星原理沙

ブログ始めました。理科的エッセイ、詩、小説を書いています。本格的に執筆を始めて約20年になります。 代表作 詩 「存在」「金とドミノ」 エッセイ「コーヒーを飲みながら」 小説 「海よ、私を抱きしめておくれ」       「青い夕焼け」 ほか

星原理沙

ブログ始めました。理科的エッセイ、詩、小説を書いています。本格的に執筆を始めて約20年になります。 代表作 詩 「存在」「金とドミノ」 エッセイ「コーヒーを飲みながら」 小説 「海よ、私を抱きしめておくれ」       「青い夕焼け」 ほか

最近の記事

タチヨミ「星原理沙 小説集 その1」

天空の国 第3話   景清さん 山菜や焚きものを山へ採りに行くときには、岩坂山の景清さんを訪ねる。 「景清さん。今日は筍を持ってきました。もうコサン筍も終わりです。夏は花でも摘んできましょうか。秋は、木の実やらキノコやら持ってきますよ」 「心平さん、何も持ってこなくても来てくださいよ。お話でもしましょう」 「私は、話が下手で。何を話してよいか、すらすら浮かんできません」 「カニを捕ったことやら、籠を編む話をしてください」 「はあ」 「お茶を持ってきます」 景清さんは、盆に湯

    • タチヨミ「星原理沙 小説集 その1」

      天空の国 第2話 ヨモギ茶  次の日、私は奈古神社に参りに行き、辺りを歩いて回ることにした。広々とした田の中にこんもりと古墳のような小山に奈古神社はあり階段を上った頂上の本様に参ると、宮司に会った。 「この近くに越してきたばかりで今日は神様にご挨拶です。ここはどういう神様を祀っておられますか」 「この奈古神社は江田神社と並ぶ日向で最古の神社です。ここ宮崎荘は宇佐八幡宮の領地で奈古神社も八幡様が祀ってあります」 「八幡様とは、守護神ですね」 「ここから街道を西へ行けば瓜生野八

      • タチヨミ「星原理沙 小説集 その1」

        天空の国 第1話                            荷車はガタゴトと小石に乗り上げては揺れて、私は牛のように黙々と汗を流しながら止まらずに引く。一人住まいの、僅かな家財だが重たいものだ。鍋と農具が重いのだろうか。それとも布団、それとも中はほとんど空っぽの行李、その中の古い刀か。  なぜ、農夫の生まれである父が刀を持っていたのだろう。粗末な古い刀であったとしても。父は武術など全く知らなかったし、理由を聞く間もなく急に病死してしまった。ただ、父にとっては大

        • タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉗

          「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》腹の虫 前略  私は、おなかの中で乳酸菌を飼っている。牛乳とヨーグルトを湯煎して保温鍋で作り、毎日欠かさず腸の中に乳酸菌を入れる。彼らは、ヨーグルトの味のようにマイルドでさわやかな生き物だと感じている。私の腸の中に彼らが住んでいると、私も彼らのように爽やかではつらつとした人になるような気がする。  もしも、腸内細菌と体が似るとしたら、マウンテンゴリラは腸の中にどんな微生物を飼っているのだろう。筍やジャンボセロリを主食にしてい

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉖

            「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》思惑  私はミクロになり細胞の海を訪れた。そこは浅い海のように光に満ちていて珊瑚のような核と魚のようなミトコンドリアと小エビのようなRNAがいて、イソギンチャクやヒトデのようにゴルジ体やリボソームや小胞体がいる。温かい小さな海だ。私は、思考と、記憶と、行動と、変化と、電気という文字を海に浮かべて迷宮の扉を開けようとしている。  ミトコンドリアとRNAは小刻みな運動のように泳ぎ、ゴルジ体とリボソームはそれぞれの作業を続け、

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉖

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉕

          「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》思惑  昔、勤めていた職場に科学者の人がいて、その人が研究していた桑の葉の染色体の標本の写真を見せてくれた。ビーカーの中で着色された染色体は、薄い緑の蛍光色を帯びた姿を現していた。染色体は肉眼では見えないので、見えているのは染色体が束になったものだ。個が集まってできた全体は個と同じ形になるのではないかと思う。だからきっと1本の染色体もこれと同じだろう。私は感動して、それを見るために研究所に勤めたいと考えた。 その数年後、望みが

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉕

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉔

          「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《4次元》  私たちは世界を3次元と認識する。そこに生まれそこで終わるので他の世界を知ることは必要のないことだ。しかし、4次元という言葉が現れ、縦・横・高さともう一つは時間だという。けれど、鳥もゴキブリも既に、考えたり決めたりせずに4次元で暮らしているのかもしれない。3次元プラス赤外線、3次元プラス磁界のように、人の認識している空間に別の世界がある。   夜空もエックス線をとらえてみれば星空は消えて、ブラックホールが輝いて見える。土の中

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉔

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉓

          「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《4次元》  起きたらすぐにティーポットに1杯分の水をやかんに入れて火にかける。ティーポットにろ過器を乗せてコーヒー豆を入れておく。まもなく湯が沸いてからコーヒー豆に細く湯を注ぎドリップする。きつね色のトーストにたっぷりマーガリンを塗り、コーヒーと一緒に食べる。  朝、コーヒーを飲み始めたときは頭がすっきりすることを感じていたが、最近はカップの中の褐色の湖面を漂う霧のような湯気を見つめて夜の余韻に浸っている。  コーヒーは夜の色。  

