フォントまで自分たちで作ってしまうミニマルファンクバンド「Vulfpeck」――その「Vulf文字」の歴史と購入方法まとめ
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、5回目の連載になる。では、講義をはじめよう。
(👆Vulfpeckの解説本をバンド公認、完全無料で出版しました。今回の記事で紹介する「Vulf文字」については、こちらの本でさらに詳しく解説を行っています!)
Vulfpeck(ヴォルフペック)は、とにかく、おしゃれだ。そのおしゃれさに、彼らのオリジナルフォント「Vulf文字」が大きく関わっていることは間違いない。
彼らの動画には、イントロの「vulf」の文字から、演奏中に登場する文字まで、ある一貫したシリーズのフォントが使われている。
「Vulf Mono」そして「Vulf Sans」である。
これらのフォントはVulfpeck公式サイトでも全面的に使用されている。さらにそちらにリンクが貼られており、リンク先で誰でも購入できる。
私も実際に購入して使っているのだが、非常におしゃれで、Vulfpeckファンとして使っているだけでとてもハッピーな気持ちになれる。「Dean Town」に登場するフォントを自分のPCで使えるのだ。こんなイイことはない。
しかし、この「Vulf文字」は少なくとも2015年より前は頻出するというわけではなかったが、2016年ごろから動画内のフォントが明らかに統一されるようになってきた。
というわけで今回は、このフォントについて語っていきたい。
以上3枚は、Vulfpeckのデビューからの3枚のアルバムジャケットである。
2011年のデビューEP「mit peck」ではまだそれとわかる形では使用されていないが、2012年の「Vollmilch」ではすでに「vulf文字」が使われ始め、その次の2013年の「my first car」でも使われている。
(ちなみに、「mit peck」は英語で「with pack(群れと一緒に)」、「Vollmilch」は英語で「Whole milk(全乳)」。どちらもドイツ語である。Jackは最初の二年間はドイツ人のバンドだと思われていたとインタビューで語っているが、Vulfpeckがライブをやらず、レコードとネット配信のみという、当時の活動形態ではむしろ当たり前だろう)
しかし例えば2014年の「1612」、2015年の「Christmas in L.A.」など、動画にVulf文字は登場しても、字幕が別のフォントになっていたりと、動画内に統一性がまだ持たれていなかった。同時期のアルバム、「Thrill of the Arts」のジャケットも、おしゃれではあるがVulf文字ではなく、やはり統一性がない。
そしてこの記事から、当時Jackが好んで使っていたフォントが「Lacrima」「Pitch」であったことは分かっている。これらがおそらく初期のアルバムに使われたフォントもしくはその原型となる、「初期Vulf文字」だ。
しかし、リーダーでありバンドプロデュースを行っているJack Strattonは、これらのフォントを使っているだけでは、バンドのオリジナリティ、ブランド力を演出するうえで不足だと考えていたのだろう。Jackは自分達で自由に使えて、ファンが欲しがり、Vulfpeckのブランド力向上につながるフォントを作ろうと考えていた。
そして、2015年、ひとりのフォントクリエイターが、Vulfpeckのファンになったことから、この話は動き始めていく。
ここからは「Vulf Mono」「Vulf Sans」を作った「OH no Type Company」のJames Edmondsonの文章を引用しながら進めていきたい。(引用元:上記2リンク)
James Edmondsonは2015年10月8日に「Thrill of the Arts」のファンになり、その日の夜に自宅から5マイルのところで行われたカルフォルニアのVulfpeckライブに足を運び、さらに強力なバンドのファンになって帰ってきた。
そして彼らは連絡を取り合い――2016年5月、JackはJames Edmondsonにメールを送る。
Jamesはこのメールに感動し、二人はオリジナルフォントの作成に入る。
Jackはメールの中でも「Lacrima」「Pitch」を例に挙げているように、求めているのはIBMゴルフボールタイプライターでタイプできるような、レトロでおしゃれ、少し細めのフォントだった。
IBMゴルフボールタイプライターは、1960代に普及した電動タイプライターである。このの動画を見ても、やはりVulf文字と同じようなフォントが使われているのが分かる。
Jamesが莫大な数のスケッチを描き、Jackが短く(主に2語以内で――これは「尊敬の表れ」だとJames氏は語っている)返事をして、また新しくスケッチを描く。こうして彼らのオリジナルフォントは作られていった。
「紙にタイプされることで発生するフォントの生命力を、デジタルフォントに込めようとした」という、これらの文章を読んでいくと、いかにJamesがこの仕事を楽しみ、また誇りに思って真剣に取り組んでいたか、が伝わってくる。Jackだけでなく、Jamesもまた素晴らしい人物だ。
こうして試行錯誤の末、二人は「Vulf Mono」そして「Vulf Sans」を完成させた。これらのフォントはすぐに2016年の作品から動画に使われ、また公式サイト、そしてJamesの会社「OH no Type Company」でも販売されるようになった。
このフォントはたちまち人気になり、Jamesの会社「OH no Type Company」にとってもヒット商品になったようである。
また、このフォントは通常のフォントサイトでは販売されず、Vulfpeckの公式サイトか「OH no Type Company」でしか買うことができないため、買っているのは純粋にVulfpeckのファンたちだ。なので、Jamesは「どこでこのフォントが使われているのか、探してみるのが面白い」と語っている。
結果的に、「Vulf Mono」と「Vulf Sans」はVulfpeckのブランド力を大きく向上させ、現在でもファンの証として機能している。彼らの作戦は大成功だったということだろう。
では、最後にフォントの購入方法を紹介しよう。こちらのサイトに行き、まずは会員登録をしよう。画面左側の「sign in」をクリック。
下の「Create an account」にメールアドレスを入力し、届いたメールのURLでパスワードを作成。これでアカウント作成が完了である。
次に、こちらからフォントの販売画面へ。画面下部の「Add to cart」をクリック。金額はすべてまとめて90ドルだ。日本のクレジットカードで購入できるでの問題ない。
カートに入れたら、次の画面で「Checkout」をクリック。すると、住所氏名とクレジットカードの入力画面になる。
ダウンロード販売なので今回は住所は関係ないが、規則なので入力しよう。画面下の「Country」が国、次の「Zip」が郵便番号。
「State」は州だが、選択式なので日本の地名は選べない。次の「City」に県、市町村を入力し、最後の「Adrress」で残りの住所(番地・建物名など)を入力すれば良いだろう。
あとはクレジットカードの入力が終われば、めでたくダウンロード画面へと進めるようになる。アカウント開設からここまで数分で行える。非常に簡単である。
それだけで、こんな楽しい世界が飛び込んでくるのだ!
90ドルと決して安い買い物ではないが、買ったあとの多幸感は普通に一万円の買い物をしたときの比ではなかった。私がVulfファンだからだというのが大きな要因だろうが、貴方もここまで読んでしまうような熱心なVulfファンであれば、是非このフォントの購入を勧めたい。
以上、Dr.ファンクシッテルーの講義にお付き合いいただき、ありがとう。
次回「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」は、「Cory Wong解体新書」だ。日本語で初の、Cory Wong全解説記事となる。奏法、キャリア、全参加作解説。大量のインタビュー記事と共に、全2回でCoryの全てに迫る。お楽しみに。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
バンド公認のVulfpeck解説書籍
「サステナブル・ファンク・バンド」
(完全無料)
ファンク誕生以前から現在までの
約80年を解説した歴史書
「ファンクの歴史(上・中・下)」
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