KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、46回目の連載となる。では、講義をはじめよう。
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Vulfpeck(ヴォルフペック)はリハーサルをやっていないのではないか。
これは以前から、海外ファンの間で噂になっていた事柄である。
例えば、有名なAncienne Belgique(アンシェンヌ・ベルジック)でのライブや、
LOCKIN'でのライブ、
果てはMadison Square Gardenのライブに至るまで、
実はぜんぜんライブのための練習をしていないのではないか?
と言われていたのだ。
実はこの疑惑は、過去のJack(バンドリーダー)のインタビューに端を発したものである。
これを読むと、少なくとも、レコーディングでは全くリハーサルを行っていない、というのが分かる。
しかし、ライブではどうなのか?このインタビューを読む限りでは、おそらくライブもそうなのだろう。
しかし、確証がなかった。
「ライブもリハーサルしていない」と明言されていないからだ。
ただ、各ライブの演出がほぼ固定され、いつも同じ演出になっていることや、転調した先のキーを誰も把握していないなど、リハーサルをやっていたらありえないようなミスが起こることなどから、
「おそらくライブもリハーサルはしていないのだろう」と言われ続けてきた。
そして、Jackはそこに対して口を開くことはなかった。
しかし――ついに私は見つけたのである。
彼の証言を。
そう、Vulfpeckのギタリスト、Cory Wong(コーリー・ウォン)が、自分のインタビューでその秘密を語っていたのだ!
――それでは以下、Coryのインタビューをご覧いただきたい。少々長いが、非常に重要なことが語られているため、全文必読である。
いかがだっただろうか?これは非常に重要なインタビューだったと思う。
まず、Coryが明言しているのは、
①Jackのアイデアで、例えライブでもリハーサルを行っていない
②たまにサウンドチェックをするぐらいだが、少なくともMadison Square Gardenのライブでは、それすら行われなかった
ということだ。
Madison Square Garden、あれだけの完璧なライブが、一回もリハーサルをやらず、サウンドチェックもなしで行われていたなんて!
もしあなたのバンドが生まれて初めてMadison Square Garden(世界一有名なアリーナスタジアム)でライブをすることになったら、どうするだろうか。一世一代の晴れ舞台、これまでで最大のステージ。失敗は許されない、そのためにできることは何だ?
普通なら全体のバンド練習であり、普通なら入念なサウンドチェックだろう。誰かが間違えたり、音が出なかったらどうするんだ???
しかし、そこでリハーサルなし、サウンドチェックなしを選び取るのが、Jack Strattonなのである。彼は恐れない。
ちなみに、先ほどのインタビューでは世界的なマンドリン・プレイヤー、Chris Thileについても面白い話が挙がっていた。
これは、ライブの映像にちゃんとその瞬間、ケーブルを繋ぐ瞬間が残されている。サウンドチェックを行っていないのに、まったく動じておらず、一瞬でケーブルを見つけてさっと繋いでしまうのはさすがと言わざるを得ない。
話を戻そう。Coryの証言でさらに重要なのは、
③リハーサルやサウンドチェックを行わないことで、ライブにマジックが起こる
ということである。
そう、Jackは理由なくリハーサルやサウンドチェックをやらないわけではない。それによってライブに魔法がかかり、皆が自分の殻を破る演奏をすることに期待しているのである。
Vulfpeckのライブはいつも、メンバーが全員とても楽しそうで、また、予期しない「何か」が起こりそうなワクワクに満ちている。ずっと、それが疑問だった。なぜVulfのライブは特別なのか?
その謎が今回、ひとつ解けたと私は考えている。それは、リハーサルをやらないことによって生まれる、メンバーが感じる期待と不安。そんなワクワクドキドキの感情が、メンバーから客席にも伝わり、それによって我々も「いま、この瞬間に何かが生まれている。新しいものが生まれている」と感じるのではないだろうか。
世界的に有名なドラマー、Bernard Purdieがゲスト参加したときにVulfpeckの曲をまったく聴いてこなかった、これも通常ではありえないことだ。4日間も一緒にライブをするという時点で、それではショーが成立しない。
だが、それをショーとして成り立たせ、さらに魔法をかけてしまうのがJack Strattonなのである。
(👆この動画の最初では、実際にJackのグルーヴとカウント提示で曲がスタートしている)
Bernard Purdieだけでなく、Vulfpeckのメンバーも、超人的な楽器スキルを持った一流のミュージシャンたちだ。そういった人たちを一同に集め、彼らの力を最大限に引き出すためにはどうしたらいいのか?
そのためにJackが考えたのが、「リハーサルをやらない」という方法なのだろう。もちろんその時間が無い、というのもひとつの理由だが、その「時間が無い」をネガティブに捉えず、逆に「だったらリハーサルをやらないで、ライブに魔法をかけよう」と勇気を持って行動できるのが、Jack Strattonなのだ。
例え、それがMadison Square Gardenのステージでも――。
勇者。
――これを勇者と呼ばずして、何と呼ぼう?
Jackの旅は続く。今週末には、世界的に有名なフェス、BonarooでVulfpeckのライブが行われる。
なんと、このステージでJackは、ステージ上でファンの結婚式を執り行う、という企画を立ち上げた。メンバーが牧師になり、愛し合う二人を祝福する、というのだ。
しかし、断言しよう。今回も、Jackは一切のリハーサルをしないだろう。今回の結婚式に関しても、まったく打ち合わせることなく、衣装やセリフの準備だけで済ませてしまうことだろう。
まったくありえない、考えられない、失敗したらどうするんだ――。
そんな言葉は、Jackには関係ない。
断言しよう。きっとその結婚式も、ふたりにとって最高の想い出になる。誰も何が起こるか分からない、しかし、「何か素晴らしいことが起きるかもしれない」。
そして、
それを実際に起こし、魔法をかけてしまえるのが、
Jack Strattonと、Vulfpeckというバンドなのだから。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
バンド公認のVulfpeck解説書籍
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ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」