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ラーズ・ヌートバーがバットスピードを12%も速くできたワケ。ラーズとドライブライン2年間の軌跡

今から約5年前のことです。
タイムマシンに乗って、2020年3月までタイムスリップしてみましょう。

後に日本代表としても活躍することになるラーズ・ヌートバー外野手は当時、まだマイナーリーグの選手でした。

コロナ禍の影響で、春季キャンプは中止となり、選手たちは自宅で過ごすことを余儀なくされました。

未知の感染症の流行が急拡大する中、全試合が中止の可能性があるとまで言われていました。

もし、あなたがラーズさんの立場だったら、この状況をどう克服しますか?

ラーズさんと私たちドライブラインは、この時、未来を輝かせる唯一の、そして最高の方法を見い出しました。

これから、2020年3月から2022年3月までの2年間、ラーズさんが私たちとどのような取り組みで、打撃力を向上させていったのかを説明します。

彼の素晴らしい努力とともに、私たちはバイオメカニクス(生体力学=生物の構造や運動を力学的に探究する)を子細に分析し、たゆまぬ努力で、バットスピードを時速8マイル(12.8キロ)も向上させました。

その飛躍への一端を、興味深いエピソードを交えながらお伝えします。

素晴らしい素質と努力

もともと、ラーズさんは素晴らしい選球眼の持ち主でした。バットコントロール技術もマイナーリーグの平均以上、そして三振率(K%)も非常に低く、安定した能力を示していました。

私たちは分析と議論を繰り返し、本来持つパワーを引き出そう、という結論に達しました。もともと決してパワーがないわけではなく、その片鱗は見せていましたが、コンスタントにそのパワーを活かすことができていませんでした。

それでは、我々のヒッティング・アセスメントで測定したデータはどのような結果だったのでしょうか。
結果を見てみましょう。 

以下の3つの主要データが特徴的でした。
少し専門的ですが、後ろに解説をつけています。

1.平均バットスピードが時速66~69マイル(時速106-111キロ。これは遅すぎます)

2.体重移動の際に、骨盤を前にかがめ過ぎている。ストライドフェーズ(1)の際に、「ヒップ トゥ ショルダー セパレーション」(2)で生み出されるパワーを、コンスタントに出しにくい。

3. ヒップ トゥ ショルダー セパレーションがあまりできていないため、腰が先に回転することで生まれる「スペース」が作りにくく、よってボールを引っ張ることが困難だった。

用語解説
ストライドフェーズ 

ドライブラインでは、バッティングのスイング動作を下記の8段階に分割しています。

スタンスポジション(最初の構え、ポジション)

ロードフェーズ(重心の後方移動)

ローデッドポジション(重心後方移動の終了時点)

ストライドフェーズ(重心の前方移動)

ローンチポジション(前足の着地時点)

スイングフェーズ(バットスイング)

インパクトポジション(インパクトの瞬間)

フィニッシュ


ここでいう「ポジション」とは、スイングの各主要ポイント、「フェーズ」とはこれらポイント間の動きを表します。

ポジションからフェーズを経て、次のポジション、次のフェーズへと進んでいくことになります。

「ストライドフェーズ」とは、「重心の前方移動から、前足が地面に着地するまでの動作」となります。
この「ストライドフェーズ」の主要なチェックポイントは、正しいタイミングで骨盤を回転させることができているかどうかです。 

※ヒップ トゥ ショルダー セパレーション Hip to Shoulder Separation / HSS
HSSと略すこともあります。スイング動作においても、投球動作においても非常に重要な「上半身と下半身のひねり」のことを指します。
下半身(特に骨盤)が先に回転し、その後に上半身が追随することで「捻転」が発生し、体全体を使った強い力を生み出すことができます。 

ヌートバー外野手の骨格イメージ


ロード時の動作を観察すると、骨盤の回転が上半身よりも大きいことがわかりました。

骨盤と肩の分離角度は平均約8°でした(プロの平均は約18°)。骨盤が過度に回転したため、非常に閉じた位置から回転していました。

その結果、骨盤の回転速度自体は良かったのですが、骨盤が上半身よりも前に出ることがほとんどなく、骨盤と肩の分離が最小限に抑えられていました。

中心部分の筋肉をゴムバンドのように考えてみてください。

骨盤が上半身より前に回転すると、骨盤と肩の分離が生まれ、ゴムバンド(内腹斜筋と外腹斜筋)が伸びます。

次に、骨盤が減速するにつれて上半身が加速し、ゴムバンドが「バチン」と戻るように、内腹斜筋と外腹斜筋が収縮します。

肩と骨盤の分離角度は8°しかなかったため、彼のゴムバンドはほとんど伸びておらず、弾性的なエネルギーを十分に活用できていませんでした。

分析・評価後、この情報を元に、以下の目標を達成するためのトレーニングプランを作成しました。

グリップ部分を動作する時に骨盤と上半身の回転を均等にする→これにより、肩と骨盤の分離が増加します。

集中したウェイト・バットトレーニングでバットスピードを向上させる。

空中にボールを強く打ち、フィールドのプルサイド(ひっぱり)に打ち込む能力を高める。

彼はほぼ毎日、仕事を終えた後、バッティング・ケージで夜間プログラムを実行しました。トレーニングの根本は、テクノロジーを駆使しつつ、客観的なフィードバックを活用することです。

