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ドラクエ3HD-2D「リメイク」に求められていたこと

前回、ドラクエ3HD-2Dの戦闘システムについて不備があるという記事を書かせていただきました。
今回は戦闘以外の部分について、スクエニのプレイ後アンケートで書いた内容に沿って詳述してみたいと思います。

ちなみに前回の記事にもありがたいことにコメント欄やSNSで反応をいただきまして、noteやってよかった~などと年の瀬に感動などしております。


お前は誰

前回は自己紹介もそこそこに本文を書き始めましたので、あらためまして。
ファミコン+1歳の通りすがりのゲームプレイヤーです。この年齢からして、日本のテレビゲーム史をほぼ追ってきたような生き方をしております。

「目が悪くなりそう」という理由でファミコンこそ買ってもらえませんでしたが、従兄弟や友人の家でファミコンを遊び、別の従兄弟からもらったMSXをいじり。そしてスーファミからコンシューマーゲーム機デビューをしました。
いや、厳密にはその前にカセットビジョンをもらって遊んでたかもしれませんが……書いてもみんな知らないよね?

そんなわけで、初プレイドラクエは5。
ラスボス撃破時に幼少期特有の大げさガッツポーズをしたら冒険の書がぜんぶ消えたという何物にも代えがたい思い出を持ちます。カートリッジは衝撃に弱い……!(教訓)
そんな私ですので、ドラクエ3にもそこそこに思い入れがあります。
以下、そんな人の文章となります。

Re: 世間的な評価についてのおさらい

前回の記事でも、noteやIGNの記事などいくつかの世間のレビュー状況についてご紹介したりしました。

そこでも触れましたが、本作を純粋に普通に面白かったと評価している方も大勢いらっしゃることは私も把握をしております。そのうえで、ある程度公平に状況を見るために、Steam版の販売ページも参照してみましょう。

Steamでのレビュー状況

Steamのレビューシステムは購入アカウントと紐づいており、購入しなければレビューできないうえ、レビュー者のプレイ時間も正確に把握できるので、ある程度は公正な感想が集まっているハズです。
ただし、Steamの利用にはPCまたはSteamDeckを所有しているという前提があるため、ある程度ゲームに慣れた人の感想が集っているという点には留意が必要です。

2024/12/27閲覧。販売価格7678円

ドラクエ3HD-2DのSteam版の評価ですが、執筆時にはやや好評に落ち着いています。まぁ悪くない感じに見えますね。ですが「やや」というのは一般的にどれくらいの意味を持つのでしょうか。
比較のため、本作の一ヶ月前に販売された同じくスクエニ社の同じくリメイク作品である、ロマンシング サガ2 リベンジオブザセブンのSteam版販売ページも確認してみます。

2024/12/27閲覧。販売価格6,820円……
がセールで5,115円になっていた。

こちらは圧倒的に好評となっています。またドラクエ3側は販売数が圧倒的に多いハズ、その割にはレビュー数に大した差がないのも気になるところです……

ところで、やや好評圧倒的に好評は、どちらも好評という方向性ではありますが、具体的にどれくらいの差があるのかご存知でしょうか?
英語を日本語に訳したもののため直感的にわかりにくいのですが、実は結構大きな差があります

redditのr/Steamより引用(引用元スレッド
  • Overwhelming Positive:圧倒的に好評

    • 肯定率95%以上かつレビュー数500以上

  • Very Positive:非常に好評

    • 肯定率80%以上かつレビュー数50以上

  • Positive:好評

    • 肯定率80%以上(かつレビュー数10以上)

  • Mostly Positive:やや好評

    • 肯定率70%~79%(かつレビュー件数10以上)

  • Mixed:賛否両論

    • 肯定率40~69%(かつレビュー数10以上)

『やや』だろうと好評なんだからいいじゃん!」ではあります。が、圧倒的に好評を得た作品と何が違うのかを考えることが無意味ではないということもお解りいただけるかと思います。
統計的に有意な差が出ない限り、つまりまぐれや当たりどころの差ではない理由がなければ、こうした差は起こり得ないからです。

先週くらいの状況

やや余談ですが、この記事は2週間くらいかけてチマチマと書いてました。その間(12月19日)にも一度レビュー状況を確認してたので、それも比較してみましょう。
12月19日時点では全期間レビューがやや好評(肯定率70-79%)、最近のレビューは賛否両論(同40-69%)となっていました。この経過を見るに全期間評価も70%~79%の前半気味を推移している可能性が推察され、残念ながら「手放しの称賛」とは言えない評価であろうということが読み取れてしまいます。

