ドラマ:妻、小学生になる。感想1-b

★第一話(その2:ママを失った2人のゾンビな日々)

 ドラマ開始4分までが『新島家の幸せの記憶』なら、4分半辺りからは、一家の太陽だった貴恵を失った『圭介と麻衣のゾンビな日々』が始まるのだが、ここの描き方が実に上手い。

 起きるなり、顔だけ洗ってロクに食事もせず、缶コーヒーを胃に流し込っむと、数日分の弁当がらをゴミ袋にまとめて「いってきま~す」と暗い声で呟くように口にして出勤する、肩を落とした圭介の背中。

 そんな圭介を気にも留めず、朝から自室にこもり、TVの前に座り込んでゾンビゲームをしている麻衣。

 そして、「うちのママは、10年前に…死んだ」という声に被るように、小さな仏壇と遺影が映り(そこまでは仏壇と認識できる状態では映らない!)雑草生え放題の家の外階段を圭介が降りて行く。車庫は空っぽだ。

 「それから、お父さんと私は、ゾンビになった…」という声をバックに、家の前をうなだれて歩く圭介と、10年前とは別人のように暗く、うつろな表情の麻衣…。

 1分半にも満たない短いシーンだが、貴恵が死んでからの10年間を、圭介と麻衣がどのように過ごして来たのかが如実に分かる。

 画面は圭介が勤める会社に移る。都会の一等地にあるらしい高層のオフィスビルで、圭介は、かなり良い会社に勤めているようだ。

 ここからの描き方も唸るほど上手かった!

 ビルの映像に、「今度来る新島さんって、システム開発部の副部長だった人ですよね?」という声が被る。

 『人事異動のお知らせ』という張り紙を見ながら、二人の若手男子社員、宇田と副島が話していたのだった。

 「ああ、役職外れたらしい。役職定年ってやつよ…」

 この二人の噂話を聞きながら、移り変わる様々な映像を見ているだけで、会社での圭介と、周囲の人間関係がごく自然に理解できるように工夫されている。

 そして、適度なギャグ要素も入る。このドラマはシリアスと笑えるシーンのバランスが絶妙に素晴らしい!

 宇田と副島が自販機スペースで、圭介や守屋さんの悪口を言っていると、まさにその守屋さんが外で立ち聞きをしていたりするのだ。
(怒らずに黙って聞いているだけの姿が見事な性格描写になっている!)

 そこに圭介が通りかかり、守屋さんは「新島さん!」と小声で止めるのだが、圭介の耳には届かず、そのまま自販機スペースに入って行ってしまう。

 悪口を言っていた二人は驚いてバツが悪そうにするのだが、圭介は全く気付いておらず、カップにコーヒーを入れると、再び自販機スペースから幽霊のように出て行く。

 思わず「ゾンビかよ…」と言ってしまった宇田に、かつての圭介の事を少し知っているらしい副島が罪滅ぼしのように語る。

 「新島さんって、昔はかなり優秀だったんだよ。人望もあってさ…。ただ、奥さん事故で亡くしてから、すっかり人が変わっちゃったらしい…」

 この話は、外で聞いていた守屋さんの耳にもしっかり届いていただろう。それが後の、守屋さんの圭介への思いへと繋がって行く。

 たった2分弱の間に、これだけ濃密な内容が描かれている。

 そして、寒々とした外のベンチでコーヒーをすする圭介の映像に、子供が走る足音が被る。

 息を切らせて土手を走る赤いランドセル。ツインテールの少女は、そのまま新島邸に向かう長い階段を駆け上り、誰かを追い越して、ふと立ち止まって振り返ると、それはすっかりやつれて老け込んだ圭介だった(※)。

 ドラマ開始からここまで、わずか8分。このテンポの良さったらない!

 しかも、これほどのテンポでありながら、慌ただしい感じは全くしない!

 そしていよいよここから、『妻、小学生になる。』の本編が始まる!

(※)この場面、怪訝そうに少女を見る圭介の顔がまるで『腑抜け』になっていて、何度見ても思わず笑ってしまうのだが、万理華の中の貴恵は、この圭介の姿に、かなりショックを受けたのではないかと思う。まるで別人のように老け込んでいただけでなく(姿が違うから仕方ないのだが)あの「私が大好き」だったはずの圭介から、他人を見るような目で見られたからだ。結局この『階段での再会』では貴恵は声もかけられず(思わず声をかけそうになったが、圭介の顔を見て絶句したのだろう)疲れた足どりで階段を昇って行く圭介の後ろ姿を見送るだけだった。

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