KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、48回目の連載となる。では、講義をはじめよう。
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今回はVulfpeck(ヴォルフペック)のメンバー、
Joey Dosik(ジョーイ・ドーシック)について、どこよりも詳しく紹介する記事だ。
Joey Dosikは複数の楽器を操る、ソウル/ファンク系のマルチプレイヤー。
カリフォルニア州ロサンゼルス市のサンフェルナンド・バレー地域にある、ノースリッジで育ち、現在もロサンゼルスを活動の拠点にしている。(出典:Joey Dosik Interview | Vulfpeck - The Third Story)
過去にはクインシー・ジョーンズも自身のイベントにJoeyを出演させ、その才能を高く評価してきた。現在はVulfpeckだけでなく、Joeyのソロ活動も世界的に注目されている。
そんな彼は2023年12月13日・14日に、久しぶりのブルーノート東京でのライブが決定した。
これは2015年、2019年に次ぐ、3度目の来日となる。
今回はその来日を記念して、この現代のマーヴィン・ゲイとでも言うべき、稀代のシンガーソングライターについてたっぷりと語り尽くしていきたい。
それでは、始めよう。
Joey Dosikって?
Vulfpeckを聴いていると最初はベースやギターなど、分かりやすくファンキーな花形プレイヤーに耳を奪われてしまうかもしれないが、繰り返し聴いていくと、一人のプレイヤーがバンドに欠かせない存在になっていることに気が付くだろう。
彼はある時はサックスで、ある時はコーラスで、そしてある時は弾き語りで参加している。
そのどれもが素晴らしく、また、例えようもないくらい美しいことに気が付くのだ。
それこそが、Joey Dosikである。
Vulfpeckのメンバーは皆、音楽の神に愛された者たちばかりであるが、紛れもなくJoey Dosikのその一人であり――もしかしたら、その才能はメンバーの中でも一二を争うかもしれない。
それは音大の時代から学内のトッププレイヤーとして活躍していたという事実からも理解できるし、VulfpeckメンバーのWoodyが当時からその才能を高く評価していたということからも頷ける。
さて――先ほども述べたように、Joeyは多くの楽器(パート)でVulfpeckに参加している。
・アルトサックス
・コーラス
・キーボード(エレピ/ピアノ)の弾き語り
これだけ多くの才能を持つJoeyだが、Vulfpeckだけを観ていると、どれが彼のメイン楽器、本職なのか?というのが掴めない。
だが、それは彼のソロライブを観ればすぐに判明する。
それは、キーボード(エレピ/ピアノ)の弾き語りなのだ。
Joeyはこのスタイルを基本として、バックバンドにJoe Dart(Vulfpeckのベーシスト)などを加えながら、バンド/ソロでライブを行っている。
ちなみに2019年の来日もJoeが参加し、バンド形式でのライブとなっていた。
また作曲も行い、ピアノ/エレピなどを用いた弾き語りのシンガーソングライターとして、2023年までに4枚のアルバムをリリースしている。
そういった自身のスタイル・作曲についてはマーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイ、ビル・ウィザーズ、カーティス・メイフィールドなどの70'sソウルや、
キャロル・キングやハリー・ニルソンなどの影響があると語っている。
このあたりは実際に聴いてみると、Joeyのソロアルバムとの類似性がすぐに見てとれるだろう。
プレイスタイルもこれらの影響元と同様で、超絶技巧を用いたバッキングやアドリブ、ヴォーカルではなく、
シンプルかつ美しいメロディ、
それを支える丁寧で堅実なピアノ、
そしてソウルフルなヴォーカル
といったスタイルになっている。
実際、マーヴィン・ゲイの弾き語りと、Joeyのそれは驚くほど似ているため――誰かに例えるなら、Joeyは現代に蘇ったマーヴィン・ゲイのようだ、という表現がぴったりくるのではないだろうか。
もちろんそういった古典的なソウルの要素は強く持っているが、Joeyの歌声やグルーヴからは現代の香りもしっかりと感じ取ることができる。
そういった、古典と現代の融合がJoey Dosikの大きな魅力だと言えるだろう。そして、その魅力はVulfpeckというバンドにおいても全く同様である、というところが非常に面白い。
歌詞に関してもマーヴィン・ゲイ、キャロル・キングやハリー・ニルソンなどのように、シンプルな言葉を用いながら、詩的で美しいラブソングを多く書いている。
ただそれだけなら古典のレジェンド達と同じになってしまうが、Joeyは父親の影響でバスケットボールが大好きで、レイカーズの大ファン。そのため、歌詞や曲のテーマにはバスケットボールや、スポーツからの影響が多く現れており、それはJoeyだけが持つ彼のオリジナル要素だ。
さらにそういったバスケットボールをテーマにした自身のバラードを、Joeyはインタビューで「バスケットボール・ラブソング」と呼んでいる。
ちなみに……影響元の話に戻ると、意外なところではJ・ディラ、サンダーキャット、カマシ・ワシントンなどの名前も影響元として挙げている。
代表曲
それでは、ここから代表曲の紹介をしていきたい。どれもソウルフルかつ、素晴らしいグルーヴで、聴きごたえのある曲ばかり。
メロディやコードワーク、それらを支えるフックも素晴らしく、一度聴いたら忘れられないだろう。
① Running Away
こちらはJoeyの曲でもっとも有名なもののひとつで、ライブでもよく披露される定番曲となっている。
過去のロマンティックな恋について、美しいメロディと巧みな言葉選びで歌い上げる名曲。
いかにも70'sソウルといったメロディ、コードワークに、絶妙に現代的なグルーヴが混ざることで、Joeyらしい世界観が繰り広げられる内容となっている。