※Steamのいう「最近のレビュー」とは「過去30日のレビュー」という意味。

書き忘れていましたが、Steamのレビューは「👍️」と「👎️」の2択で、「👍️を入れた人の割合」が肯定率になります。
レビュー内容で「だいたい良かったけどここは改善してほしい」「だいぶ悪かったけどここはよかった」のような中庸な意見は個別のレビューを見ないとわかりにくい点には注意が必要です。

端的に換言すれば

みなさんのレビューや感想をざっと眺めたうえでの筆者の分析としては、HD-2D版を(フル)リメイクと捉えた人にはとことん不評であり、リマスターと捉えた人には概ね好評であったのではないかと個人的に推測しています。

ゲームでHD版といえば、スカイウォードソードHDのように「リメイクではあるもののグラフィック等を主に強化したもの(+α要素もあるけど少なめ)」というニュアンスを含むと私は解釈しています。リマスターも似たような意味ですね。
一方のリメイクは、たとえば2Dだった作品を3Dでグリグリ動かせるようになるなど原作とはだいぶ違うものになるというニュアンスを含むと思っています。フルリメイクとも言いますね。

本作はHD-2D版制作決定の初報ではHD-2D Remakeと銘打たれていました。が、発売が近づいて以降はHD-2Dで蘇るというような表現がなされており、今回のHD-2D版がいわゆるリメイクなのか、追加要素が多めのリマスターの立ち位置だったのか私にはわかりません。
いや「私には」どころか、本作の販売にあたったパブリッシャー及び開発が本作をどのような位置づけの作品であり誰に向けた作品なのか理解しないまま進行したために様々な軋轢を生んだのがこの結果なのだと私は推測しています。

引用:ファミ通.com (2021.05.27 09:30更新)
「『ドラクエ12』『ドラクエ3』リメイクなどDQ最新作情報まとめ。発売日や対応機種は?」
https://www.famitsu.com/news/202105/27221758.html

少なくとも、リメイク作品なのだから原作を尊重しつつ新しい遊び方を楽しめるのだろうなぁと期待していた人ほどダメージを受けているのは確かのようです。老人介護用ドラクエとしてストーリーざっくり眺める用としては普通に楽しめた(意訳)というTwitter(X)で見かけた感想が、ある意味ではしっくり来たかもしれません。
また、本作が初めてのドラクエであった方には、そもそも原作が神なので原作要素で(たとえ劣化したとしても満足するため不満が少ないのもありそうです。

また前の記事では本作の戦闘システムがこうした問題を助長しているのではないか……という内容を書いたのでした。
そして前置きが長くなりましたが、ここから以下は戦闘システム以外の部分を触れていきたいと思います。

……なんだかんだ、かくいう私も、バラモス城行くくらいまでは文句もありつつ楽しんだんですよね。


よかったところ

そんなわけで、ここからは私のアンケート回答を元にして、ドラクエ3HD-2Dを振り返ってみます。

オリジナル版から継承された部分

言うまでもないですがドラクエ3は名作です。ファミコン版発売時には社会現象にもなりました(→参考)……というか社会問題に片足突っ込んでました。当時小学生だった私も、学校で関連する注意喚起を受けた覚えすらあります。
とまぁ、やはり原作が神なんだから今作でもその部分は悪くなりようがありません。原作の体験を阻害するという意味で大きく悪化した部分こそあれど、ある程度は追体験ができているハズなので。
これってHD-2D版の評価なのかなぁって気はしますけれども。

追加ストーリー

これはプレイした人なら納得されるはず。
思うところがある部分もありますが、文句を言いつつドラクエ1・2の購入をせざるを得ないかと悩む程度には評価しています。
ただ「勘違いするなよ」と前置きするなら、「本作が面白かったからではなくストーリーの続きを人質に取られているから買わざるを得ないに過ぎん」と続けるような心境ではあります。

ストーリー途中の追加ボス

間延びしていた部分をグッと引き締める、よい追加要素だったと思います。我々既プレイ勢すら「おっ」とワクワクさせる要素ですから否定することもないでしょう。
無論、今回初めての人には「どいつが追加だったの?」という感じだったでしょうし。


そもそも「ドラクエ3」とは?

先ほど書いた「原作の体験を阻害するという意味で大きく悪化した部分こそあれど」という「悪い部分」を説明するには、ドラクエ3という作品が何故神作と呼ばれたのかを理解しておく必要があると思いました。
ゆえに以下で説明します……少し長くなるぞ。

「冒険の旅」

ドラクエシリーズの最大の特徴は冒険の旅ができることです。
世界を巡り、謎に挑み、強敵に挑み、未知の大陸を発見し、別れを体験し……こうしたゲームでの体験を我々は冒険という一言で表せています。
ドラガリアロストのCMでも大泉洋さんが「冒険してますか?」という問いかけをされていたのは全人類の記憶に新しいところですね。

記憶に新しいところですよね? ね??

