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身体情報学研究室(稲見・門内研) 運営方針
※2019年6月に執筆したものを2020年6月、2022年5月、2023年5月、2024年5月にアップデートしました。
はじめに
進学先やポスドクとしての所属先を選ぶ方のために、稲見が考える研究室の運営方針を示したいと思います。運営方針は外部資金、プロジェクト、スペース、スタッフ数、学生数などにより、半年ごとに大幅に変わります。最新の方針はラボのメンバーに問い合わせてください。
※研究の方針についてはこちらのnoteをご覧ください。
※このnoteに関するインタビューを記事にしていただきました。ぜひご一読ください。
研究を通して身に着けてほしいこと
当研究室に所属し、研究プロジェクトに携わることを通して修士学生は以下の点を身に着けてほしいと思っています。
世界最先端で何が起きているか、何がわからないのか、限られた領域で良いので知る
最先端技術を自らの手で再構成する
繋がっていない知見を繋げる
自らやりたいこと、やろうとしていることを論理的に説明する
知的に新たな貢献をする楽しさを覚える
自らの興味・能力・限界を知る(安全な失敗をする)
研究室の役割
研究室とは所属するすべてのメンバーが切磋琢磨しつつ成長する機会を提供する場であり、その活動を通して学術・社会に貢献する場であると考えます。
所属することで、スキルだけでなく、個々が自己評価としてのレベルアップ感を得て欲しいと思いますし、ラボにいることで、思考が加速するような場にしたい。つまり
「皆の頭」で考え「皆の手」で創造する場
であってほしいと考えています。
そして、たとえ世の中を直接変えることができなくても、世界の見え方を変えるような成果や卒業生を輩出することを目指します。
研究室の体制
2024年5月の時点で、メンバーリストにあるように、教員・研究員が9名(せんたん研究員の「くまモン」は除外します)、研究支援業務を行う事務スタッフも在籍しています。
また、博士課程学生は15名が所属しており、フルタイム、パートタイムの違いはありますが、教員・研究員と共に研究室のプロジェクトをリードし、学部学生、修士学生のメンターとして指導しています。
リサーチパーティー制度
当研究室の学生は、原則として「リサーチパーティー」と名付けた教員・学生数名により構成される複数の小グループに所属し、研究活動をおこないます。
パーティーと言っても社交イベントのパーティーではありません。研究という前人未踏の頂に安全にチャレンジするためには、登山のように複数人でパーティーを組み、ペースやスキルの違いをフォローしながら皆で進むことが大切と考えそのように名付けました。
修士学生は、まず既存のパーティーから1つか2つのパーティーを選び研究を始めます。M1の秋ぐらいまでには1つのパーティーに絞り修士論文を執筆することになります。
どのパーティーも魅力的でお勧めですが、研究内容だけでなく、プロジェクトのフェーズ(立ち上げ時、終了間際など)やメンターの方針により雰囲気が異なります。所属後しばらくして、自分にはどうしても合わないと思った場合、パーティーを変更することも可能ですが、研究は1からスタートとなってしまうので、短い修士の期間に何回も変更することは推奨しません。
なお、当研究室は稲見・門内研究室として一体運営しているため、どちらの教員が主任指導となったとしても、基本的に区別なく扱われます。ただし、希望者が特定のパーティーに偏った場合は、学生と相談しつつ配属を調整することもあります。
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学生に何を期待し、何を提供できるか
別のnoteで研究室を選ぶうえでチェックしておくべき項目を挙げました。ここではその項目に対応する形で研究室側としてできること、期待していることを述べます。
・研究テーマ:
当研究室は多数のプロジェクトが走っており、それぞれのプロジェクトを成功に導く責務があります。よって所属学生はプロジェクトに紐づけられたパーティーに所属し、研究テーマを選んでもらいます。研究を遂行しつつ、良いテーマを思いついた場合は遠慮なく共有してください。