こちらはJoeyの活動初期から存在したオリジナル曲で、2012年の時点で、Joey、そしてJack Stratton、Theo Katzmanの3人で動画が作られていた。
その後、2016年にJoeyは自身のアルバム『Game Winner EP』にて「Running Away」を初レコーディング。
こちらはドラムにJack Stratton、コンガがTheo Katzman、ギターがTomek Miernowski(ミシガン大学の友人、Vulfpeckメンバーとも仲が良い)が参加している。
さらに翌年、2017年には、Vulfpeckにてレコーディングされた。
Vulfpeckのレコーディングでデヴィッド・T・ウォーカー、ジェームス・ギャドソンというレジェンドを迎えるにあたり、リーダーのJack Strattonはこの「Running Away」を選んだのだ。
この2大レジェンドを呼んだレコーディングが評判を呼んだことで、「Running Away」はJoeyの代表曲として大きな知名度を獲得することになった。
現在も、VulfpeckのライブでJoeyが弾き語るのはこの「Running Away」が定番となっている。
② Grandma Song
「Grandma Song」は、立ち位置が「Running Away」にとても良く似た曲。こちらも以前からあったJoeyのオリジナル曲で、Vulfpeckでのレコーディングが話題となったのだ。
もともとはJoeyが自分の祖母のことを歌った曲だったが、2017年のVulfpeckのレコーディングではAntwaun Stanleyが歌うことによって、Antwaunの祖母のこと歌っているかのような、カヴァーによって生まれるミラクルが起こっているのが興味深い。
こちらの曲も古典的なソウルがモチーフとなっており、Vulfpeckのレコーディングには「Running Away」同様、デヴィッド・T・ウォーカー、ジェームス・ギャドソンが参加した。
タイトルは最初は「Grandma」だったが、2018年のJoeyのアルバム『Inside Voice』でセルフレコーディングされた際に、「Grandma Song」と改名されている。
👆こちらはまだタイトルが「Grandma」だった頃にJoeyが弾き語りを行った動画。
③ Game Winner
「Game Winner」はJoeyを代表するバスケットボール・ラブソング。
Joeyがバスケットボールのプレイ中に前十字靭帯(ACL)を断裂するという、膝の大怪我を負ってしまい、その回復中、ACL再建術という治療を受けている時に書かれた曲だ。
これらのインタビューにあるように、このバスケットボールをテーマにして、古典/現代的なソウルを通してラブソングを書くという――バスケットボール・ラブソングというジャンル、これこそがJoeyの唯一無二のもので、ここに彼の作家性が凝縮されているとも言えるだろう。
実際に歌詞を読んでみても、バスケットボールの試合について歌いながら、同時にそれが恋愛の歌になっているのがとても興味深い。
「Game Winner」は2015年に、まず最初にVulfpeckでカヴァーされたバージョンがリリースされた。
VulfpeckのほうではCharles Jones(最近はScary Pocketsでも有名)が歌い、David T. Walkerがゲスト参加している。
その後、Joeyのオリジナルバージョンは2016年に『Game Winner EP』としてリリースされた。リリースは2016年だが、レコーディングは2015年に終えていたとBandcampには書かれている。こちらにもドラムにJack Stratton、コンガでTheo Katzmanが参加した。
2018年に『Game Winner EP』が数曲のリミックスを加えて、Secretly Canadianレーベルから『Game Winner EP (Deluxe Edition)』の名前で再発されたタイミングで、この曲はバスケットボールの試合をテーマにしたMVが撮影された。
ちなみに、このMVにはTheo Katzmanが出演している。(Joeyの左側👇)
④ Inside Voice
「Inside Voice」も、昔からあるJoeyの代表曲だ。こちらはバスケットボール・ラブソングではなく、シンプルに普通のソウル・バラードとなっている。
まさにマーヴィン・ゲイやダニー・ハサウェイなどのソウル・クラシックの名曲が持つ空気感をしっかりと兼ね備えており、メロディ・ハーモニー・グルーヴのどれもが非常に素晴らしい。
こちらは「Running Away」と同様に活動初期から存在する曲で、2013年にはJack Strattonがこの曲を披露するJoeyを撮影し、MVに仕上げている。
こちらはVulfpeckチャンネルで公開されており、内容もVulfpeckのMVのテイストに非常に近いので、Vulfファンは是非とも観ていただきたい。
その後はしばらくレコーディングされてこなかったが、JoeyがSecretly Canadianレーベルに所属し、彼自身の初のフルアルバムをリリースするにあたり、アルバムタイトルを『Inside Voice』にすることで、2018年に正式にレコーディングされた。
「Inside Voice」は2018年のこちらのライブ、Joe DartとTheo Katzmanが参加したテイクが素晴らしいので、未見の方は是非とも体験していただきたい。
経歴
経歴については幼年期から現在までを本人の言葉とともに網羅していくが、長くなってしまうため、次回の記事にまとめることとした。👇
―――――著者情報――――――
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク博士。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動しています。
「KINZTO」の活動と並行して、音楽ライターとしても活動しています。
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