2021年 Vulfpeckファミリー活動まとめ
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、32回目の連載になる。では、講義をはじめよう。
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今回は年の瀬ということで、2021年のVulfpeck(ヴォルフペック)ファミリーの活動をまとめておきたい。
2021年も悪疫が終わらなかったため、Vulfpeckとしての年間の活動はほとんど行われなかったが――
ここ最近、Vulfpeckは新曲や、ライブの予定が発表されるなど、活動再開へ向けて動き出していることが分かった。
というわけでそのVulfpeckや参加メンバー、さらにゲストメンバーなどの活動もまとめて紹介していこうと思う。来年が明るい年になることを願って。
1. Vulfpeck(ヴォルフペック)
まず、Vulfpeckは悪疫の影響で、ずっとメンバーが集まっていなかった。おそらく、10~11月ごろまでは活動停止だったと考えられる。
それまでの間、ジャックは過去曲をコンピレーションにしたレコード「Vulf Vault」シリーズをクラウドファンディングで発売。
これら4枚のアルバムは各メンバーにフォーカスした内容で、それぞれが作曲した曲だけを集めたり、参加した曲だけを集めたりといった形でコンピレーションが組まれていた。しかし、すべてが過去曲のみになっていたため、バンドの新しい活動を示している内容ではなかった。
ところが突然、
シリーズの5枚目が、「すべて新曲で」リリースされることになった!
この5枚目は「Wong's Cafe」というタイトルになっていることからも分かるように、コリー・ウォンをフィーチャーしたアルバムとなっている。
もし、まだVulfpeckが集まれる状況でなければ、このアルバムも過去曲のみのコンピレーションになったのかもしれないが…
今回はすべて新曲。ということは、
ついに今回、Vulfpeckは集まって新たにレコーディングを行なったのだ!
これによって、いよいよVulfpeckは活動再開だと言える状況になった。Vulfpeckチャンネルで新曲のMVが公開されているので、少し詳しく見ていきたい。
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「SmokeShow」
「SmokeShow」は、ウッディが作曲したものをコリーがアレンジ。コリーが鍵盤とサックス以外は全てレコーディング、後からエディー・バーバッシュ(※1)がサックスを追加した。
これはすべてリモートでレコーディングされたもので、コリーがほぼ全てを演奏していることからも、コリーのソロ活動の延長線上にある曲、とも言える。(出典:↓)
(※1 エディー・バーバッシュ(Eddie Barbash):コリーのバンドに現在参加しているサックス奏者。以前、Vulfpeckにも楽曲「Eddie Buzzsaw」で参加したり、ライブにも複数参加している。MSGライブではフィアレス・フライヤーズにゲスト参加した)
リモートだったのでレコーディング風景がなく、動画はジャックが作ったようで、なぜか1995年のジャンニ・ヴェルサーチの、春のランウェイが使われている。このあたりのセンスがジャックらしくてまた面白い。
「Disco De Lune」「You Got To Be You」
こちらの2曲は、アントワン以外の6人が集合してレコーディングされた新曲となる。
Vulfpeckのメールマガジンには、「Disco De Lune」「You Got To Be You」はコロラド州のデンバーでレコーディングされたものだと書かれている。これは過去に使われたことのないスタジオだ。
曲はどちらもジャックの作曲。初期の3枚まで、特に「Vullmilch(2012)」を思わせる昔懐かしいサウンド。ジャックやウッディのピアノを活かした、ファンクというよりもソウル寄りな、「歌のないモータウン」、モータウン・カラオケの曲調になっている。
活動再開!というタイミングで、約10年前の初期サウンドを持ってくるあたり、心憎い演出だと思わずにはいられない。
もう1年以上も、全員が揃ったところを見ていなかったので、この動画のリリースは正直、涙なしでは観られなかった。
さらにこれらの新曲発表のタイミングで、Vulfpeckは2022年の夏フェス出演もアナウンスを行なった。
2022年、7月8~10日に、マサチューセッツ州のマーシュフィールドで開催される、「Levitate Music Festival」に出演するというのだ。
新曲発表に夏フェス出演。完全に以前のVulfpeckの通常営業だ。
2016、2017年のツアーでは、夏フェスの後は海外ツアーへ出ているVulfpeck。これはもしかすると、もしかするかもしれない…。
2. Cory Wong
悪疫のなかでもただ一人、まったく活動のペースが変わらなかった…いやむしろ、さらに精力的に活動していたのが、コリー・ウォンだ。
2020年はリモートでレコーディングを行なって5枚のアルバム(さらにライブアルバム3枚)をリリースしていた彼だが、
2021年はリモートではなくスタジオに入って計4枚のアルバムをリリース。
