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タチヨミ「コーヒーを飲みながら」⑥
「コーヒーを飲みながら」第1巻 第1章 <落花生>捕らえる
ある日、葡萄の木を見ていた。碧色の葉は、大人の顔を隠すくらい大きく、風を受けて揺れる。しなやかに伸びる蔓状の枝は帆のような葉と一緒にしなる。枝は振り子の運動を続け、風が止まってからもその先端は弧を描いていた。もう少しで近くの柵に届きそうだ。再び、風が吹き始めてふり幅が大きくなった。
一瞬、風がぶわっと吹いたとき、葡萄の枝先の電話のコードのような螺旋の髭が柵に当たり柵を回った。一回りすると螺旋と螺旋が瞬時に絡んでロックした。もっと強く風が吹いても、絡んだ螺旋は丁寧に手で外さない限り外れない。こうして葡萄は自分の領域を広げ、さらに成長する。もしも枝が硬くてしならなかったら、もしも、葉が小さかったら髭の役割も、葡萄の生き方も違っている。
しなる枝と、帆のような葉と、螺旋状の髭で強い風の吹く一瞬を見事に捕らえた。
「コーヒーを飲みながら」第1巻 第1章 <落花生>捕らえる より一部抜粋 2016年7月7日発行 遍歴65号に発表の作品
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星原理沙