あなたのゴールはどこですか?
最近、山登りを始めようと思い、山の専門店に登山靴を買いに行きました。登山靴と一言で言っても、すごくたくさんあり、どれを買ったら良いのか迷ってしまいます。店員さんといろいろ相談して、お気に入りの登山靴を買うことができました。その時店員さんに
「目指すのはどの山ですか?そこに登るのでしたら、この登山靴が良いですね。」
とアドバイスをいただけたのです。
40代後半の女性が、お姉さんの紹介で当院にいらっしゃいました。お口の中を拝見すると、あらま、40代女性?歯が無い、1本、2本ではなく、10本くらい無い。そして歯ブラシをしたことがないのか、歯周病も全体的に進行していました。抜かないといけない歯も何本もあり、これはただ事ではないな、長期戦を覚悟しないといけない、と思い、担当の衛生士と治療計画を立てて、基本的な処置から始めていくことになりました。
どうして、このような状況になったのか、原因は細菌感染であること、プラークコントロールの重要性などを説明して、処置を行いました。ところが、何度口腔衛生指導を行っても、なかなか上達しません。よくよくお話を伺いますと、
「実は、私、何も困っていないんです!」
そうか、そういうことだったのか!つまり、お姉さんや我々から見ると、見た目もよくないし、奥歯がないから咀嚼も十分にできないし、このままだと、総義歯になってしまうかもしれない、と思うけれど、ご本人に主訴がなかったのです。いくら我々が、あーしろ、こーしろと言っても、そりゃ、やる気になりませんよね、だって今のままで良いのですから。
僕たちは、大学での専門的な教育を受け、学会や卒後研修で様々なことを学びます。そうすると、いわゆる理想的な咬合とか、理想的な処置方法とかをたくさん知ることになるので、最終ゴールが見え、そこに向けて突き進もうとします。だけど、一緒に治療していく患者さんが、目指しているゴールが違うと、本当のゴールにはたどり着けないのです。
「あなたは、どうなりたいのか?どんな口腔内環境を目指したいのか?」
人間は自由であり、常に自分自身の選択によって行動すべきものである。
ーサルトルー
治療のゴールを、医者が勝手に決めてしまってはいけないのです。
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