ラボ内で価値が認められた場合には、次のオフィシャルなプロジェクトに繋がる場合もありますし、メインの研究テーマとなることもあります。
・研究計画:
大まかな方向性や、目標とする学会などは適宜示しますが、日々の研究はその目標を果たせるよう、教員やメンターと相談しつつ自身で計画を立ててください。
・スキルの学習:
研究室として機器の使い方の講習会、論文や文献などの輪読を行っています。もちろん適宜自主ゼミを企画することは大歓迎です。
・コアタイム:
研究室として日々のコアタイムは特に設けていません。つまり日々の研究のペースは自己管理することになります。なお、次項のミーティングなどには出席してください。
・ミーティングやイベントの頻度:
週1回2時間程度のラボミーティング、週1回程度のパーティーミーティング、定期的に行われる教員との個別面談がなどあります。また、必要に応じて共同研究先とのミーティングやなどがあります。
週例のラボの清掃や、月ごとに頻度は変わりますが、月1,2回程度行事、見学・取材対応が入ることがあります。
また、月に1回程度外部から講師をお招きして行う自在化身体セミナーを行っており、その模様はnote記事になっているのでぜひご覧ください。
・グループ研究:
内外の大学や企業との共同研究も多いため、他者とのコミュニケーションやコラボが苦にならないことが重要です。
一方でパーティーでの研究を行った上で、別途IVRCや未踏に有志でチャレンジしたり、個人として作品制作や新たな研究の立ち上げにチャレンジすることは大歓迎です。
・研究スペース:
研究室のヘッドクォーターとして、駒場リサーチキャンパスに設置した「リビングラボ駒場」は「皆の頭」で考え「皆の手」で創造する場をめざしています。そのような考え方から、修士学生は原則フリーアドレスで活動してもらっていますし、一緒に料理や食事ができるようなキッチンも備えています。
リビングラボ駒場以外にも実験スペースや、本郷キャンパス内のスペースもあるため、一人で集中したいときや、本郷で講義があるときなどは適宜作業場所を選んで活用してください。
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・実験機材:
ラボ内の工房にレーザーカッターや3Dプリンタなどのプロトタイピング装置があります。また、モーションキャプチャ装置等備えています。実験を進めるために必要な装置は必要性と優先順位を判断の上、試作したり購入することになります。
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・アルバイト、インターン、旅行など研究室外の活動:
きちんと研究が進めば問題ありません。長期のインターンや留学、旅行の場合は事前に相談してください。個人的には博士に行ってから短期で留学したり、海外の研究所などで適切な給料をもらいながらインターンを行うことをお勧めしています。
なお、当研究室を経て海外大学院に進学している学生は何人もいます。
・就職先:
電通大、慶應と異動してきたので、卒業生の就職先は、製造業、広告業、起業、コンサル、大学・研究機関など、多岐にわたっています。
また、社会人博士も在籍していたり、企業との共同研究も行っているため、各種企業の現状について相談できることも魅力かもしれません。
ラボとしての就職対策は特に行っていませんが、OB/OG訪問や紹介して欲しい企業がある場合は相談してください。
博士課程への進学を目指す方へ
以上は主に修士課程向けのコメントでしたが、博士課程学生には、研究室のRAとして
プロジェクトのテーマの発案
プロジェクトを推進するリーダーシップ
メンターとしての後進の指導
ラボ運営へのコミットメント
を期待しています。これらの項目は、研究者・技術者を再生産し、未来にバトンを渡すための最低限の要件だと考えています。もし現時点で不十分なところがあっても、ラボでの経験を通して学んで欲しいと思っています。
そして、当研究室で学位を取った学生には、既存の枠組みの中で優秀な成果を出す「ゲーマー」型研究者でなく、魅力的な領域を作る「ゲームクリエイター」的研究者を目指してほしいと願っています。
