『Woody Goss解体新書』どこよりも詳しいWoody Gossまとめ [2]:Woody Goss作曲&参加音源一覧
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、20回目の連載になる。では、講義をはじめよう。
(👆Vulfpeckの解説本をバンド公認、完全無料で出版しました)
前回は『Woody Goss解体新書』 [1] として、Woodyの経歴、スタイルなどを紹介した。今回は、彼の参加音源についてまとめていきたい。
Vulfpeck(ヴォルフペック)
まず、Vulfpeck(ヴォルフペック)での録音についてだ。結成メンバーの彼は、全てのアルバムに参加している。そして、多数の作曲を担当した。
(👇バンド結成時のストーリーについてはこちら)
初期の「Mit Peck(2011)」、「Vollmilch(2012)」、「My First Car(2013)」、「Fugue State(2014)」では、
A Walk to Remember、Mean Girls(2012)、The Birdwatcher、My First Car(2013)、Fugue State、Newsbeat(2014)
を作曲。各アルバム2曲のペースになっている。
A Walk to Remember(2012)
Mean Girls(2012)
The Birdwatcher(2013)
My First Car(2013)
Fugue State(2014)
Newsbeat(2014)
そして有名になった2015年以降、「Thrill of the Arts(2015)」、「The Beautiful Game(2016)」、「Mr. Finish Line(2017)」、「Hill Climber(2018)」では、
Smile Meditation(2015)、Dean Town(2016)、Tee Time(2017)、For Survival (2018)を作曲している。
Smile Meditation(2015)
Dean Town(2016)
Tee Time(2017)
For Survival (2018 Mike Violaとの共作)
また、2020年に発表された「Radio Shack」もWoodyの作曲である。
そしてWoody作曲ではないが、単純にアルバムに収録されていないWoodyの演奏について。
Santa Baby(2016)
録音当時、アルバムに収録されることはなかった、Woodyのソロピアノ。
こちらは、1927年生まれのアメリカのシンガー、Eartha Kittの有名曲のカヴァーだ。この曲はGleeでも取り上げられている。
Woody Goss ソロプロジェクト
前回の記事でも少しだけ触れたが、彼は2016年にソロアルバムを出している。これが、彼のルーツに迫る名作である。
・Solo Rhodes(2016)
フェンダー・ローズ(電子ピアノ)を用いてソロピアノを弾く、という内容だが、選曲はすべてジャズピアニストのセロニアス・モンクの曲からだ。また、ジャケット、内容も、モンクの「Solo Monk」のオマージュとなっている。
モンクの「Solo Monk」は生ピアノのソロ作品となっており、それに対して、Woodyはあえて電子ピアノのフェンダー・ローズで挑んでいる。
Woodyは父のピアノによってセロニアス・モンクの曲を知り、そこからジャズの門を叩いた。そのルーツに時を超えて迫った、という作品だ。
このWoodyの「Solo Rhodes(2016)」は、CD化もされていないし、サブスクで聴くこともできない。試聴・購入はbandcampからとなっている。
Woody Goss Trio
また、2019年末に発表された、Woody Goss Trio名義による、「A Very Vulfy Christmas(2019)」も重要な作品だ。(サブスクではWoody Goss名義)
このアルバムにはいくつかの大事な要素が含まれている。
まず、Woody唯一の本格的なピアノトリオアルバムである、という点。ミシガン大学音楽学部でジャズを専攻したWoodyだが、その腕前はVulfpeckではほとんど披露されていないため、貴重な作品となる。
メンバーはWoody Goss(p)、Dana Hall(dr)、Joe Fee(b)、Matt Ulery(b)。
Dana Hallは、Woodyが若い頃からライブハウスで聴いていた、有名なジャズドラマー。この中では一番キャリアが深く、ブランフォード・マルサリスやロイ・ハーグローブなどとの共演歴もある。
Joe Feeは大学時代からの友人で、Matt Uleryは今Woodyが住んでいるシカゴのベーシストだ。基本的にはDanaとJoeのトリオで、たまにMattが弾く、というバランスになっている。(出典:https://www.third-story.com/listen/woodygoss)
そして、このアルバムはすべて、Vulfpeckの曲をトリオアレンジした内容になっている。内容はいわゆる古典的なジャズではなく、現代的な、広義のジャズとしてのアレンジだ。
Christmas in L.A.の陽気な雰囲気は、前述したモンクのソロ・ピアノにも通じるところがあり、こういうテイストがWoodyのピアニストとしての持ち味の一つなのだと、改めて感じさせてくれる。
