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オープンファクトリーを開催すると会社が強くなる!

株式会社田中務補(かねすけ)商店のたなかななです。

私たちは神戸市長田区で製造業を営む1964年創業の小さな町工場です。工場では毎日、【シャンク】という靴の中に入る鉄製の部品を作っています。そして日本で唯一【シャンク】を作っているのが、私たちの工場です。

今年、私たちは初めて工場の内部を一般向けに公開する《オープンファクトリー》というイベントを開催することにしました。オープンファクトリーはこの時期日本全国さまざまな地方で行われているイベントで、私たちが参加したのは神戸市主催の《開工神戸 KOBE OPEN FACTORY》です。神戸市長田区・兵庫区・須磨区の3区内で町工場を稼働させる33社が参加し、2024年11月8日と9日の2日間に渡り開催されました。

実はこの《開工神戸 KOBE OPEN FACTORY》ですが、昨年神戸商工会議所より「参加してみませんか?」というお声をいただいたものの、お断りした経緯がありました。当時お誘いをいただいた時、経営陣はこんな風に捉えていました。

  • うちの工場に興味を持ってきてくれる人なんているはずがない。やっても誰もこないよ!

  • そもそも従業員が賛同してくれるはずがない。だれも協力してくれないよ!

  • そんなことやって会社に何のメリットがあるの?時間とお金を費やす余裕はないよ!

後ろ向きで視野が狭く、従業員を信じきっておらず、会社の利得のことしか考えられていない、お恥ずかしい限りの考え方でした。

ではなぜ、このような考えを改め、今年私たちはオープンファクトリーを開催することに決めたのでしょうか。そして、「来年もまた開催したい!」と思うに至るまで、成功を実感することができたのでしょうか。

今日は、私たちがオープンファクトリーに参加した経緯、当日までの準備、そして当日の様子について赤裸々にお話したいと思います。

私たちの事例が他の企業や組織のみなさんのイベント開催に際して、何かしらのヒントになれば嬉しいです。


オープンファクトリー開催を決意

私たちは1964年創業以来、会社内部をお客様にも同業者にも一般の方にも一切お見せしない主義でした。創業者である先代がゼロからこの会社を立ち上げて、死にもの狂いで守ってきた会社でしたから、会社の情報を競合に知られることに恐れを感じていたのです。しかし、現在私たちはたった一社だけ残った《シャンク》メーカーで、このまま内部を非公開にする理由はもうありません。それより、国内の靴産業が年々縮小の一途を辿る中、私たちだけが生き残りをかけて自分たちの仕事にベールをかけていていいのだろうかと疑問を感じていました。

それと同時に、業界を問わず様々な会社と関わりを持つ中で、工場を持つメーカー数社が実践していた魅力的な共通の取り組みに興味を持ちました。その共通の取り組みが《工場見学》でした。この note の過去記事『町工場に元気を!働くみんなに愛を!』の中の【来てもらって強みを知る】の項で書かせていただきましたが、《工場見学》を受け入れるとお客様の何気ない一言から自分たちの強みに気づくことができます。強みを知ることで、その強みに基づいた製品品質のさらなる向上や、強みを活かした新製品の開発などにつなげることができます。工場を公開することで得られるメリットとしては非常に大きいと感じました。私たちの心は、《工場見学》実施に向かい始めました。

そして今年も《開工神戸 KOBE OPEN FACTORY》開催が決まったとの知らせを受け、参加をするならば目的を定めようと以下の3つの目的を先に決めました。

  1.  地場産業【靴製造】に欠かせない部品『シャンク』の存在を一般の方達に知ってもらい、多くの技術と歴史が詰まった「国産靴」の価値を高め、日本製の靴を買ってくれる人を1人でも増やす

  2.  【靴製造】に関わる企業とつながりを作る

  3.  【靴製造】とは無関係のパーティーグッズ(ドリームキャンドル)も作る異色のおもしろい製造企業が神戸・長田にあると知ってもらう

目的がはっきりと定まったので、いざ《開工神戸 KOBE OPEN FACTORY》への参加を決意したのでした。

撃沈!初回スタッフミーティング

神戸市への申し込みを済ませてまず最初に実施したのが、パートさんも含めたスタッフ全員ミーティングでした。

その場で私より開口一番に「オープンファクトリーというイベントに参加したいと思います!」と伝えた時の ”シーン” のなった瞬間は今でも忘れられません。第一回目のミーティングでは、オープンファクトリー参加の目的を話すのが精一杯でした。最後に実行委員を募集したものの、誰からも手が挙がることなく、切ない気持ちのままミーティングを終えました。

開催まで2ヶ月を切った頃

開催まで2ヶ月くらい余裕があった頃は、準備といえばまだ"頭の中でのイメージング"と"Tシャツ作り"くらいでした。経営陣としては文化祭のようなノリでやりたいという思いがあったので、学生のようにお揃いTシャツを作りました。ちなみにデザインしたのは社長です。このTシャツはスタッフからも好評で、「オープンファクトリーで販売しては?」という意見まで出ました。そして実際販売し、ご注文をいただきました!

