バイタルとは? ③患者の体が送るサインを見逃すな!
真面目な話題に戻ります。続いての症例です。応用編です。
解けたらすごい!!
症例2
60歳男性、昨日暑い中あまり水分を摂らずに外で仕事をし、その後より安静時の倦怠感を訴えるようになったため、熱中症の疑いで本日の朝入院。
本人の訴えは軽微だが、家族からみると元気がないようにみえるとのこと。夕方になり倦怠感の増悪を訴えるようになった。記録を見返すと排尿が日中一度もなく、違和感を感じた病棟看護師が連絡をした。
18年前に心筋梗塞を起こして心肺停止で搬送、人工心肺を導入して緊急カテーテル治療(経皮的冠動脈形成術:PCI)を受けた経緯がある。一命は取り留めたが、心機能が大幅に低下しEF(左室駆出率のこと。正常値55%以上)は15%で、高度の心拡大を指摘されている。普段から軽労作で疲労するため、屋内の仕事をメインにしている。
自発呼吸はあるが呼吸回数は28/分、心拍数130/分、血圧70/45mmHg。意識レベルはGCSE3V5M6、体温は36.5℃。胸部不快感や呼吸困難の訴えはないが、全身の倦怠感を訴えており会話でも息切れが増悪する。
外来のカルテでは、大体心拍数80/分、血圧80/55mmHg程度。
聴診では明らかな心雑音・呼吸性雑音を聴取しない。
四肢末梢は冷たく、冷や汗をかいている。
心電図は頻脈であることを除いて普段と変化がなく、胸部レントゲンでは明らかな鬱血や胸水を認めない。
入院時の血液検査ではBNP:500pg/mlと高値だが、普段と変わらない。
さて、何を疑いますか?対応はどうしますか?
・・・まず、暑い中仕事していたとのことで熱中症を疑うのは違和感ないですよね。
ただ、意識が朦朧としているときならともかく、そんなに呼吸回数あがるでしょうか?また、熱中症なら四肢末梢が冷たくなるというのも少し違和感があるように思います(勿論、そういうこともあります)。
四肢末梢が冷たくなる、ということは末梢に血液を送る余裕がなくなっているということ。末梢の血管を締め上げて、中枢の臓器を守っているんですね。排尿がないのも、腎臓に血流を回す余裕がないのかも・・・?
ここの時点で、既にやばいですね。
ゆっくり検査をしている場合ではなさそう。人を集めましょう。
では心不全の増悪か?でも胸部レントゲンでは鬱血がありませんね。呼吸困難になる理由がない・・・
そう思った方はちょっと待って!
呼吸ってそもそも何のためにしていますか?
酸素を取り込んで、二酸化炭素を吐き出すためですよね。
我々は普段苦しくなくても、全力疾走すれば苦しくなって頻呼吸になります。あれって何故ですか?
・酸素の供給が、需要に追い付いていない
・蓄積される二酸化炭素の排出が追い付かない
のでは?
つまりこの方は安静にしていても、我々が全力疾走しているときのような状態なわけですね。ではなぜ?
ここで心機能を思い出してみましょう。
この方、心機能が悪いですよね?普段の軽労作時の息切れはこのためでは?
さらに思い出してみると、前日に熱い中仕事をしていますね。
脱水になって、循環血漿量が低下しているのでは?
答えは、
低心拍出量症候群
でした。病名ではなく病態です。
要は、心機能が低下しているために、安静にしていても酸素供給が間に合わない訳です。結果として常に無酸素運動をしているような状態になります(雑な説明なので、後日記事を載せます)。
ではどうすればいいか?酸素の需要 > 供給の状態が続くのが悪いなら、
需要 < 供給にしてあげればいいのです。
方法は大きく分けて2つ。
➀供給を上げる
⇒酸素の投与量を増やす(強心薬の導入、酸素投与量の増加等)、人工心肺等のデバイスを用いる(PCPS等)
②需要を下げる
⇒心臓の仕事を肩代わりするデバイスを用いる(人工呼吸器、IABP等)
一応分けて書きましたが、例えばIABPは➀と②の両方の要素を持ちますね。
この患者さんは、血液ガスを採取するとpH:7.1まで低下しており乳酸が5mmol/l(正常値は2mmol/l以下)まで上昇していました。
人工呼吸器を準備している間に意識がなくなり、直ちに用手換気を開始、気管挿管をしつつ応援を呼び、PCPS+IABP+強心薬を導入して救命に成功しました。
現在は人工心臓(destination therapy:DT)を導入し、元気に通院しています。
いかがでしたでしょうか?
疾患を知らなくても、バイタルを説明できる病態を考えることで迅速に治療に移れる場合があります。
是非、明日からバイタルに細かく目を向けてみてください。
今度は心電図や心エコーについても解説していきます。
どうでもいい話にも付き合ってください!
記事を読んで「勉強になった!!」という方は、