なお、当研究室は社会人博士の学生も歓迎しています。しかし、無事学位の取得に至るには、まとまって博士の研究に専念できる時間が必要であると考えます。
幸い本学大学院には、3年分の学費で最長6年まで在籍可能な長期履修制度があります。しかしながら、若くて元気のある学生がフルタイムで頑張ってようやく3年で取れるのが博士の学位です。通常の勤務体系で、夜や週末の時間を使っての研究は、体力的にも厳しく、(いらっしゃる場合は)ご家族の理解を得るのも難しいのではないかと思います。また、研究室の価値は他の学生や教員たちとふとしたきっかけで議論したり、他のグループの研究の被験者をやるなかでの気づきであったりします。
よって、社会人の方は雇用者側とご相談いただき、ある一定期間は研究に集中できるような体制を整えられたうえで、受験することを推奨します。
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取材・見学について
一般的な研究室と比較して、取材や見学対応は多いかもしれません。これは私自身の原体験に起因しています。
「アウトリーチ」という言葉を耳にする機会が増えました。しかし、私自身のモチベーションは極めてシンプルです。私は幼少時から科学館、科学雑誌、科学番組に触れてきたことで、自然と科学や技術に興味を持つようになりました。
以前も書いたけど、高校生の頃、化学部でYBCO系の酸化物超伝導体を合成すべく通学中に英語の論文と格闘していたら、偶然隣の席だった東大物性研の先生に声をかけられ、いつでも相談に乗ると名刺を頂いた。超伝導は研究者を志したきっかけの一つで今でもワクワクする。
— 稲見昌彦🌕INAMI Masahiko (@drinami) August 18, 2015
学生時代、NHK科学番組部でガッテンのメカとかイロイロお手伝いできたのもロボコンがきっかけ。僕の研究動画は当時学んだ「ガッテンメソッド」で作っている。
— 稲見昌彦🌕INAMI Masahiko (@drinami) May 10, 2012
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『ためしてガッテン』撮影風景。右が学生時代の稲見
僕が中高生だった頃、大学の先生やメディアの方にふとしたきっかけで声をかけて頂き、大きなモチベーションに繋がった。大学教員になった今、時間の許す限り多くの中高生にそんな機会を与えたいと思っていますし、信頼できるメディアの方々を通し適切に発信したいですね > RTs
— 稲見昌彦🌕INAMI Masahiko (@drinami) June 2, 2019
大学の研究の多くが税金により支えて頂いている以上、納税者の方々に理解を頂くこと、そして未来の研究者・技術者に楽しそうな背中を見せることは、先人からの「恩送り」だと考えています。
もちろん研究室のリソースには限界があるため、興味本位の取材は断っていますが、信頼できるメディアの方々の取材は、研究に支障の出ない範囲で受けたいと考えています。そして、未来を担う中高生に時間の許す限り最先端の科学・技術に触れて欲しいと願っています。
直接自身の研究成果には繋がらないかもしれませんが、この考えに賛同してもらえる方には、ぜひ仲間に加わって欲しいと思います。
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稲見のできること・できないこと
研究室の主宰者の役割として、学生側からはどちらかというとディレクターとしての職務を期待されることも多々あります。しかし私の役割は、研究を執行するディレクターとしての役割だけでなく、研究環境を整えるプロデューサーとして、そして自らのラボ運営だけでなく、大学での教育や運営、学会や国際会議などの研究コミュニティーの振興にも責任を有していると考えています。
週例のラボミーティングや定期的に開催される個別ミーティングには原則出席しますし、オフィスタイムもGoogleカレンダーで予約できるようになっています。そして時間が空いた時にはラボを回るようにもしています。(先端研には教授室は置いていません)
