、声出しをしている。時折、ジャンプしたり、足首を回したりと、いつでも動けるようにストレッチを入念に行っていた。
「どうもありがとうございました!」
どうやら、曲がすべて終わったようだ。転換のBGMが流れる。
後片付けを終えて、ステージから、そでの階段を降りてくるバンドの人を待つ。
「お疲れ様でした~!」
すれ違うタイミングで声をかける。
「よし、ステージが空いたようだから、そろそろ行こうか。」
5人はそでの階段を上り、ステージに向かう。転換中のBGMが流れる中、客席を見ると、ジョンが呼んだ3人がそこにいた。
「お、ジョン!がんばってね~!」
と笑顔で手を振られ、ジョンも上機嫌になった。3人の他には、出演バンドのお客さんが数人、そしてご本人達といった構成であった。
ガラガラな空間でのライブには違いないが、この日のために都合をつけて来てくれた3人のためにも、全力で期待に応えようとする思いは、ブレなかった。
リハーサルの時と同じように、呼吸を整え、客席に目を向ける。ステージ上のライトは、定点を照らしている。
BGMの音量が次第にフェードアウトしていく。
心臓の鼓動だけが伝わってくる。
その瞬間、今河の力強いドラムのカウントが始まると、一気に音があふれ出した。
イントロのグルーブに合わせて体を大きく揺らす。
誠司の奏でるヘヴィなギターリフと、それに絡み合う野口のベース音、今河のドラムの波がボーカルのボルテージを最高潮にアップさせた。
ジョンのラップがマイクを通じて客席に畳みかけるように放たれる。その合間を縫うように、仁志のかけあいがいいコンビネーションとなって、グルーブ感は更に加速する。
髪を振り乱して、仁志が客席に向かって歌う。ジョンのラップは、今度は仁志のメロディラインを補助する。
激しさの中に、どこか切ないメロディーラインが、曲全体に彩りを加えている。
最初の一曲は、このライブハウスに落とし込まれた一滴の水。その一滴の水が波紋を作る。その波紋が途切るか途切れないかの瞬間。次の曲が始まった。
照明の熱さは、体中を覆い、汗がほとばしる。
(これが俺たちの音だ!最後まで突っ走るぞ!)
次々と畳みかける曲は一旦4曲で終演する。すると一転、青い照明に変わった。
「Next song is last song. Listen ,『stand alone』・・。」
ジョンが少し息を整えながら、ラストの曲紹介をすると、メローなイントロが流れた。
これまでとは一転した、バラード調の曲が始まった。
客席は、ゆったりとした音に身を任せているような様子だった。
激しい濁流が、やがて海へ注がれるなだらかな流水のように、ライブは幕を閉じた。
5人は、ステージを降りると、充足感がわいてきた。汗は、心地よく、来てくれた3人の笑顔も確認することができた。
「よかったよ!すごい、かっこよかったよ!!」
そんな声を聞くことができた。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
メンバーは、3人に対して万感の感謝の意を述べた。
ライブがすべて終了すると、店長の岩本やスタッフにあいさつをしに行った。岩本も、新しいバンドの風を感じていた。
「次回、またスケジュールをご提案しますね!とてもいいライブでした!」
「はい!それまで、また精進しますんで、その時はよろしくお願いします!」
帰りの車中、誠司たちは、この日のライブを振り返った。
まだまだスタートしたばかり。ここで、満足など到底できるものではない。
課題は多々ある。もっともっと練習し、更に腕を上げ、バンドを高みへと引き上げなければならない。
満足したら、それで終わり。
自分たちへの厳しさは、常にもっていなければならない。たとえ、周りが高評価をしてくれたとしても。
そして新人バンドほど、泥沼にはまりやすい。賞賛は有り難いが、それに浸りすぎると、いつか足下をすくわれる。目的を見失う。
ライブは、生もの。その一瞬一瞬に、バンドの魂が刻みつけられる。dredkingzにとって新たな決意を刻んだ初ライブとなったのである。
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