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉓

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉒

          「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》リサイクル  動物も植物も《分解・再生》の式の中にはまっていて、山も川も海もこの式を遺伝子情報のように持っている。星も最期に爆発して塵になってしまってから再生する。宇宙は?  もしも人間が《ゴミを残す》の式のまま宇宙へ行ったら宇宙にもゴミができる。《戦争をする》の式を持ったまま宇宙へ行くとスターウォーズを目指してしまう。式は消しゴムで消してもいいけど、《戦争をする》-《戦争をしない》=ゼロの引き算で消してしまってもいいし、もっ

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉒

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉑

          「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》手  デザート工場の工員として一番使うのは触覚だった。目でコンマ数ミリの狂いを見ることは難しい。私は指で板のくるいや歪みを調整しながら指先は目よりも十倍くらいよく見えていると思った。顕微鏡に例えると、手の方が倍率が大きいように思う。そして、鮮明にイメージすることによって知識による命令よりも滑らかに動くことを体感した。ロボットたちは発達し、ロボットたちに頼らないといけない場合もあるけれど、人の指は小豆も摘まめるし箱も折れるし機会

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら」㉑

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑳

          「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》手  デザート工場での仕事は、手指を細やかに使う仕事が多い。一番繊細だったのが抹茶ムースで、ムースの上に最後の小豆を乗せるのが難しい。ラインに付き準備している段階で煮た小豆が大きなボールに用意され、それとともにお椀くらいの小さなステンレスのボールとピンセットがあった。小豆とピンセット。まさかの通りで、小豆を一粒ずつピンセットで摘まんで、直径6センチから7センチほどのムースの真ん中に載せるのだ。コンベアーは速く、もたもたしてはい

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑳

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑲

          「コーヒーを飲みながら」第1巻 第4章《未来へ》未来のカタチ 中略   土を掘って作る動物の巣穴は、中はきっと丸い。木のうろに住む昆虫の巣もきっと丸い。卵も丸くて、星も丸い。円い花も、丸い実も中心があり最初の一か所から始まって成長するから円や球の形が多いのだろう。でも、それだけだろうか。蜂がハニカム構造を偶然作ったように森羅万象は一番良い形を示しているのではないか。   中略 三月、東日本を大震災が襲った。地震の規模は大きく、震源が海底であったこと、三陸地方の地形などの

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑲

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑰

          コーヒーを飲みながら」第1巻第2章《生き物たち》夏の光 西日は灼熱の鉄 開かれた溶鉱炉の中のように 煮えたぎって蠢いているのか 刻々と様子を変え 山の上に来る頃には 太陽は倦怠し 憂いた光は しっとりと風に混じる 山に隠れ始めると 夕の帳のせいか ソーダの中のオレンジになる 草抜きを終えると オクラと シソと バジルを収穫し 山に日が帰っていくように隠れるのを見届けて 私も家に帰る バジルが新鮮なうちにジェノベーゼソースを作る すり鉢で ニンニクと カシューナッツと バ

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑰

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑯

          「コーヒーを飲みながら」第1巻第2章《生き物たち》カブトムシ 森は カブトムシの匂いがした 足元には落ち葉が積り、腐葉土になっている。カブトムシたちは これからの寒い季節を腐葉土の中か、木のうろの中で過ごすのか。 腐葉土の中で卵から孵り、腐葉土を食べて大きくなる。腐葉土の中で 蛹になり、成虫になって土から出てからは樹液を吸って生きていく。 カブトムシは森の匂いがする カブトムシは森で 森はカブトムシ 森は動かないけれど カブトムシになって動いた 森は飛べないけれど カ

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑯

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑱

          「コーヒーを飲みながら」第1巻第3章《青島》ビロウ  元宮を出ていつものお決まりで島を一周する。小さな島なので、ただ歩くだけなら30分かからない。ジャングルを縁取る砂地には浜辺に生きることのできる植物たちを一堂に会したように色んな草木がある。竹のようなもの、見たこともない大きな鞘のマメ科の植物が群生している。  東側の浜辺にはビロウばかりで下草の生えていない場所がある。海が満ちて潮につかるために草は生えないのかもしれない。  青島はビロウが多いが、東側の場所は特に目立つ。潮

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑱

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑮

          「コーヒーを飲みながら」第1巻 第3章《青島》満ち潮 アートセンターへ「ムーミン展」を見に行った時のこと。入ってすぐにムーミンの像が置いてあった。ムーミンの足元に貝殻が散らばっていることに気づいたとき私は、一瞬にして青島の渚に立っていた。 打ち寄せて崩れる波の音がした 砂に上がってからまた深い海へ、沖へと戻っていく波の音が耳の奥で響く 波が砂を掻くように、胸を搔き、沖へ持っていく 満潮が砂浜を海に変えていき 少し荒くなった波が打ち寄せるたびに 夜を運んでくる 夕日が空を

          タチヨミ「コーヒーを飲みながら⑮