Vulfpeckのセルフ・カヴァーとしてはTHE FEARLESS FRYERSもあるが、ファンクを離れたアレンジはこのWoodyのアルバムが唯一となるため、やはり貴重だ。
(👇THE FEARLESS FRYERSによるカヴァー)
そして、この作品は専用のアニメが作られた。13分ほどのアニメーションで、バックで流れる曲がアルバムから選曲されている。
アニメの内容はPeanutsとVulfpeckのマッシュアップで、VulfpeckのおなじみのメンバーがPeanuts風の世界でちょっとしたコメディを繰り広げる、というもの。
バードウォッチングされる鳥の名前が「Bernard Birdie」だったり、Vulfpeckの曲名がセリフ中に(無理やり)何度も登場したり、一瞬THE FEARLESS FRYERSが登場したりと、Vulfpeckのファンにとってはかなり面白いネタの宝庫になっている。
ストーリーは、SNSに疲れてしまったJackがネット断ちを勧められ、携帯からアプリを次々と削除。ついにはFacebookのアカウントまで削除してしまう。さあ、バンドはどうなる!?というもの。
脚本はWoodyが担当し、アニメーションはWoodyの友人の会社で制作された。ネット断ちをテーマにしたというのは、ネットが苦手なWoodyらしい脚本だと言えるだろう。
脚本の制作については、Woodyのインタビューで少し触れられている。
こういったパロディー、コメディーの作品が作られることは、実はJackの希望でもあった。
彼の2017年のインタビューで、「Vulfcomedy」についてのアイデアが語られている。
このように、「A Very Vulfy Christmas(2019)」はVulfpeckの派生作品のひとつなのだが、重要な要素を複数持ち、またJackの意図とも重なり合った作品であった。
Woody Goss Trio名義なのでVulfpeckファンに気づかれていない作品かもしれないが…是非とも、アルバム・アニメ共に楽しんでいただきたい。
YouTubeでの活動
Woodyは最近「Woody Gossチャンネル」を立ち上げ、そこで様々な活動を行うようになった。全ての動画は紹介できないので…どういった動画が上がっているか、を紹介させていただきたい。
まずは、Vulfpeckの曲の演奏について、自らがレクチャーする動画。
ここで登場するスーツ姿の「教授」キャラが、「Prof G(プロフェッサー・ゴス。P.G.とも呼ばれる)」だ。前回の記事で紹介したとおり、このキャラは彼の職歴が元ネタとなっている。
また、配信などでリリースされている、彼のソロ作品もアップされている。
これは先ほども紹介したVulfpeckの「Tee Time」を、Woodyがセルフカヴァーした作品に、PVを付けたものだ。ビデオの編集はWoody自身が行っている。
ゲームに勝てないEthan ManilowのところにWoodyがやってきて、スゴ腕を見せつけてクリアしていく…というストーリーだ。
Woodyは「"ティータイム世界記録保持者" Wooby Goss」ということになっている。
ゲーム機の筐体はドンキーコングで、操作盤はなぜかYAMAHAのシンセサイザー、reface CSだ。
また、操作するキャラクターはマリオではなく、恐らくRichard Teeがモチーフである。
「Tee Time」はキーボーディストのRichard Teeへのオマージュで作曲されているため、このPVでRichard Teeを登場させるというのは、かなり面白いアイデアだ。
このバージョンはオルガンを始めとしたキーボードが駆使されてWoodyのグルーヴが堪能できるテイクとなっているため、本家のTee Timeが好きなファンは必見である。
さらに、Woodyは友人のJeremy Dalyと結成した、「Woody and Jeremy」というバンドの動画をアップ。
ここでのWoodyは、さきほどのProf Gとは違い、リラックスした姿だ。
二人は一緒に曲を作り、7曲入りのレコードを作成。このアルバムには「Too Hot in L.A.」で、Joe Dartも参加。
そして、WoodyのYouTubeチャンネルの一番の特徴は、Prof Gによる自然レクチャーのビデオがあることだ。
これはいまのところ2作品しかアップされていないが、是非ともこの路線でも動画を作り続けていただきたい。Woodyの興味は音楽だけでなく、自然界にも向いているので、こうしたトークはファンとしては嬉しい限りだ。
サポート・ゲスト作品
最後に、Woodyのサポート・ゲストの作品を紹介して、今回のWoody Gossまとめの締めとさせていただきたい。
・ Michelle Chamuel / Face The Fire (2014)
My Dear Discoのメインヴォーカルだった、Michelle Chamuel のアルバム。こちらにはJack Stratton、Joe Dart、Theo Katzmanも参加している。
WoodyもJoeと同じように、My Dear Discoのメンバーの関連作に登場する回数が多い。これもやはり、彼がMy Dear Discoの熱心なファンだったことが関係しているのだろう。
