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バイオ・アートとしてのM&Aと美意識

M&Aの会社やってます。

はじめての人に会社紹介でこういう話をすると、心を硬くする人たちがいます。なんとなく一歩引かれたり、警戒されたり。やはりこういった領域は、資本主義特有の生臭さ、拝金主義的なイメージがあるのでしょう。実際、冒頭に続いて「企業価値は..」「マルチプルは..」「キャピタルゲインは..」みたいな普段耳にしない経済用語がたくさん出てくるので、さもありなんという感じでもあります。
ただ、自分は今営むソーシャルM&A事業「GOZEN」を、単なる会社という金融商品の売買事業ではなく、一つのアートだと思っています。資本主義をキャンバスにして、資本主義の言葉で描くアート。ドイツのアーティスト、ヨーゼフ・ボイスが言うところの「社会彫刻」です今回はそのあたりの話を書いてみます。

有機体と人工物の美しい融合を描き出すアート

自分の好きな現代美術家に、AKI INOMATAさんという現代美術家がいます。代表的な作品の一つは「やどかりに「やど」を渡してみる」というもので、3Dプリンタで造形した世界の都市を模した複数の「やど」をやどかりに渡し、その引越しの様子自体を作品として捉えるというもの。

(※画像はご本人のサイトより)

このようなアートはバイオ・アートと呼ばれ、「生体組織・バクテリア・細胞・生命プロセスといったバイオテクノロジーを活用したアートで、生命という題材を用いながら、私たちに未来の新しいビジョンを提示し、同時に魂の在り処について疑問を投げかけるもの」(こちらから引用)であるとされます。
こう書くと難しいですが、自分はこの作品を見た時、単純に見た目がとても美しいなと思いました。人工的で清潔感がある透明なオブジェを、よく見ると少し愛嬌のある顔をした赤褐色の生物が背負っているというフォルム自体が。
AKI INOMATAさんはこの作品について、「この作品を通して、日本人という自分たちの国籍、住む場所が変化しうるものであること、自分のアイデンティティが変化することを考えられるようになるのではないか」「生物とのコラボレーションを通して、こちら側が変わらなければならないこと、予想もつかないことが起こることで、コンセプトがドライブしていく感覚がある」(※こちらの内容を元に筆者意訳。)と話していますが、GOZENも、このような営みとしてありたいと思っています。ファウンダーの美意識や想いを、オペレーションの改善や数字のシュミレーションと融合させて別のやどにつなぎ、新しい美を産んでいく。透明な都市を背負うやどかりの美しさを体現したいなと思っています。

法人という有機体を営むこと

企業は、法「人」です。つまり、バーチャルではあるものの、生命を持った有機体であると想定されています。これは言葉からのイマジネーションだけでなく、実際に経営をしてみるとつくづく思います。自分は零細企業の運営しかしたことがないけれど、電気製品のように、壊れたらこのパーツを取り替えたらまた動く、モーターをいいやつに取り替えたら早く動く、みたいなものでは全くない。意思や感情、多種多様なフィードバックループを持つ、複雑系です。同じ個体は二度とない。生物の種としては他にたくさんいるけれども、作品を共に創り上げたやどかりが唯一無二であるように。それを尊重しながらも人工的に介入して、より美しい連なりを産んでいきたい。新しいやどを探し、引越しができるようにサポートしていていきたい。ただの切った貼ったではない、美しさを宿しながら。

存在するだけで美しい営利企業を世の中に増やすこと

数年前「who said ETHICAL is not SEXY?」をコンセプトにした、INHHEELSというエシカルファッションのブランドに携わっていました。

様々な成り行きがあってブランドは終了していますが、自分の知る限り、その後日本で同じトーンのブランドは出てきていない。これは、エシカルファッションの中で多様性が一つ損なわれた状態だと思います。そこにはもちろんニーズや市場が想定以上になかった、小さかったということもある。ただ割と長い間中にいた人間として思うのは、事業もやど探しも同時に頑張れたら、もしかしたら別のやどが見つかってかもしれないな、ということ。そうしたら社会や文化の中の一つの多様性を維持できたのではないかな、ということです。

逆に現在自分がCEOも務めるボディポジティブなランジェリーブランドfeastは、同じく様々なハードシングスに直面しながらも、創業者のハヤカワ五味さんの会社株式会社ウツワからM&Aをして別会社へ「やど」を移し、現在再度の事業拡大の波を掴もうとしています。シンデレラバスト専用のランジェリーブランドも未だ存在せず、小さいながらもブランドの多様性に貢献できている部分もあるかな、と思います。

こんな体験を背景に、自分はGOZENを作りました。ファウンダーの美意識で立ち上がった事業を資本主義マーケットの中で在り続けさせること。それが自分の琴線に触れる美しさです。

浪漫と算盤、自分は算盤を武器にする

一方で、それは想いだけでは全く成立しない。M&Aのベースとなる財務諸表的な思考であれば、企業とはBSの借方に「ヒト・モノ・カネ」といった資産をぶち込むと、PL借方で現れる営業利益を絞り出される現金製造機です。その資本効率と規模感で製造機としての性能が問われ、その企業価値が決まってきます。
素敵なスモールビジネスで現れるファウンダーの想いやブランドの美しさは、売却時には「のれん」という金銭的価値として出現するけれど、決算時には「無形資産」という名のもとに、財務諸表には反映されない。高い営業利益率という形で間接的に現れることはあっても「資産」としては見なされないわけです。でも、財務諸表的には価値があると見なされなくても、社会とか文化にとって意味があるのはそこしかないだろうと思います。こんなに小難しく考える必要はないのかもしれないし、小商い的な形で距離をとるのも一つの選択肢。でも、それをやれる人、やる人はたくさんいるから、自分がわざわざそれをやる必要はない。だって、自分にとって事業はアートだし、他の人がすでに描いているものを再度描くことに、なんの面白みも感じないから。ザ・資本主義的な企業価値にも向き合いながら、クリエイターの美意識が炸裂したスモールビジネスがプレゼンスを発揮して百花繚乱に咲き乱れる、美しい市場作りに貢献したいと思います。

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