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人生革命セミナーの闇 序章: 紹介者とセミナーへの参加1

不安を抱える日々

工場の騒音が耳に残る帰り道、田中一郎は重い足取りで歩いていた。22年間勤めてきたこの会社も、最近では様子が違っていた。

「おい、田中。今日も残業か?」
後ろから声をかけられ、田中は振り返った。同期入社の鈴木だった。

「ああ、まあな。仕事が減らない分、一人あたりの負担が増えてるからな」
田中は苦笑いを浮かべながら答えた。

鈴木は顔をしかめた。「そうだよな。最近、会社の雰囲気も悪いし。お前も気をつけろよ」

「ああ、分かってる。じゃあな」
田中は軽く手を挙げて別れを告げた。

家に帰る途中、コンビニに寄って夕食を買う。妻の美香とは10年前に離婚し、今は一人暮らしだ。冷えたおでんと缶ビールを手に取りながら、田中は溜息をついた。

アパートに戻り、テレビをつけっぱなしにしながら食事を始める。ニュースでは景気の悪化が報じられていた。

「景気回復の兆しは見られず、多くの中小企業が厳しい状況に置かれています」

アナウンサーの声に、田中は箸を止めた。自分の会社のことを言われているようで、胸が締め付けられる。

翌日、会社に向かう電車の中で、田中は給与明細を眺めていた。ここ数年、右肩下がりの数字に目を背けたくなる。

「田中さん、おはようございます」
若手社員の佐藤が声をかけてきた。

「ああ、おはよう」
田中は慌てて給与明細をかばんにしまった。

「田中さん、最近どうですか? 僕、何だか会社の雰囲気が重くなってきてる気がして...」
佐藤の声には不安が滲んでいた。

田中は一瞬言葉に詰まった。若手に不安を与えてはいけない、そう思いながらも、嘘をつくこともできなかった。

「まあ、景気が悪いからな。でも、俺たちにできることは、目の前の仕事をしっかりやることだけだ。あまり考えすぎるなよ」

佐藤は少し安心したような表情を見せたが、田中の胸の内はますます重くなっていた。

会社に着くと、すぐに朝礼が始まった。工場長の顔は硬く、いつもの軽口も聞かれない。

「皆さん、聞いてください。今月の生産数は前年比20%減です。このままでは...」

工場長の言葉が途切れた。田中は周りの表情を窺った。みな、俯いている。誰もが感じていた不安が、現実味を帯びてきたのだ。

昼休憩、田中は一人で弁当を食べていた。隣のテーブルでは、若手社員たちが小声で話し合っている。

「ねえ、本当に会社って大丈夫なのかな?」
「俺、転職のこと考え始めてるんだ...」
「えっ、マジで? でも今さら他に行けるところあるのかな...」

その会話を聞きながら、田中は自分の状況を考えた。40代半ば、特別なスキルもない。今さら転職なんて...

仕事が終わり、田中は再び重い足取りで帰路についた。家に帰っても、テレビをつけっぱなしにして、缶ビールを開ける日々。この先どうなるんだろう。そんな不安が、日に日に大きくなっていく。

スマートフォンを手に取り、何気なくSNSを開く。そこには、華やかな生活を送る旧友たちの投稿が並んでいた。海外旅行に行った写真、高級レストランでの食事、新車を購入したという報告...。

「俺だけが取り残されているのか...」

田中は画面を消すと、天井を見上げた。このままでは...。そう思った瞬間、スマートフォンに通知が入った。見覚えのない名前からのメッセージだ。

「人生を変えたいあなたへ...」

田中は思わず画面をタップした。

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