タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑱
「コーヒーを飲みながら」第1巻第3章《青島》ビロウ
元宮を出ていつものお決まりで島を一周する。小さな島なので、ただ歩くだけなら30分かからない。ジャングルを縁取る砂地には浜辺に生きることのできる植物たちを一堂に会したように色んな草木がある。竹のようなもの、見たこともない大きな鞘のマメ科の植物が群生している。
東側の浜辺にはビロウばかりで下草の生えていない場所がある。海が満ちて潮につかるために草は生えないのかもしれない。
青島はビロウが多いが、東側の場所は特に目立つ。潮の流れと関係しているのではないかと思う。
眼前は太平洋だ。ビロウの前に立って海を見ていると、水平線から小さく盛り上がって波が向かってくる。
海は果てしなく、水平線は果てしなく、その向こう側から波はやってくる。
そこへ最初のビロウが流れ着いたのはいつだろう。岩のくぼみに引っ掛かり、根を出し、芽を出し、海を臨んですっくと立った。やがて、枯れた草木は土になり、次々と流れ着いた草木が育つことのできる島になったのではないだろうか。
青島に流れ来る潮は、どこから来るのだろう。
弧を描く、果てしない水平線を超えて、目を凝らせば眩しくて目を閉じてしまう。
太平洋沿いなので、台風が来た時には直撃する。そのせいか、浜辺のビロウは斜めに倒れ掛かるように林立している。
その方向が、最初のビロウが流れてきたであろう方向に傾いているので、自らの歴史を語っているようだ。
私は、ビロウの物語を体験することはない。ただ、想像するだけだ。
ビロウに風は、その物語を囁いただろうか。波は話しただろうか。
海へ旅立ったある日の日差しを、波に揺れ続けたことも鬼の洗濯岩にたどり着いた時のことを種から種に伝えたか。
ビロウは、物語のその前も覚えているかのように、水平線へ傾いて林立している。
註釈 ビロウ
ヤシ科の常緑高木。東アジアの亜熱帯の海岸付近に自生する。
「コーヒーを飲みながら」第1巻 第3章《青島》ビロウより一部抜粋。
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星原理沙
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