・The Olllam(ツアー参加)
My Dear Discoの発起人だった、Tyler Duncanのバンド「The Olllam」にも参加。こちらはレコーディングではなく、ツアーへの帯同となっている。
・ Rachel Mazer – How Do We Get By (2019)
さらに、Tyler Duncanプロデュースで作られたRachel Mazer の「How Do We Get By 」にも参加。
この作品には、Woodyだけでなく、JoeとTheoも参加している。
アルバムはクラウドファンディングで作られ、Tyler Duncanのスタジオでレコーディングされた。Tyler Duncanスタジオ、もといバーバーハウス・スタジオは、VulfpeckのDeen Town、Cory Wong、Animal Spiritsなどでも使われた、ファンには馴染み深い場所だ。
・ Woman Believer – Dunzo(2019)
Woman Believerは、Vulfpeckの「Animal Spirits」を作曲したひとり、Christine Hucalの別名義での活動だ。この動画ではベースはJack、ドラムはTheo、鍵盤はWoody。
Woman Believerは2020年にも次々と曲をリリースし、それらはChristine HucalとWoodyの共同プロデュース&作曲となっている。
・May Erlewine and Woody Goss Band (2020)
さらに、May Erlewine and Woody Goss Band名義で、ニューアルバム「Anyway」を発表。Woodyはプロデューサー、プレイヤーとして参加した。
May Erlewineはミシガンのシンガーソングライターで、カントリーやブルーグラスを基本としたスタイルで2003年から活動している。
Woodyは、May Erlewineのアルバム「Mother Lion(2017)」でも共作しており、今回の「Anyway(2020)」が二回目のアルバムとなった。
👇(「Mother Lion(2017)」より。この鍵盤がWoodyの演奏)
今回の「Anyway」での「Woody Goss Band」は、レコーディングのために集められたWoodyの友人たちだ。追加の鍵盤にBen Joseph、ベースがAndrew Vogt、ドラムがPacky Lundholm。(出典:https://woodygoss.bandcamp.com/)
アルバムジャケットはクラシカルな雰囲気で統一され、写真撮影はMicheal Gossが行った。(出典:https://woodygoss.bandcamp.com/)
この人が恐らく、Woodyのジャズの門を開き、セロニアス・モンクのスタンダード・ナンバーを弾き続けた、Woodyのお父さんだ。今は写真家としても活動しているようである。
タイトルのフォントデザインはMotown Sign Co. (ミシガン大学の先輩、Jordan Zielkeの会社)が担当している。(出典:https://woodygoss.bandcamp.com/)
この記事を書いている段階では、このMay Erlewineとの共作「Anyway(2020)」が、Vulfpeckを除いた彼の最新作となっている。
内容的にもWoodyの中のジャズの要素、そして時折垣間見えるカントリーの要素がふんだんに盛り込まれている。Norah Jonesにも連なる、アメリカのカントリーとジャズの地平線にあるアルバムであり、かなりの名作なので、是非聴いていただきたい。
おわりに
二回にわたってWoody Gossという人物についてまとめたが、いかがだっただろうか?
彼はVulfpeckのメンバーの中でも最も露出が少なく、またその性格であまり多くを語らないため、我々が触れられる情報はすごく少ない。
それでも、ここ数年、積極的にYouTubeや、友人のプロデュース活動、また「A Very Vulfy Christmas」の制作など、Vulfpeck以外の活動でもかなり彼の世界を知る機会が増えてきているように思う。
今回、さまざまな記事に触れて理解できたのは、彼の世間的なイメージとのギャップ…Vulfpeckの中での影の薄いイメージではなく、自立したキャリアを形成しようと友人たちと一緒に素晴らしい音楽を作り、意欲的に苦手なネットへと飛び込んでいる姿だった。
さらに、Jackをはじめとした、Vulfpeckや、My Dear Discoのメンバーへの信頼と敬意…そういった真摯な一面もしっかりと感じ取ることができた。
彼の魅力はその作曲や演奏だけではなく、彼の優しくて、ちょっとおちゃめな性格そのものや、バードウォッチングに熱心な姿など…人間そのものとしての姿が、とても魅力的である。私は、そんな結論に至った。
最近の活動ペースを見るかぎり、これからも様々なアルバムや、YouTubeでの動画で我々を楽しませてくれることだろう。
これからも大いに、Woodyの姿に期待をしていきたい。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)
ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」