ドラガリアロストを引き合いに出したのはドラゴンつながりということもあるし私の人生マイベストゲームがドラガリアロストなのでこの機会になんだっていい!ドラガリアロストを布教するチャンスだ!理由なのですが、そもそも和製作品でドラゴンが特別な存在として認知されているのもドラゴンクエストという作品があるから、という側面は強くあります。

ところで、そんなドラゴンクエストという作品は最初から3部作として意図されていました。1・2をこれからプレイする人向けに多くは語りませんが、日本にコンピューターRPGというものを根付かせるために堀井雄二氏が仕組んだ壮大な仕掛けこそ、ドラゴンクエスト1~3という3作品で、その集大成にして目指す完成形こそがドラクエ3でした。

簡単に言えば、ドラクエ1でRPGの作法と一人旅に慣れてもらい、ドラクエ2で与えられた仲間での3人旅を楽しんでもらう。
そして本命のドラクエ3で、自分の手で4人ものパーティを組み自由に広大な世界を旅してもらい冒険をする展開を最初から構想していたとされています。

なお3作品に分けた理由はそれだけではなく、「ファミコンの性能」がアップするまで待つ必要があったという事情も指摘されています。
ファミコンはカートリッジ(カセット)を採用しており、カートリッジに細工することである程度の性能を上げたり拡張することが出来ました。

果たしてその狙いが当たり、ドラクエ3は社会現象にすらなったのです。
現実の世界地図を模した世界地図の先には、現実世界の文化をある程度反映した様々な国があり、まるで自分が未知の世界を旅しているように感じられる。つまり冒険ができたのです。
その疑似体験があまりにも圧倒的であったためにドラクエ3は社会現象をも引き起こしたのです。

これが現実の世界地図(知ってるって?)
HD-2D版の世界地図。
アリアハン大陸以外は同じ配置だし、ジパングとかマジで日本列島。

ちなみに「ぼうけんのしょ」という名称が最初に採用されたのがドラクエ3でしたし、ドラクエ3のフィールドマップ曲は「冒険の旅」と題されています。

なお、冒険という言葉自体がゲームで使われたのがドラクエ3で初めてというわけではありません。前年にはリンクの冒険(ゼルダの伝説シリーズの2作品目)が発表されており、魔王の討伐譚も実現されていました。
しかし同作でも冒険というのは孤独な苦難の旅路であるというイメージが強く、大泉さんのようにワクワクするものというイメージで全面に推されたのはドラクエの影響が大きかったと私は認識しています。

『職業「勇者」』という発明

勇者というのは、一般的には勇気あるものや実績を果たしたものに与えられる「称号」です。ドラクエ3では当たり前のように勇者が職業として商人や僧侶と同列に語られています
厳密には「勇者は使命を果たす宿命を負うものである」ということを明示するためのものだったのでしょうが、この「勇者という職業」の概念が後世に与えた影響は大きいです。

原義からすれば戦士の勇者とか僧侶の勇者とか魔法使いの勇者がいても何らおかしくないハズなのですが、現代の異世界系作品では勇者は特別な才能あるいは職業として扱われることが多いかと思います(もちろん皆無とは言いません)。異世界から召喚されるのもだいたい勇者になりますし。

なお「勇者という職業」が初登場したのはドラクエ3が初でした。
魔王という巨悪」が作中に初登場したのもドラクエ3でした。
勇者が仲間とともに魔王を討つという物語」の形式が確立した作品がドラクエ3でした。

なんなら、現代では巷にあふれる酒場(冒険者ギルド)で仲間を集って冒険に出るというフォーマットの和製作品の源流すら、間違いなくこの作品にあると言えます。

職業自由な4人パーティを組めるRPGとしては、FF1のほうがドラクエ3より少しだけ前に発売されています。しかしこちらはゲーム開始前に4人を編成し以後は固定という仕組みであり、ゲーム内にパーティ編成や転職という仕組みを自然に組み込んだ手腕は驚嘆せざるを得ません。

魔王や勇者という言葉自体がゲームで使われた歴史はもっと古く、先述のリンクの冒険以外にも、たとえばマリオが退治する大魔王クッパもドラクエ1の前年に登場しています。
しかし上記に挙げたような概念が一同に会して剣と魔法のファンタジー世界の基礎概念として結実し、かつ多くの人が目にすることになった(ぶっちゃければ売れた)作品はドラクエ3が初と言えるでしょう。
実はこれらの概念はコンピューターゲームではなくテーブルトークRPGなどで海外では盛んだったのですが、これを噛み砕いて日本でコンシューマーゲーム作品として見事に再編したのがドラクエであったと言われています(話すとさらに長くなるので大まかな説明ですが)。