前面にオリジナルキャラクター"シャンくん"をプリントしたTシャツ

開催まで1ヶ月

いよいよ私たち経営陣にも焦りが出始めました。そもそも、私たちはオープンファクトリーを味わったことがありません。そこで、ちょうどオープンファクトリーシーズンだったということもあり、関西圏で開催されていたオープンファクトリーを回ってみることにしました。実際に体験したオープンファクトリーは、大阪・八尾市界隈で開催されていた《ファクトリズム》と兵庫・西脇市開催の《もっぺん》です。

《もっぺん》で訪れたのは、整形靴を作る工房『セントラルフットウェアサービス』さん。整形靴という分野は全く知識がなく、知りたいという好奇心から訪問してみました。高い技術で非常に洗練された靴を作るオーナーさんと話をさせていただくと、なんと弊社が今年オープンファクトリーを開催することを知っていらっしゃり実際ご訪問くださるおつもりだったというのです。嬉しくて、舞い上がってしまいました。

他社さんの取り組みから勉強をさせていただき、自分たちのオープンファクトリーをどう実施するかをより具体的に考えるよい経験となりました。

全員で準備

開催まで3週間を切ったあたりから、スタッフ全員ミーティングを重ねることにしました。初回では"シーン"となったミーティングも、2回・3回と回を重ねるに従って、スタッフそれぞれから意見が出始めました。

  • (上述したように)Tシャツを販売してはどうか

  • お待ちいただくスペースが必要ではないか

  • 来場者数を記録してはどうか

  • 危ないところには入れないように工夫すべきではないか

などなど。経営陣だけでは気づくことができないような、現場をよく知っているスタッフたちからの貴重な意見でした。

そして、社長が考えたゲーム『シャンくんを探せ!』についてみんなに意見をうかがうと、みんなとても楽しそうに「ああしよう、こうしよう」と意見出しが活性化したのを覚えています。
(※"シャンくん"はシャンクの形をした弊社オリジナルキャラクター)

工場内の7箇所に隠した"シャンくん"を来場者に探してもらうゲーム

『シャンくんを探せ!』に使用する工場MAPは、絵が得意な私の娘に描いてもらいました。手書きの温かみがあるMAPができました。

ご来場の方へ配布し、ほぼ全員の方がゲームに参加

7体の"シャンくん"は、スタッフみんなで工場内の7箇所に設置しました。本番を迎える前に、全員でMAPを片手に"シャンくん"を探すテストをワイワイと楽しみながら3回実施しました。難し過ぎる箇所を修正したり、MAPのわかりにくさを改善したり、このゲームについても全員でどんどんアップグレードさせていきました。

なんとスタッフがPR動画に出演してくれた!

今年の6月よりYouTubeチャンネルを開始していたこともあり、オープンファクトリーの情報についても動画で配信するつもりでいました。そのことをスタッフに伝えると、スタッフが動画へ出演してくれることになりました。動画では、弊社へのアクセス方法、『シャンくんを探せ』ゲームについて、社長からのメッセージ、そしてオープンファクトリーでご覧いただけることについて発信しました。《開工神戸OPEN FACTORY2024》というタイトルをつけたYouTube動画の再生リストには合計13本のショート動画をアップロードすることになりました。リストの中でも特に人気だったのは、工場長がシャンクを作る工程を説明する動画でした。

当日を迎える

オープンファクトリー前日午後からみんなで準備することになっていましたが、スタッフから「ソワソワするから午前中から準備したい」という声もあがり、それぞれのペースに合わせて準備を開始しようということになりました。前日準備を進める中でも、スタッフたちそれぞれが気づいたことは細やかに修正してくれました。そしていよいよ本番の日を迎えることになったのでした。

《開工神戸OPEN FACTORY》1日目の一番のりは、地元FMラジオ局Kiss FMのフリーマガジン『Kiss Press』の記者さんでした。以前よりアポイントをいただいており、オープンファクトリーの様子を記事にしたいとのことで、取材をしていただきました。

その後ポツポツとご来場くださる方が続きました。1日目は平日だったこともあり、お仕事をされている男性のお客様が多かった印象です。靴産業に関わっている方、製造メーカーの方、機械や製造現場に興味を持つ方などで、みなさん経路に沿ってじっくりと機械をご覧になったり、職人の説明に耳を傾けてくださいました。平均するとお一人につき45分くらいはご滞在くださったと思います。ほぼ全てのお客様が『シャンくんを探せ』ゲームにチャレンジしてくださり、景品の"シャンくんキーホルダー"をお持ち帰りなさいました。まだまだ知名度の低いオリジナルキャラクター"シャンくん"ですが、『シャンくんを探せ』ゲームをしていただいたことで親近感を感じてくださったのか、キーホルダーをゲットした皆さま一様にとても喜んでくれました。