使用した機材やツールはBlast、K-Vest、Rapsodo、そして、ビデオです。
その上で、ドリルとウェイトバットを取り入れました。

最後の課題は、最も効果的な指示を見つけることでした。

多くの方法を試しましたが、1か月に及ぶトレーニング、遅くまでの練習、多くのバッティング練習によって大きな進化を遂げました。



ヒールストライク(かかとからの着地)
時の平均ポジションの変化を見てみましょう
(0°はホームプレートと平行です):
骨盤: 46°→ 23°
上半身: 11° → 12°
ヒールストライク時の肩と骨盤の分離(Xファクター): 35° → 11°

骨盤の回転がかなり少なくなり、上半身の回転はほぼ同じままです。

これにより、ヒールストライク時に骨盤と上半身の回転がほぼ均等になるという目標が達成されました。

新しいフォームが固まり、骨盤は上半身の前で回転し、肩と骨盤の分離が増え、コアマッスルを伸ばすことで、弾性的なエネルギーを利用できるようになりました。

以前と比べて、ゴムバンドをより効率的に伸ばして「バチン」と戻すことができるようになったのです。

この改善されたグリップ部分の動作とバットスピードトレーニングの成果により、平均バットスピードは+5mph向上しました。

66-69mph → 71-74mph = +5mph

明確にしておきたいのは、肩と骨盤の分離が増えただけで、バットスピードが向上した理由ではない、ということです。
この+5mphの向上は、次の要因の組み合わせによるものです。

1, 効率的なメカニクス(肩と骨盤の分離の改善)
2, 専用のバットスピードトレーニング日を設け、ウェイトバットを使用
3, Blastモーションセンサーを使い、各スイング後のフィードバックを解析し、バットを速く振るためのトレーニング環境を最適化したこと

打撃のメカニクスは複雑です。

「バットスピードが+5mph向上したのは、肩と骨盤の分離が10°増えたからだ」と単純に言うことはできません。

肩と骨盤の分離が増えたことは確かに一因ですが、トレーニング中に速く振ることを促し、Blastセンサーでバットスピードをモニタリ
ングしたことが大きな役割を果たしました。

簡単に言えば、速く振ろうとする意識によって、効率的な体の使い方を覚えたことにより、実際に速く振れるようになりました。

バットスピードが向上し、新しいスイングが完成したので、実際のフィールドでテストを行いました。

ボールの飛距離は正しく解釈すれば、非常に有用なフィードバックを提供してくれるからです。

トレーニングでは、フック‘エムロングバットのドリルが基本となりました。

このドリルは、彼のロードとストライドを整え、骨盤と上半身が均等に回転するポジションに導きます。

長めのバットを使用することで、効率的に回転し、ホームプレートの前方でボールを
しっかりと打つことが求められます。

これらは、トレーニングプログラムで追求していた大切な適応力です。

様々な球種による練習は、新しいメカニクスがどれだけ「定着」しているか、より困難な環境で適応できるかを確認するために、とても役立ちます。

バットのノブに付けたBlastセンサーによって、フィールド上でも常にバットスピードを測定できます。

バットスピードが+5mph向上し、ボールを引っ張る能力を持ったことで、打球は以前よりもはるかに遠くに飛ぶようになりました。

ここで飛距離に関する驚くべき数値を紹介します。

バットスピード1mphの向上 = 初速1.2mphの向上 ≈ 飛距離7フィート
バットスピード5mphの向上 = 初速6mphの向上 ≈ 飛距離35フィート

彼が打つフライは今では10.6メートル、35フィートも遠く飛びました。

打球角度と速度から、打球の得点価値を推定し、どれだけ価値のある打球を打てたかを表す指標であるxwOBAconが向上したことを示しています。

打球距離で35フィートの違いは驚異的ですが、すべてバットスピードの向上によるものです。(つづく)


長い文章となりましたが、お読みいただきありがとうございます。
細かな動きを言語化することは非常に難しいですが、少しでも読まれた方にイメージを持っていただきたく、ヌートバーさんの練習についてお伝えさせていただきました。

次回はヌートバーさんの活躍を取り上げたいと思います。
お読みになりたい方はnoteでもお伝えいただければ、大変励みになります。

様々なテーマに触れ、野球、スポーツが好きになる方が1人でも増えるといいなと思います。
引き続きどうぞよろしくお願いします。

ドライブラインベースボールジャパン
スタッフ一同

ドライブラインのスタッフが英知を結集した
プライオボールです。

NPBの選手のみなさんも練習で使用されています。この機会にプライオボールでの練習、そして無料のドリルをダウンロードしてみては
いかがでしょうか?

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どうぞよろしくお願いします。