しかし、電通大で2003年に研究室を立ち上げた当時のように、日々学生に寄り添い、時間をかけて個々の学生と向き合うことは、今となっては残念ながら叶いません。
よって私個人だけでなく、ラボのスタッフやメンターと相談しつつ研究を進めて欲しいと思っています。
私の考える私自身の研究室での役割をまとめるとこんな感じです。
ラボメンバーをプロデュースする「アイドルマスター」
学部教育・講義
論文執筆管理
学生選抜
ラボスタッフの求人
ラボ全体のビジョン構築
研究の方向性の定義
クオリティ管理
研究領域への貢献
広報
そして、私の能力では難しいことは以下になります。
いつでもラボで会える
いつでも相談できる
研究の細かい指導・指示
プロジェクトの数日~数週間オーダーでの進捗管理
論文の細かい添削
就職の細かい指導
これらはあくまで稲見個人として対応が難しいことですが、所属したパーティーでメンターの教員や先輩には気軽に相談できます。学生数に対して教員数は多いため、ラボとしてはそれなりに手厚い指導が行われていると考えています。
稲見の使い方
先に述べた稲見のできること、できないことを踏まえた上で、私の活用法をお伝えします。
急を要し判断や処理に2分以上かからない案件はSlackなどリアルタイムのツールを活用してください
判断に2分以上かかりそう/インタラクティブな対話が重要な案件はオフィスタイムを活用し、記録と検索性のため、メールも送ってください
研究の「見立て」(学術的に面白い・面白くないの判断、向上するための提案)は得意な方なので、うまく活用してください。スライドでの説明でなく、できるだけプロトタイプや実験系を見せ、体験させてください
企業や海外ラボの見学、インターン紹介、推薦
おいしいお店の探索
稲見でなく、「チーム身体情報学研究室」を
私の研究室を志望するきっかけとして、マスメディアやソーシャルメディアで我々の研究を目にしたり、私の講義を受けて興味を持った方も多いと思います。
しかし、F1ドライバーが多くのピットクルーやエンジニアに支えられているように、世の中から見える私のイメージやアウトプットのほとんどが、ラボメンバーや共同研究先とのコラボレーションによるものです。
今までの人生で、私より学業や技術面で優秀な人に数多く出会ってきました。そんなハイスペックな才気あふれる友人と比較したとき、自らの不甲斐なさを恥じ、焦燥し、落ち込むことも度々ありました。
僕がたまに学生に話していることの一つが「慌てるな、でも続けよう」
— 稲見昌彦🌕INAMI Masahiko (@drinami) April 23, 2019
身近に各種コンテスト入賞者や国際会議で発表する人がいて、ネットでは世界的に活躍する超人が嫌でもに目に入り、比較したとき自分は何者でもないことに悩み、焦ってしまう。
でも、ある時気付きました。私は自分より優秀な仲間を見つけ、仲良くなり、楽しくプロジェクトを進めることは得意かもしれないと。
そういえば学部一年の時、東工大ロ技研にARMS立ち上げたし、計数ARIELはD生の頃立ち上げのお手伝いしたし、電通大ロボメカのVR部隊は着任2年目で当時学生だった @y_Hb 先生と立ち上げたし、意外とあちこちで研究室以外の学生VRグループ設立に関わっているな…
— 稲見昌彦🌕INAMI Masahiko (@drinami) March 7, 2017
いくら人間拡張工学の研究をしていても、私自身の研究者としての才能は人並みですし、マネジメント能力は残念ながら凡人以下です。それゆえ紆余曲折もありました。しかし、幸い現在の身体情報学研究室には相当魅力的なスタッフと学生が集っています。
皆さんから見える身体情報学研究室とは、人間拡張された私でもあります。そして研究室とは、私だけでなく皆さんの能力を拡張する場でありたいと願っています。
たとえ当研究室を知るきっかけが私や私の研究であったとしても、何度か深呼吸をし、このnoteに再度目を通した上でもなおチーム身体情報学研究室に魅力を感じて頂けるなら、ぜひメンバーに加わってください。
我々と共に面白い研究をやり、世界の見え方を変えましょう。
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