"シャンくん"のキーホルダー

神戸市今西副市長も応援に駆けつけてくださいました。初めてお会いいたしましたが大変優しく気さくな方で、このような温かい副市長がいる神戸だからこそ、企業サポート体制も整っていてビジネスがしやすい街なんだと実感しました。

終始笑顔の今西副市長(右)と弊社社長(左)

2日目の土曜日は、1日目よりも女性のお客様が多かったです。1日目と同様すぐに帰られる方はいらっしゃらず、じっくりと工場内をご見学くださっていました。2日目もありがたいことに『シャンくんを探せ』ゲームと"シャンくん"のキーホルダーは大好評でした。

工場見学ルートの途中に撮影スポットを用意したのですが、残念ながらほとんどの方が素通りでした 笑)。しかし2日目に2組だけご家族連れがいらっしゃり、そのお2組ともに撮影スポットでの撮影をお楽しみいただけたのが嬉しかったです。


フォトスポットで撮影を楽しむ社長

3つの目的について

上述のように、私たちは今回のオープンファクトリーを開催するにあたって3つの目的を定めていました。それぞれの結果を検証してみたいと思います。

 1. 地場産業【靴製造】に欠かせない部品『シャンク』の存在を一般の方達に知ってもらい、多くの技術と歴史が詰まった「国産靴」の価値を高め、日本製の靴を買ってくれる人を1人でも増やす

結果:この課題の結果を実質的な数値として計測することはできませんが、ご来場くださったお客様にシャンクの存在を知っていただき、私たちが人の手と目でしっかりとシャンクの品質を守っていることをご確認いただき、安心してメイドインジャパンの靴を履いていただける一助になったことは間違いないと自負しています。そして、あるご来場者さんがこう言ってくださったことは、私たちの大きな励みになりました。

「これからはシャンクが入っている靴を買おうと思いました!」

 2. 【靴製造】に関わる企業とつながりを作る

結果:今回のオープンファクトリーでは、神戸市長田区の靴関係の会社さんも数多く工場を公開されておりましたので、私たちも合間を見て訪問させていただこうと考えてみました。しかしながら嬉しい悲鳴ではありますが、弊社へご来場のお客様が途切れる時間帯がほぼほぼなく、スタッフ数名で訪問が叶ったのが東商店さん1社だけでした。東商店さんは私たちの古くからのお客様で、靴の中底を製造するメーカーさんです。私を含めた4名で訪れたのですが、実際に靴の中底を抜く様子などをじっくり見させていただいたのは初めてで、職人さんの手捌きに大変感動しました。結果として、数多くの靴製造企業と交流を持つことは叶いませんでしたが、オープンファクトリーを口実に今後も我々の方からコンタクトをとってお話する機会を持っていきたいと考えています。


 3. 【靴製造】とは無関係のパーティーグッズ(ドリームキャンドル)も作る異色のおもしろい製造企業が神戸・長田にあると知ってもらう

結果:これは非常に実感がありました。町工場の2階の一番奥にピンクの壁のかわいいお部屋『ドリームキャンドルルーム』が登場すると、みなさん一様に驚いていらっしゃいました。"シャンク"と"ドリームキャンドル"という全く異なる商材を作っている私たちの姿に、みなさん興味津々でした。最後にドリームキャンドルをお買い上げくださる方もたくさんいらっしゃり、この課題は達成できたことを実感した次第です。

ピンクの壁の『ドリームキャンドルルーム』

最後に

最初は正直うまくいくのか不安だったオープンファクトリー開催でしたが、無事に2日間の日程を終えた後のスタッフミーティングで工場長が来年の開催について言及したのには驚きました。

明後日は、スタッフ全員で打ち上げ兼反省会を実施する予定です。こんなふうに1つのイベントを通して、準備の段階からコミュニケーションを深め、工場公開という初めての経験を味わい、お客様と触れ合い、打ち上げ兼反省会で盛り上がるという一連の経験ができることは、企業にとってこの上ない成長のチャンスでした。去年「オープンファクトリーに参加しませんか?」とお誘いされた時に感じた3つのネガティブな考えは、すべて無駄な杞憂でした。

  • うちの工場に興味を持ってきてくれる人なんているはずがない。やっても誰もこないよ!→実際は:たくさんの方に喜んでご見学いただきました。

  • そもそも従業員が賛同してくれるはずがない。だれも協力してくれないよ!→実際は:みんながいろんなアイデアを出してくれて、協力しあってイベントを成功へ導いてくれました。

  • そんなことやって会社に何のメリットがあるの?時間とお金を費やす余裕はないよ!→実際は:スタッフみんなの結束力・アイデア力・コミュニケーション力がとてつもなく向上しました。時間もお金もかけて大正解!何一つ無駄はありませんでした。

もちろん次の目標は
\アップグレードしたオープンファクトリーを来年も開催する!/
です。

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【田中務補商店】
兵庫県神戸市長田区苅藻島町3−12−24
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