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【無料】ガールグループとは何か② パフォーマー、プロデューサー、ソングライターの分業制が起こす化学反応

ガールグループとは何か②

パフォーマー、プロデューサー、ソングライターの分業制が起こす化学反応

また○○における現代の「ガールグループ」の解説をいま一度振り返ってみると、2番目に多く言及されている区別化表現は「楽器の演奏をしない」 、つまり“ガールグループは音楽活動における主体性を持ち合わせていない”という示唆である。
これも1960年代アメリカの人気ガールグループに目を向けてみると、彼女たちのサクセスストーリーを語る上でソングライターやプロデューサーの存在が欠かせないという点に、イメージの一致を見る。

特に1960年代初頭のアメリカ・ガールグループにおいて、力を発揮していたのは「ブリル・ビルディング・サウンド」のクリエイターたちだった。
ブリル・ビルディングとはニューヨークに実在するオフィスビルの名前で、もともと戦前から音楽出版社や関連事務所が多く入居していた建物なのだが、若者向け音楽市場が大きく成長する1950年代後半になると、このブリル・ビルディング内でも若者向け音楽作品への需要が高まり、ターゲット層に近い感性を持った若いソングライターが集められるようになっていた。そして1960年代初頭になると実際に、ブリル・ビルディングで若き才能が生み出した作品たちは、ロックンロールと入れ替わる形で次々にアメリカの若者の心を射貫いていく。

実は前述のシュレルズも、このブリル・ビルディング・サウンドを武器にスターダムへと駆け上がったグループのひとつであり、『Will You Love Me Tomorrow』を提供したのはブリル・ビルディング・サウンドを代表するソングライターチーム、ジェリー・ゴフィン&キャロル・キングであった。
ジェリー・ゴフィン&キャロル・キングは他にも4人組ガールグループのシフォンズ(『One Fine Day』全米5位)、また優等生的若手ポップス歌手のボビー・ヴィー(『Take Good Care of My Baby』全米1位)のヒット曲なども手がけている。
(ちなみに10代からブリル・ビルディングで作曲活動を行っていたキャロル・キングが世界的シンガー・ソング・ライターとして知られるようになるのは、この後のことである)

また同じくブリル・ビルディング・サウンドの関係者としてよく知られている人物に、フィル・スペクターがいる。彼はもともと男女混成コーラスグループ・テディベアーズのメンバーとしてレコードデビューしており、1958年には自身が作詞作曲を手がけた『To know him is to love him』が全米1位を獲得していた。
するとその反響で自信をつけたスペクターは、自分の目標を歌手から音楽プロデューサーに変更。そしてグループの解散後に修行先として自ら選んだ場所が、あのブリル・ビルディングだった。
やはりブリル・ビルディング・サウンドを代表する有名ソングライターチーム、ジェリー・リーバー&マイク・ストーラーのスタッフとして経験を積んだスペクターは、1961年になると自身のレーベルを設立。
以降はブリル・ビルディングのソングライターたちと組みながら、本格的に音楽プロデューサーとして作品を発表するようになっていったのだ。

フィル・スペクターが手がけたガールグループのヒット曲には、ブリル・ビルディング・サウンドのソングライターであるエリー・グリニッチ&ジェフ・バリーと組んで制作されたクリスタルズ『Da Doo Ron Ron』(全米3位)、ザ・ロネッツ『Be My Baby』(全米2位)などがある。
またこれらの楽曲は後に、フィル・スペクターのこだわりが凝縮された革命的録音技術「ウォール・オブ・サウンド」の代表作としても評価されるようになっていった。

ちなみにガールグループの存在を介して広まった「ウォール・オブ・サウンド」が、後の音楽界にもたらした影響はあまりにも大きい。
カーラジオでザ・ロネッツ『Be My Baby』を偶然耳にしたザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンは、この時に受けた強い衝撃をきっかけに楽曲制作に没頭し始め、後に歴史的名盤「Pet Sounds」を生み出す。
「音楽活動における主体性は持ち合わせていない」。そんなガールグループの存在は視点を変えると、クリエイターにとっては音楽史を書き換えてしまう可能性さえ秘めた、偉大なチャレンジの場でもあるのだ。

The Chiffons『One Fine Day』

The Crystals『Da Doo Ron Ron』

The Ronettes『Be My Baby』

参考文献:

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