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人生革命セミナーの闇 第4章: SNSコミュニティでの出来事1
毎日の自撮り写真アップロード
南由紀子の「アセンションコース」を終えた田中一郎は、さらなる指示を受けていた。それは、毎日自撮り写真をSNSにアップロードするというものだった。
「毎日の自撮りが、あなたの波動を上げ続けるの。そして、周りの人もその変化に気づくわ」
南の言葉を思い出しながら、田中は恐る恐るスマートフォンを手に取った。
「よし、やってみよう」
鏡の前に立ち、おずおずとカメラを向ける。しかし、なかなか納得のいく写真が撮れない。
「こんなの、アップロードなんてできない...」
30分近く悪戦苦闘した末、ようやく一枚の写真を選んだ。笑顔を作ろうとしているものの、どこか無理をしているように見える表情だ。
投稿する手が震えている。「これで本当にいいのだろうか...」
深呼吸をして、投稿ボタンを押した。
「今日から、新しい自分に生まれ変わります! #波動上昇 #自己啓発 #毎日投稿」
投稿してすぐに、「いいね」がつき始めた。コメントも次々と寄せられる。
「素晴らしい決意ですね!」
「田中さん、その調子です!」
「毎日の成長が楽しみです」
これらの反応に、田中は少し安心した。「意外と好評かも...」
しかし、翌日になると新たな不安が襲ってきた。「また写真を撮らないと...」
2日目、3日目と続けるうちに、田中は自撮りのコツを掴み始めた。角度や表情、背景にも気を配るようになる。
「今日も一日、感謝の気持ちを忘れずに過ごします #感謝 #ポジティブ思考 」
投稿を重ねるごとに、フォロワーが増えていく。知らない人からも「いいね」がつくようになった。
1週間が経ち、田中は南にメールを送った。
「毎日の自撮り、続けています。反応も良いようです」
南からの返信はすぐに来た。
「素晴らしいわ、田中さん!あなたの波動が日に日に上がっているのが感じられるわ。これからもっと良いことが起こるはずよ」
その言葉に勇気づけられ、田中は更に熱心に自撮りに取り組むようになった。
しかし、2週間が過ぎた頃、新たな問題が浮上した。
「今日も素敵な一日になりますように #朝活 #自己啓発」
いつものように投稿したその日、職場の同僚から声をかけられた。
「田中さん、最近SNSの投稿増えましたね。何かあったんですか?」
田中は言葉に詰まった。「あ、いや...その...」
同僚は不思議そうな顔で続けた。「毎日自撮りって...大丈夫ですか?」
その言葉に、田中は急に恥ずかしくなった。職場の人にも見られているんだ...。
家に帰ると、幼なじみの健太から電話がかかってきた。
「おい、一郎。お前、大丈夫か?」
「え?どうして?」
「いや、最近のSNS見てたらさ...なんかヤバい宗教にでも入ったんじゃないかって心配になってさ」
田中は言葉を失った。親友にまで心配されるなんて...。
しかし、翌日も田中は迷いながらもカメラを向けた。
「やめるわけにはいかない。これは自分を変えるためなんだ」
そう自分に言い聞かせながら、笑顔を作る。
投稿すると、いつものように「いいね」がつく。しかし、今までのような高揚感はない。むしろ、虚しさが込み上げてきた。
その夜、久しぶりに実家の母から電話がかかってきた。
「一郎、元気にしてる?」
「ああ、元気だよ」
「そう...それならいいんだけど...」
母の声には心配の色が滲んでいた。
「どうしたの?」
「いや...最近のSNS見てたらね、ちょっと心配になって...」
田中は胸が締め付けられる思いだった。母親にまで心配をかけてしまっている。
電話を切った後、田中は長い間鏡の前に立っていた。スマートフォンを手に持ちながら、自分の顔をじっと見つめる。
「本当に...これでいいのか?」
疑問が湧き上がる。しかし、一方で南の言葉も頭をよぎる。
「毎日の自撮りが、あなたを変えるのよ」
悩みながらも、田中は再びカメラを向けた。しかし、今日はなかなか笑顔が作れない。
結局、その日の投稿は深夜近くまでずれ込んだ。
「今日も一日お疲れさまでした #感謝 」
投稿した後、田中はため息をついた。これが本当に自分を変えることになるのか、それとも...。
答えの出ない疑問を抱えたまま、田中は眠りについた。