コリーの活動の詳細については、また別の記事を予定しているので、ここでは簡単に。
この中で特筆すべきは、最後の「The Paisley Park Session」だ。コリー憧れのプリンスのスタジオで、プリンスのバックバンドのメンバー(ソニーT、ホーンヘッズ)を入れてのレコーディングセッションを行なったのである。
コリーもプリンスが実際に使っていた白いギターを持って弾いている。彼のキャリアの中でも重要なレコーディングになったと言えるだろう。
ここではなんと、「Dean Town」をカヴァーしている。プリンスバンドの全面バックアップを受けた、世界一豪華なカヴァーであるため、ぜひともご覧いただきたい。
またそれ以外にも、コリーはさまざまな活動を行った。まずオンラインギター教室を開催。
さらにポッドキャストで多くのレジェンド達にインタビューを行なった。これは「Wong Notes」シリーズとして2020年から継続的にリリースされており、2021年だけでもラリー・カールトン、ネイザン・イースト、ナイル・ロジャース、クリスチャン・マクブライド、ロベン・フォード、ジョン・マクラフリン、サンタナ、マイケル・リーグと、とんでもないメンツと喋っている。
そして、もしかしたら彼にとって、これがもっとも幸せなニュースだったかもしれないが――2021年は、コリー・ウォン・シグネチャーギターが発売された。
長年愛用してきたフェンダーのストラトキャスターを元にしたコリー専用ギターを、フェンダー社が特別にコリー・ウォンモデルとして発売したのである。
この青いストラトキャスターはコリーが幼い頃に父親に買ってもらったもので、以来傷だらけになりながら、ずっと使い続けてきたギターだった。
今回のシグネチャー化で、コリーはそのギターを父親にプレゼントしたらしい。これだけで泣ける。
コリーはツアーも通常通り行い、現在アメリカツアー中。2022年春にはヨーロッパツアーへ出発、4月まではツアーの日程が決まっている。これらのツアーには、アントワン・スタンレーも同行している。
3. Theo Katzman
テオも悪疫で活動がストップしていたが、2021年夏ごろから少しずつソロ活動を再開させていた。
自身のチャンネルに動画をアップしたり、また、9月2日には大学時代を過ごしたアナーバーのフェス、「Sonic Lunch」に出演した。
「Sonic Lunch」はテオがずっと出演しつづけていたフェス。久しぶりとなった元気なテオの姿に皆が喜ぶことになった。
この時はテオのバンドとしての出演だったので、ジョー・ダートも一緒に参加していた。ジョーのベースが聴けたのは実に1年ぶりだったので、この時はファンにとって非常に喜ばしいイベントとなった。
Instagramではジャックや関係者が集まって一緒に食事をする様子も上がっていたため、この頃から少しずつVulfpeckの活動再開に向けて動き出していたのかもしれない。
ちなみに2021年は、テオのソロ活動10周年にあたる。
これに伴って、10年前に初めてリリースしたソロ作、「Romance Without Finance(2011)」を、初のレコード化させた。当時は配信のみでレコードをプレスしなかったのである。
テオは他にも、居住地ロサンゼルスの友人バンド、Scary Pocketsのレコーディングに参加。
さらに「Woman Believer(Animal Spiritsなどを共作したクリスティーン・ハーカルのソロ名義)」や、Rett Madisonなどのレコーディングに参加した。
これらはどれもヴォルフペックファミリーが参加しており、ウッディやジョーのプレイも聴くことができる。
テオはやはり自身のソロ活動が中心となっていたので、2021年は彼の持つロックやカントリーなどの嗜好が反映されたプレイを多く聴くことができた。2022年の活動にも期待していきたい。
4. Woody Goss
ウッディは、テオも参加した「Woman Believer」のアルバムにプロデューサーとして参加。それ以外にも、ちょっとだけYouTubeやInstagramで活動を行っていた。昔の彼からは考えられない姿である。ウッディもちょっとずつ変わってきていると言えるだろう。
ちょっと画の力が強すぎて、腹筋が持っていかれる。
それ以外にも、9月に彼らしいアルバムをリリースしていた。趣味のバードウォッチングをテーマにした作品、「Rainbow Beach」だ。
これはウッディが住んでいるシカゴにある、ミシガン湖畔の「レインボー・ビーチ」の自然や、そこに集まってくる鳥たちをテーマにした作品で、内容としてはBGMや、ヒーリングミュージックに近い作風となっている。
他にも年末に、「A Very Vulfy Christmas(2019)」をレコード化。
また、自身の曲をシカゴの仲間たちとレコーディングして、動画としてアップしたりもしていた。Renee "Squeeky" Robinsonの歌声が素晴らしく、キャロル・キングや、70年代のソウルのような趣となっている。
5. The Fearless Flyers
フィアレス・フライヤーズは新しい活動こそ無かったが、非常に重要なアルバムと動画が公開された年となった。
2019年のマディソン・スクエア・ガーデンのライブである!!!