ちなみに某フリーレンを食うことで有名なミミックのドラクエシリーズでの初登場もドラクエ3です(元ネタはもっと昔のテーブルトークRPG)。
また某フリーレンの属した勇者パーティが戦士・僧侶・魔法使いを連れているのも、ルイーダの酒場で「つれてゆくなら せんし そうりょ まほうつかいの3にんがいいぜ。ひっく。」と酔っぱらいにオススメされるパーティ編成と同じ。ドラクエ3オマージュとしてわかりやすいところです。

私達が『リメイク』に期待したこと

ドラクエ3という作品をリメイクするということが、そこらのRPG作品をリメイクすることよりもずっと重い意味を持つというのは、あの世代を通過してきた私達のおそらく共通認識です。誤解を恐れずに言えば聖書を紐解くに近い神聖な行為です。いやこの言い方どう考えても誤解を生むな
当然この作品に手を入れることが可能なのは、スクウェア・エニックス社(当時はエニックス社)しかいないわけです。当然ながら、スクエニ社自身がその意味を理解していないはずがないと私達は認識していました。

それを裏切られたという気持ちが、古参勢が沸き立ったり目くじら立てて不満点を挙げたりしているひとつの大きな原動力になっていると私は考えています。
最初の方で「リメイクと捉えた人にはとことん不評だ」と書いたことの真意もまた、この部分にあります。

我々(熱心なドラクエ3ファン)がドラクエ3のHD-2D版に求めたのは、当時のゲームの再現ではありません。当時の「体験の」再現です。つまりはあの冒険を再び味わえるというワクワク感こそが、ドラクエ3HD-2Dを遊びたいという最大の原動力だったハズです。
リマスターだったら許せた、というのもある意味そこにあります。原作に手を入れていない原作の再現だという暗黙の了解があるからです。

逆に言うと、それを実現してのけてみせたのが圧倒的に好評を受けているロマサガ2Rという作品です。私もプレイしましたが、その完成度とリメイクがすべきことをすべて成し遂げて昇華した良さに感動しました。
正直、今年のベストゲームと言っていいです。知恵かりもシレン6もよかったけども……!!

HD-2D版であの時代の社会現象になった熱狂を再現しろ……と言っても、それが無理なのは当然に理解しています。ですが、新たなハンマーで殴られる衝撃を期待していたら出てきたのは古びたハンマーでボコボコにされた原作となると、その失望も少しは伝わるでしょうか。

また、これは我々世代のエゴだと自覚はしているのですが……あの衝撃を現代の人たちにも追体験してほしいという気持ちがあってこそ、こうしてわざわざnoteなどに書き記しているのだ、と言い訳がましく書き添えさせていただきます。


……いや、待てよ?

自分の中のモヤモヤを書き出すために筆を執ったのですが、ここまで書いてふと思いました。

上述のような背景を知ったうえで、あらためてドラクエ3という「原点」がどんなものかを味わってみたいという人もいるのではないだろうか……?

本当はここから具体的にHD-2D版の「改善してほしい(悪かった)点」を書き出していくつもりだったのですが、どうしてもある程度はネタバレや核心的な内容に触れざるを得ません。それはゲーム体験においては余計な先入観になります

もし今の時点で「実際にちょっと覗いてみようかな」と思う方がいらっしゃれば、ぜひドラクエ3をプレイしてみてください。
ちょうどいいことに、HD-2D版にこだわらないなら2DのSwitch版がいまならセールで990円で手に入ります。ただし過去のスマートフォン版の移植で、ぶっちゃけSFC版からは大幅に劣化してしまっています。

本当はSFC版が一番オススメです。が、現在では入手とプレイ環境が難しいです。そういう意味で妥協的ではありますが、お安く試すにも2DのSwitch版はアリなのではないかと。
一方でグラフィックが格段に綺麗で追加ストーリーがあり、サラッと雰囲気を楽しむためには『快適』なHD-2D版を選ぶのも、いま遊ぶなら悪い選択肢とまでは言いません。本当はSFC版がオススメですが
(FC版は入手が困難。というか、そもそも流石に現代から見ると不便すぎるのでオススメはしません)

と、そういうわけで……今回の記事は一旦ここで区切らせていただこうかと思います。以降の項目はまた明日あたりにアップいたします。
明後日のコミケに参加するので、準備の具合では後日になるかもしれませんが……!


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