こちらに関しては、以前の記事に詳細を記したので、そちらをご覧いただきたい。
バンドとしての活動は無かったが、参加メンバーの個別の活動は行われていた。
マーク・レッティエリはアルバム「Deep: The Baritone Sessions Vol. 2」をリリース。こちらには楽曲「Voyager One」にネイト・スミスが参加。
そしてネイト・スミスは「Kinfolk 2」を、それぞれリリースしている。
6. 他のゲストメンバー
最後に簡単ではあるが、他の気になるゲストメンバーたちの近況をまとめて終わりとさせていただきたい。
◆Ryan Lerman
マディソン・スクエア・ガーデンのライブでカメラを担当したり、Vulfpeckに「Half of the Way」などで楽曲提供もしているライアン・ラーマンは、Scary Pocketsの活動が非常に盛んとなっている。
毎週Scary Pocketsとしてカヴァー動画を配信、さらに「PROFESSIONAL MUSICIANS REACT」という別チャンネルで、Scary Pocketsのメンバーとトーク動画も配信している。
もはや「Scary Pockets」というYouTuberと言えるレベルになっているため、活動を追うのが非常に大変だ。
トーク動画にはVulfpeckゲストのチャールズ・ジョーンズも出演しているので、興味があればぜひご覧いただきたい。
またScary Pocketsは、ジャズ・ファンクの巨匠、ラリー・ゴールディングスと一緒に「Scary Goldings」というジャズファンクバンドも組んでいる。
彼らは2021年の新作として、ジョン・スコフィールド、モノネオン、そしてルイス・コールを呼んだ、超豪華なアルバムを発表した。
◆Jon Batiste
2015年のテレビ共演で、Vulfpeckが有名になるひとつのきっかけをつくったジョン・バティステは、2021年は大きな飛躍の年となった。
自身が作曲に参加した、ピクサーの「ソウルフル・ワールド」のテーマ曲「It’s All Right」が、第93回米・アカデミー賞にて作曲賞&長編アニメ映画賞を受賞。
さらにリリースした「WE ARE(2021)」が、2021年グラミー賞で11部門にノミネートされ、最多ノミネートとなった。
ジョン・バティステはいま、もっとも注目されるアーティストのひとりになったと言えるだろう。作曲や歌唱力だけでなく、ピアニストとしても素晴らしい腕前を持つ彼。コリー・ウォンとの共演ではその力量を確認できるので、よかったらそちらもチェックしていただきたい。
7. おわりに
昨年よりもさらに悪疫が猛威を振るった2021年となったが、ついにアーティスト達も動き出しているのが、こうしたまとめから確認できると言えるだろう。
2022年はもっと大きな活動、そして国を超えた活動が観られることを願うばかりである。
最後に、今回紹介したアルバムなどから楽曲を抜粋したプレイリストを作成しておいた。よかったらこちらを聴いて、新しい年を迎える準備していただきたい。
それでは、今回も最後までお付き合いいただきありがとう。
来年が良い年になりますように…。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
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